(1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2005年9月20日〜11月15日、2006年3月1日〜3月31日, 派遣国: イスラエル
(1) インテイファーダ期東エルサレムにおけるパレスチナ人の抵抗―「聖地の空間」をめぐる記憶のポリティクス
飛奈裕美 (東南アジア地域研究専攻)
キーワード: インテイファーダ期,東エルサレム,パレスチナ社会,「聖地の空間」,記憶のポリティクス


エルサレム旧市街アル=ワード通りにある商店。「岩のドーム」と「アル=アクサー・モスク」の写真を用いた「イスラーム的」な看板を掲げている。

アル=ブラーク・レストランで使用されているテーブル・マット。預言者ムハンマドが夜の旅の際に乗ってきたと伝えられるブラークが描かれている。
(2) 本研究の目的は、旧市街を中心とする東エルサレムのパレスチナ社会に着目し、 「物理的暴力」によらない占領と抵抗のあり方を明らかにすることである。既存研究は、「物理的暴力」による占領と抵抗に着目してきたが、それは占領の「暴力性」と 抵抗のあり方の一面的な捉え方にすぎない。また、「物理的暴力」による占領と抵抗に注目した研究は、「『ユダヤ人』対アラブ・ムスリム」「宗教対立」といった 本質主義的な言説構造を十分に批判できず、「占領と抵抗(占領下の諸問題とそれへの対応)」という問題構図は、「対等な二者の抗争」に置き換えられてしまった 印象がある。本研究は、東エルサレムのパレスチナ社会に着目することで「占領下の諸問題とそれへの対応」という構図を維持し、本質主義的言説構造の批判と 東エルサレムという「占領地」の特殊性を軸にして「物理的暴力」によらない占領と抵抗のあり方を明らかにすることを目指す。

(3)  エルサレム旧市街のパレスチナ社会における「物理的暴力」によらない占領と抵抗の両方に迫るために、フィールド調査に軸足をおいた実証的研究を 東エルサレムで行った。その結果、以下のことが明らかとなった。

  1. エルサレム旧市街のパレスチナ社会が把握する「占領下の諸問題」とそれらへの「対応」:
    エルサレム旧市街のパレスチナ社会では、「税金」「居住権」などの 「物理的暴力」によらない占領政策とそれへの対応が最も大きな問題であることが明らかになった。これらは、日常生活に密接に関わる非常に具体的な問題である。
  2. 「占領地」である東エルサレムのパレスチナ社会での「物理的暴力」によらない占領と抵抗を研究するための分析枠組の提示:
    東エルサレムのパレスチナ社会が把握する占領下の諸問題とそれらへの対応は、イスラエルの「占領地」であるという特殊性と密接に関連している。 東エルサレムのパレスチナ社会における「物理的暴力」によらない占領と抵抗を研究する際、「『エルサレム住民であること(Jerusalemites Identity)』の特殊性」が 分析概念として有効である。

 
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