(3) 今回の調査では,2002年12月1日から2003年2月28日の期間,タンザニア南部のイリンガ州ンジョンベ県キファニャ村において現地調査をおこなうとともに,モロゴロのソコイネ農業大学において多分野の研究者と交流し,情報の収集と意見の交換をおこなった。調査の目的は,A) ベナの斜面地の農業について,耕作システムとその歴史的な展開を明らかにすること,同時に,B) ベナの生計経済の全体像を把握することである。
A) 斜面地では,主食作物を栽培する。従来,休閑中に繁茂した草を刈り,それを集積して土で覆いマウンドを造った後,中の草に火をつけて土を蒸し焼きにし,焼け跡でシコクビエを栽培した。一方,タンザニア政府が化学肥料を信用貸与した1960年代後半から,主食作物はトウモロコシにかわり,化学肥料を用いた連作がはじまった。さらに現在,マツやブラックワットルの植林地を製炭用または製材用に伐採し,残った枝葉を燃やしてシコクビエを一年間栽培した後,トウモロコシを二年間,無施肥または少量の施肥で栽培する造林型焼畑が広まりつつある。
B) 現在,ベナの生計経済を支える現金収入源は,木材の販売,家畜の販売,谷地畑から収穫されるインゲンマメの販売の3つに大別される。木材および家畜の販売は,高額の収入を得られるが,定期的に収入を得られるまでには発達していない。毎年販売できるインゲンマメは,少額ながら安定した収入源となっている。ベナの人びとは,生計の基盤を谷地畑に置き,高等教育の学費や,冠婚葬祭の費用などの高額な出費には木材や家畜を販売して対応している。