フィールドワーク報告
  (1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2003年1月8日〜3月31日, 派遣国: カメルーン
(1) カメルーン熱帯雨林における狩猟採集活動の持続性に関する人類学的研究
安岡宏和  (アフリカ地域研究専攻)
キーワード: 熱帯雨林,狩猟採集民,自然資源の利用,貨幣経済の浸透


ハチミツをとるバカの男たち

モングル(小屋)をつくるバカの女たち
(2) 中央アフリカ・コンゴ盆地の熱帯雨林には、ムブティ、アカ、バカなどの名称で呼ばれるピグミー系住民がおり、本研究は、その中でも代表的なグループであるバカの生業活動の記載と分析を目的としている。バカは、コンゴ盆地北西部に位置するカメルーンとコンゴ共和国(ブラザビル)の国境周辺に暮らしている。
  彼らの生業において、とくに狩猟採集がきわめて重要である。生業活動は、社会関係や儀礼とならんで、もっとも研究の蓄積がなされている分野であるが、彼らの活動域の空間的な構成や、季節的および歴史的な活動域の変化などについてはほとんど分かっていない。熱帯雨林では、正確な位置情報をえることが難しかったからである。しかし現在、GPSやリモートセンシングの技術の発達によって、これらに関する分析が可能になった。
  こうした新しい機器による調査の成果を、従来からの主要な方法論である現地における参与観察とあわせて考察することによって、より精密な議論を展開できるようになる。一例として、現在調査地と重複して進行している国立公園の設置計画に対して、具体的な資料に基づいて、批判をおこなうことができるであろう。このような現実的問題に積極的に関わっていくことは、地域研究として意義があるとおもわれる。

(3) カメルーン東部州、ズーラボット・アンシアン村およびドンゴ村にて、1月8日から3月31日まで、バカ・ピグミーの狩猟活動についての調査をおこなった。今回の調査は、当初の計画では、「モロンゴ」と呼ばれる乾季の長期遠征型の狩猟採集活動に参加し、その記載をおこなう予定であった。しかし、今年の乾季には調査村では多数の世帯が参加する「モロンゴ」はおこなわれなかった。そのため計画を変更し、現在頻繁におこなわれているゾウ狩りや罠猟についての資料を収集した。
  ゾウ狩りは、外部から銃を持ってやってきた商人などに依頼されておこなうものであり、調査村では毎年15頭ほどが狩られている。罠猟はワイヤーを使ったハネ罠猟で、ダイカーが主な獲物であるが、ブッシュピッグやセンザンコウ、ときにはバッファローやヒョウ、チンパンジーなどもかかることがある。
  このような狩猟活動は、上記の国立公園が実行に移されるとダイカーなどの一部の狩猟対象と認められた動物種を除いて、取り締まりの対象となる。また、公園予定地の外部では木材業者による伐採が進んでいる。伐採それ自体は木材用樹木の択伐なので、バカの森林利用や自然環境への影響はそれほど大きくないのであるが、木材搬出のための道路建設がもたらす地域経済の変化、具体的にいえば獣肉を求めてやってくる商人や密猟者の増加、それにともなう貨幣経済の浸透などはバカの生活に大きな影響を与えることが予想される。
  このような国立公園の設立による狩猟の制限と、インフラの整備による獣肉需要の増加という相矛盾した外部圧力のなかで、自然利用や生業活動、そして彼らの社会がどのように変わっていくのかというのが今後の課題である。

 
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