2-1 テフの栽培
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写真1: テフの畑 |
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写真2: 収穫の様子
鎌を用いて根元から切り取っていた
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写真3: 脱穀の様子 |
テフEragrostis tefとは、イネ科スズメガヤ属に分類されるエチオピア起源の作物である。穀粒は直径でなんと0.5ミリ程度しかないが、人びとの主食であるインジェラの材料としてエチオピアでは大変に重要なものとされている。初日は、ナザレット周辺のアフリカ大地溝帯にてテフの栽培を見学した。
雨季が終わってまもなくの10月下旬、大地溝帯には黄金色に稔ったテフの畑が延々と広がっていた(写真1)。私たちが訪れた時期はちょうど収穫のシーズンにあたっており、人びとは刈入れ(写真2)や脱穀の作業にあたっていた。作業をみていてとくに印象に残ったのは、脱穀の場面である。その方法は、地面に敷き並べたテフを5頭以上ものウシに踏ませておこなうという、非常にユニークなものであった(写真3)。ウシは互いにつながれて、テフの上をグルグルと何度も回転する。そうすると、テフの種子がウシに踏まれ、しだいに穂から切り離されるのである。それにしても、ウシがまとまった様子は見事であった。よほど上手にしつけなければこうはいかないだろうと驚いた。
テフ栽培では、他の場面でもウシが活躍しているようだ。播種前の耕転において犂を引く畜力として利用されるほか、地力維持にも貢献しているのである。ある村人は、畑のほとんどを毎年テフ栽培にあてているが、地力維持の一手段として収穫後の畑にウシの群れを放すという工夫をしている。ウシはテフの刈り残しを飼料としているが、それを食べた糞が地力の維持に有効となるのである。こうしたことを考えると、テフ栽培とウシ飼養は互いに支えあう関係にあることがうかがえる。人びとは二つの生業を一つの土地の上で結びつけることで、生産をより安定したものにしているのではないだろうかと思った。
2-2 アカシア・サバンナと農牧業の結びつき
車窓からテフ畑をみているうちに、私はあることに驚いた。畑のなかに樹木が点在していたのだが、それらのほとんどがマメ科高木のアカシア・アルビダAcacia
albida (写真1の樹木、以下アルビダ)であったのだ。
私が調査している、西アフリカ・セネガルのサバンナ帯に居住する農牧民セレールは、トウジンビエ栽培とウシ牧畜を営むなかで、耕地にアルビダからなる人為植生を形成してきた。雨季に落葉し、乾季に着葉するという極めて特殊な季節性をもつアルビダは、トウジンビエに肥培作用をもたらし、ウシに長い乾季の重要な飼料を提供する樹木である。セレールはこの樹木を意図的に耕地のなかに配置することで、トウジンビエ−ウシ−アルビダの三者を共存的な関係に置き、生業を持続的なものとしてきた。
テフ畑にもアルビダがみられたことは、非常に興味深いことである。しかも、それらは明らかに選択的に残されているようであった。どのような背景でアルシの人びとはアルビダを残すようになったのか、また、セレールと同じように、テフ−ウシ−アルビダの三者間に何かしらの関係が生じているのであろうか。今のところそれはわからない。が、三者の関係を切り口としてセレールとアルシの両者を比較すれば、アカシア・サバンナで営まれる生業についてより広く理解することができるのではないだろうかと思った。
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