(1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2006年1月23日〜2006年5月22日, 派遣国: タンザニア
(1) タンザニアにおける元狩猟採集民サンダウェの社会変容に伴う環境利用の変化に関する研究
八塚春名 (アフリカ地域研究専攻)
キーワード: 東アフリカコイサン語族,集村化,植生,社会変容,農耕


タンザニア中央部にのみ広がる特徴的なイティギ・シケット

乾燥保存されている半栽培植物
(2) 本研究が対象とするサンダウェは、タンザニア北部に居住するハッザと並んで、東アフリカに居住するコイサン語族である。彼らはもともと移動しながら狩猟採集を基盤とする生活を送っていたと言われているが、19世紀末には定住して農耕と牧畜に従事していたという報告がある。1971年にはタンザニア政府によって集村化政策が実施され、現在は多くの世帯が道路沿いに住居を構え、農耕を基盤とする生業活動を営んでいる。本研究は、このように様々な社会変容を経験してきたサンダウェ社会において、自然環境およびその利用に関する変容に焦点をあてた調査を行うことにより、この社会の変容と生態史を総合的に捉えることを目的とする。

(3) 今回の派遣では、2006年1月23日から5月22日までドドマ州コンドア県のファルクァ村におけるサンダウェの環境利用について、特に現在、彼らの生業活動の中心となっている農耕による環境利用を明らかにすることを目的として現地調査を実施した。調査内容と結果は以下の3項目である。

  1. 調査村での環境の特徴を把握するために植生調査を実施した。サンダウェは、村周辺の植生には主に4つの種類があると言う。そこで、植生調査は4つの植生タイプそれぞれを代表する場所で行った。その結果、調査村は主に彼らが言う4つの植生にわけることができた。それらは植生調査と土壌分析の結果、Trapnell(1962)を参考にすると、イティギ・シケット、ミオンボ林、コミフォーラ・シケット、草湿地に相当する。
  2. 農耕については、耕地面積や栽培作物を調査し、さらに収量や畑の移動の歴史に関する聞き取りを行い、1.で調査した植生と畑との関係を検討した。その結果、彼らはそれぞれの植生ごとに作付け体系を変化させていた。すなわち、トウジンビエのようにサンダウェ社会で古くから栽培されていた作物はイティギ・シケットとミオンボ林に作付けされる傾向にあり、また、トウモロコシのように比較的近年に導入された作物はアカシア・コミフォーラ林と季節湿地に作付けされる傾向にあった。これらの使い分けは、作物の生理的特徴、土壌条件、鳥害の程度、家からの距離、畑主の嗜好面における好みなどによって左右されていた。
  3. 畑内に自生している半栽培植物の種類と量を、コドラートを設置して調べ、また、それらの利用についての参与観察および聞き取りを行った。その結果、サンダウェは副食については、マメ類以外の作物をほとんど栽培していないが、代わりに雨期に畑に生育する多くの半栽培植物を利用していた。この半栽培植物は、副食の約50%を占めており、食料の乏しくなる乾期に備えて、数キロも乾燥保存されていた。また、これらの半栽培植物については、村内での販売や分配が盛んに行われているようだった。

<参考文献>
Trapnell, C. G. (1962) The Natural Vegetation of East Africa. In: E. W. Russell (ed.) The Natural Resources of East Africa. pp.92-102. Nairobi: D. A. Hawkins, Ltd.

 
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