フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
渡航期間: 2002年12月10日〜2003年3月20日, 派遣国: タンザニア
(1) 東アフリカ半乾燥地域の農牧社会における生活様式の変容−タンザニア中央部・ゴゴ社会の事例−
長谷川竜生  (アフリカ地域研究専攻)
キーワード: 農牧複合,生業の変容,経済較差,半乾燥地域,東アフリカ
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富裕層の生業の経営形態は多様化・分岐しており、それにともなって人々との関係も変化しつつある。
(2) 本研究の目的は、東アフリカの半乾燥地域における農牧社会の生活様式が変容する様相をとらえ、その動態を明らかにすることである。フィールドワークは、タンザニア中央部の半乾燥地域に暮らす農牧民ゴゴを対象に、2000年からおこなっている。
  これまでの研究では、生活様式のなかでも生業の変容に焦点をあててきた。そして、世帯における農耕と牧畜の実態を調査した結果、多くの世帯が農耕を生計の基盤にしながらも、牧畜への関わりかたは分化していることがわかった。すなわち、現在のゴゴ社会では、数百頭もの家畜を所有する富裕層がありながら、家畜をまったく所有しない世帯が増えている。家畜を所有しない世帯のなかには、家畜を受託して飼ったり、牧夫として雇われたりして牧畜に関わる世帯もあれば、農耕に専従して牧畜にまったく関わらない世帯もあった。
  ゴゴ社会において、富裕層に象徴される経済較差があることは、最近の傾向ではない。富裕層は1961年のタンガニイカ独立以前から存在し、豊作年に農耕から得られた穀物を家畜にかえて蓄え、飢饉年には家畜を穀物に換えて人々に貸与した。人々は翌年1.5〜2倍の穀物を返して、富裕層が再び穀物と家畜を蓄えることに貢献した。しかし、現在は人々が都市へと賃労働に出るようになり、富裕層と人々のあいだの相互関係は変化している。

(3) 今回の派遣では2002年12月10日から2003年3月20日の期間、ドドマ州で現地調査を実施し、現在のゴゴ社会における富裕層の実態を明らかにすることを目的とした。まず、調査地の経済較差の現状を把握するために、各世帯における家畜の所有頭数について調べた。次に、調査地で富裕層と呼ばれている人々について、それぞれの属性を調べた。そして、富裕層から3人を選び、彼らのホームステッドで営まれる農耕や牧畜について、耕地面積や栽培作物、耕作と放牧に携わる労働力を調査した。また、彼らと1週間ずつ行動を共にして、農外就労も含めた生業の実態、およびその他の人々との関係の持ちかたを観察した。さらに、彼らのライフヒストリーを聞くことから、富裕層となるまでの経緯を調査した。
  その結果、富裕層の生業の経営形態は、多様化・分岐する傾向にあり、農耕や牧畜を組み合わせた従来型の生業を続けているタイプもいれば、近代的な経営感覚にあふれ、家畜のトレーダーのような非従来型のビジネスを取込んでいるタイプもあった。現在の富裕層は、従来型であれ非従来型であれ、蓄財するために商品化した食料作物の生産規模を拡大しており、そこでは人々を賃金労働者として雇用する傾向が強くなっている。ただし、彼らは村の中で、その経済力を背景にしてさまざまな社会経済的役割をはたしていた。すなわち、もめごとの仲裁役をはたしたり、村の裁判の陪審員をつとめたり、家畜泥棒を摘発したりしていた。

 
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