(3) 本研究の調査地は、ラオスはルアンパバーン県の北東部に位置するNT村である。報告者は2004年9月から同村にて定着調査を行っており、今回の調査(2005年10月から12月まで)はこれを補足し、過去のデータを再検討することを主目的としていた。長期にわたるフィールドワークを通して、農村に生きる人々の暮らしの知恵を学ぶとともに、ひとつの地域社会を成り立たせている様々な仕組みについても理解を深めることができた。特に、地縁・血縁関係と老若男女の分業に基づく相互扶助への関心は、この3ヶ月間の経験に多くを由っている。
具体的には、調査村の主要行事がこの時期に集中していたため、前年度には把握しきれなかった儀礼の構成や儀礼に関わる役割分担、親族間の協力関係などを詳細に把握することができた。人々が「伝統的な」、すなわち昔ながらに変わらぬ慣習として語る行事も、実際は多くの変化に彩られており、そこには常に彼(女)らが置かれている状況と社会関係が反映されている。したがって、儀礼の場に見られる具体的事実を検討することにより、普段は生活のなかに埋め込まれている様々な関係性と、当該地域を包括する社会変動を理解することが期待できる。
また、二度目の収穫の季節を迎え、人々に混じって農作業に従事するなかで、相互扶助の「原則」と「応用」についても考察を深めることができた。村では互いに助け合うことが了承されている関係性の枠のなかでのみ労働交換が機能しており、しかも、それぞれの思惑と駆け引きに応じて人手を出す優先度は変わってくる。つまり、地縁・血縁関係は協力関係を説明する必要条件ではあっても、絶対条件ではない。相互扶助の仕組みを理解するには、当事者による理由説明を聞くだけではなく、誰が、どの場面で、誰を、どのように助けているのか具体的に踏まえることが肝要である。
さらに、全ての田を見て回ることで知ったのは、それぞれに水量や土壌の質、村からの距離が大きく異なり、単純に面積からでは収量の多寡を云々することはできないということであった。田は父祖から受け継ぐ財産の最たるものであり、その近接は血縁関係の近さを強調する根拠となる。何より、水の管理や動物による被害を防ぐための協力関係は、村の社会関係を考察するうえで非常に重要である。このように文理融合の有用性を自らの経験を通して実感できたことも、本調査の成果のひとつといえる。
なお、村での調査を終えてから、フィールド・ステーションの主催によりラオス国立大学でラオス人の教官と学生たちを前にラオス語で発表する機会を得た(“khwamhu thongthin: ngan soiluakan lae ngan nai sonnabot”(在地の知恵−農村における助け合い)、日本人研究者によるラオス研究成果発表会(2005.12.14)。決して流暢なラオス語ではなかったが、参集者からは多くの質問を得ることができ、研究内容に対する関心の高さが伺われた。彼(女)らに何らかの心象を残すことができたとしたら、今後自らの研究成果を当該地域に還元していくうえでの、ささやかな一歩になったと自負するものである。