報告
ラオス・フィールド・ステーション(LFS)活動報告(平成17年度No.1)
−京都大学(ASAFAS・CSEAS)・ラオス国立大学共同研究プロジェクトの立ち上げ−
増原善之 (21世紀COE研究員)

今回は、LFSとラオス国立大学林学部が中心となって立ち上げた京都大学(ASAFAS・CSEAS)・ラオス国立大学共同研究プロジェクト「在地の知識‐過去、現在、未来‐」について報告したい。

(1)プロジェクトの概要

     昨今、内外の研究者がラオスの持続的開発における「在地の知識」の重要性と役割に注目し、さまざまな研究が行われているが、その一方で地方の農民が生まれ育った村を離れ、現金収入を求めてビエンチャンを始めとする都市部へと流入しつつあるという現代ラオス社会の現実がある。そうした現状を目の当たりにするにつけ、ラオス人が代々受け継いできた「在地の知識」は、本当に地方の農民の生活を改善し、豊かにしてくれるのだろうかという疑問も涌いてくる。
    本プロジェクトでは「在地の知識」の過去と現在を考え、未来におけるその可能性を探ろうとするものである。例えば、

  1. 過去において「在地の知識」とはどのようなものだったのか。それらは人々の生活にどのような役割を果たしていたのか。それらは世代を越えてどのように受け継がれてきたのか。
  2. 「在地の知識」のうち、どのようなものが現在も人々によって使われているのか。それらは人々の生活にどのような役割を果たしているのか。反対に、打ち捨てられた「在地の知識」にはどのようなものがあるのか。打ち捨てられたのはなぜか。打ち捨てられたものをもう一度復興する必要があるか否か。
  3. 今後のラオスの持続的開発において、「在地の知識」は真に重要な役割を果たしうるか。
    以上のような問題意識を共有しつつ、メンバー各自が自分の専門分野に係わりのある研究テーマを設定し、他のメンバーとともにフィールド調査を行いながら、学際的な研究を進めていくことを目指している。今回のプロジェクトでは研究の対象を農業、林業、水産業に限定せず、村人たちの生活の中でそれらと混然一体となって存在している慣習、信仰、儀礼、口承文化、過去の記憶などをも視野に入れつつ研究することを考えており、ラオス国立大学人文・社会科学系学部のラオス人教員にも参加を呼びかけた。さらに、ラオス側の主体的な取り組みを促すため、ラオス人研究者にプロジェクト・リーダーを務めてもらうことにした。
    調査地はラオス・サワナケート県チャンポーン郡内としたが、同地を選んだ理由は、平成11年以来ASAFASならびにCSEASの教員および院生が継続的に調査に入っており、調査活動に関し現地行政機関および地域住民の理解と協力が得られやすいこと、さらにプロジェクト終了時に郡レベルでワークショップを開催する計画があり、その際、これまで築いてきたサワナケート県農業・林業局との協力関係が大きな力になると考えられたためである。なお、プロジェクト期間は平成17年8月から平成19年の1月までの1年6ヶ月を予定している。後述するように、8月下旬に予備調査を、10月下旬に第1回現地調査を行ったが、今後さらに2回程度現地調査を行う予定である。

(2)プロジェクト・メンバーと研究テーマ
  氏名
所属
研究テーマ
1 Lamphoune Xayvongsa (リーダー)
国立大学林学部講師
サワナケート県チャンポーン郡における森林物産の伝統的利用
2

Phengsy Khammoungkhoune
ラオス国立大学社会科学部講師

サワナケート県チャンポーン郡における藍染布の生産
3 Phouvin Phousavanh
ラオス国立大学農学部講師
サワナケート県チャンポーン郡の氾濫原における漁業の研究
4 虫明悦生
京都大学CSEAS研修員
サワナケート県チャンポーン郡周辺における語り歌(ラム)に歌われる地域の風土と住民の暮らし
5 大塚裕之
京都大学ASAFAS院生
メコン川中流域における氾濫原の役割 −淡水魚の生態と住民の資源利用−
6 増原善之
京都大学ASAFAS・COE研究員
「在地の知識」の伝承における伝統文書(バイラーン)の役割
7 Ketsadong Silythone
LFS現地スタッフ
サワナケート県チャンポーン郡ドンドークマイ村民の生活におけるキーター塩の役割

(3)予備調査(2005年8月31日〜9月4日)の模様

    当初はメンバー全員でチャンポーン郡内の村々を回り、各自の調査地を選定する計画であったが、今年サワナケート県は例年にない大洪水に見舞われ、チャンポーン郡内でも道路事情が劣悪であるとの情報が寄せられたため、数名のメンバーは調査への参加を見合わせた。プロジェクト・メンバーのPhouvin、Ketsadong、虫明、大塚、増原に、ASAFAS教員の岩田明久および同院生の木口由香が加わり、参加者は7名となった。我々はサワナケート県農業・林業局を始めとする現地行政機関を訪問し、本プロジェクトの目的と内容を説明するとともに今後の現地調査に対する協力をお願いした。さらに、氾濫原における漁業および淡水魚の生態を研究テーマとしているPhouvinと大塚がチャンポーン川流域で調査地選定のための予備調査を行った。

チャンポーン川流域での聞き取り調査 宿舎での魚の標本作製

(4)第1回現地調査(2005年10月23日〜30日)の模様

    予備調査に参加したPhouvinと大塚を除く5名のメンバーが参加した。この中には当地を訪れるのが初めてという者もいたため、今回はメンバー全員で数多くの村を回り、チャンポーン郡の全体的状況の把握とメンバー間の問題意識の共有・相互理解に努めるとともに、メンバー各自の調査地の選定、基礎データの収集、村での聞き取り調査などを行った。
    次回以降のLFS活動報告では、メンバーの研究・調査内容を順次、紹介していく予定である。
藍染の巻スカート
(チャンポーン郡シエンバーン村)
伝統医療師による治療終了の儀式
(チャンポーン郡ニャーンスーン村)

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