報告
タンザニア・フィールド・ステーション(TFS)活動報告N0.2
「2005年7−9月の活動概要及びCOE研究員の個別研究」
荒木美奈子 (21世紀COE研究員)

  2005年7月から9月までのタンザニア・フィールド・ステーション(TFS)の活動概要とCOE研究員の個別研究について報告します。現在、7月19日より12月18日までの予定で、タンザニアに渡航しています。

1.TFS関連の活動

1)ASAFAS教員・院生の調査研究
  ASAFAS教授・掛谷誠、同助教授・池野旬、伊谷樹一は調査と臨地教育のため、それぞれタンザニアを訪れました。ASAFAS院生では、小川さやか、黒崎龍悟(平成12度入学)、加藤太(平成14年度入学)、神田靖範、松浦志奈乃(平成16年度入学)、下村理恵、井上真悠子、榊原寛(平成17度入学)がタンザニア各地で調査を行っています。

 
写真1.養魚池の収穫
Ruvuma州Mbinga県では、農民グループによる共同作業が盛んにおこなわれている。新たな農民グループが組織されると、まず養魚池を掘ることが慣例化している。
 

写真2.稲作水田の牛耕
Mbeya週Mbozi県、Rukwa湖東岸の乾燥地では、アカシア林を切り開いて稲作がおこなわれている。この地域は、タンザニアでは珍しく牛耕が普及している。

2)TFS利用状況
  ASAFASの院生以外では、京都大学大学院農学研究科、同理学研究科、同人間・環境学研究科、畜産草地研究所、東京工業大学、福井県立大学、名古屋大学、近畿大学、宇都宮大学、中京大学などの教員、研究者、院生が、調査やシンポジウムの準備、データ整理、ディスカッションの場として活用しています。

3)第5回TFSセミナー
2003年11月に第1回セミナーが行われて以来、計4回のセミナーが開催されてきましたが、第5回TFSセミナーが8月20日(土)に開催されました。池野旬(ASAFAS教員)が「北部タンザニア、ムワンガ県の「住民参加型」水道施設拡充計画」という題目で発表を行いました。ASAFAS院生では加藤太、松浦志奈乃が参加し、外部からは日本大使夫妻を初めJICAや民間企業からの参加者があり、活発な討議が交わされました。

4)TFSの管理・運営
  ASAFAS教員・院生及び他大学の研究者にも広く利用されているフィールド・ステーションを円滑かつ気持ちよく運営していくために、TFS利用者の意見をもとに「TFS使用マニュアル」を更新しました。備品としては携帯電話、台所用品等を新たに補充しました。
  尚、TFSセミナー及びTFSの管理・運営に関し、タンザニアの旅行会社であるJATA Toursの根本利通氏、金山麻美氏のご賛同、ご協力を得ています。

2.研究協力体制の推進

ソコイネ農業大学(SUA)
  SUAとの研究協力体制の推進のために、ASAFAS教員・COE研究員(3名)、京大農学研究科教員・研究員(3名)のリサーチ・アソシエートシップ申請手続きをしていましたが、7月に完了することができました。

3.COE研究員の調査研究
  5月に引き続き8月から9月にかけて、タンザニア南部州ムビンガ県キンディンバ村にて調査を実施しました。
  SCSRDプロジェクト時代にキタンダ村で始まった「農民グループ(kikundi)」活動はキンディンバ村や周辺の村々へと広がりを見せていました。キンディンバ村には現在12の農民グループが存在します。しかしながら、広がりは一様ではなく、7つある村区により差があります。M村区はほぼ全世帯(40世帯)が3つの農民グループのいずれかに加入しています。一方、N村区は約90世帯の内、2つの農民グループに加入している世帯は15世帯程ですし、K村区も世帯数100以上と多い割には農民グループは1つです。MK村区には存在しません。活動内容にも差異がみられます。一体「農民グループ」は、どのような経緯で波及しているのか、地域による差異は何に起因するのか、キーパーソンとなる人材はどのような背景を持った人々なのか等に焦点をあて、調査を進めています。
  現在特に関心をもってみていることは、在来の共同労働にngokelachamaというものがあるのですが、その代りとし農民グループを用いて個人の畑の農作業を行うというグループが幾つもでてきていることです。「グループ活動とは何か」、「何がよいのか」というような質問に対しては、「助け合うこと(Sirikiana)」、「一緒に仕事をすること」という答えが、養魚・養蜂や口座開設、融資獲得といった回答以上に頻繁に返ってきます。これはムビンガ県が1990年代から経済の自由化やコーヒー経済の破綻、協同組合の崩壊といった大きな変化を辿ってきた背景とともに考えていく必要があるかと思います。また、「参加」をスワヒリ語に訳すとushirikishwajiとなるのですが、通常意味する「参加」ではなく、前述した「助け合うこと(shirikian)」という文脈で考えていった方がよいのではないかと思うようになりました。今後、在来の共同労働と農民グループを用いての農作業を「在来性のポテンシャル」との関連で、「参加」をsirikianaという文脈で掘り下げていきたいと思っています。さらに「参加」や「農民グループ」活動を、人びとがどのように解釈し、どのように日々の生活のなかで読み替え位置づけているのかみていくことにより、「参加」や「持続可能な発展」などの概念を再検討していきたいと考えています。
  調査期間中、元ASAFAS院生であるSCSRD教員、S.ニンディ氏とD.ムハンド氏と意見交換を行いました。また、国際協力機構(JICA)からの高等教育案件評価に関するミッションと討議の場を持ち、慶応大学経済学部の学生8名のキンディンバ村訪問の際には、説明と質疑応答を行いました。

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