:: 平成15年度 フィールド・ステーション中間報告(平成15年10月)
インドネシア(マカッサル)
  (1)「MKSFS−UNHAS共同研究室」の開設:
    マカッサル・フィールド・ステーション(以下MKSFS)は、2003年9月9日に、インドネシア国立ハサヌディン大学(UNHAS)構内に、研究活動の基盤基地となる「MKS−UNHAS共同研究室」を開設しました。田中耕司(CSEAS)がUNHASを訪問し、今後のMKSFS牽引車となっていく学部生の卒業式に出席しました。その後、カウンターパートであるUNHAS大学院プログラム科長、UNHAS環境学研究所所長らと会合し、「MKSFS−UNHAS共同研究室」の開設についての調印をおこないました。MKSFSプロジェクトによるASAFASからの大学院生派遣は、2002年度から始まっていましたが、研究活動を支援するための基盤基地がようやく整ったということになります。
この研究活動基盤基地は、ASAFASとUNHASの大学院生が臨池調査研究の成果を発表したり、それぞれの研究内容についてのプロポーザルを話し合ったりするための「開かれた研究の場」となることを目指しています。もちろん院生だけでなく、双方の大学の教官がそれぞれの大学院生の指導方針についての情報を得たり、地元で活躍するNGOやその他の研究機関との情報交換をする場所でもあります。
この基地は、南スラウェシ地域研究の最先端情報基地となる一方で、つねに柔軟に「地域研究」とはなにかを考え続けることのできる場所となることを目指し、南スラウェシ地域研究を大きく展開させていこうとしています。
  (2)MKSFSが整備した研究環境:
    MKSFSでは、以下の環境を整備しました。
  • ミーティング室(円卓、椅子、書架)と作業室(下記参照)を整備(各1室)
  • インターネット環境を整備…デスクトップ型パソコンを設置、電話線開設(ダイヤルアップ)、インターネット・プロバイダへの加入
  • スキャナをパソコンに設置し、映像・画像資料等のデジタル化をすすめ、情報資料デジタル・ライブラリーの環境を整備
  • 図書文献の収集…東インドネシア関連の図書を収集し、ミーティング室で自由に閲覧できる準備(2003年12月には、岡本正明(CSEAS)がマカッサルにて文献資料を収集中)
今後はDVDレコーダーと大型モニタを設置し、映像や画像資料を見ながら、意見交換やプレゼンテーションをおこなうことができるように準備をすすめています。
また図書文献所蔵を公開するために、2004年2月を目処にMKSFS−UNHASのウェブサイト(日本語−英語)の開設準備をすすめています。
  (3)大学院生の研究支援:
    現在、インドネシアでは地方分権化が進行しつつあります。国内の周辺部といえる東インドネシア地域ではどのような変化が起こっているのでしょうか。MKSFSは、調査研究の対象を南スラウェシを中心とした東インドネシア地域に設定し、興味深い研究テーマを持つ大学院生の研究を支援するための場です。博士論文を準備している大学院生の研究関心は、生態環境利用、自然資源管理の変容、村落再編成やNGOとの関わり、都市部の社会変容と地方政治との結びつきなど、多岐におよびます。
平成15年度には、以下の大学院生を派遣しました。
アンディ・アムリ Andi Amri:平成12年入学(ボネ湾汽水帯域生態環境利用)
島上宗子 Motoko SHIMAGAMI:平成15年編入学(トラジャ地域の村落再編成とNGOの活動)
楠田健太 Kenta KUSUDA:平成13年入学、現在、マカッサル市内でおこなった臨地調査(マカッサル最古のプロ・サッカーチーム(1915年創設)と地方政治の相互関係)を終え、博士予備論文執筆中。平成16年度以降の派遣の最有力候補者です。
  (4)情報の収集と発信:
    大学院生の研究活動を支援することが、研究活動基盤基地の第一の意義でありますが、同時に今後の南スラウェシ地域研究をさらに発展させていくための情報発信基地となることも、MKSFSは考えています。
マカッサルはインドネシア東部地域最大の都市です。インドネシアの首都ジャカルタやその他の大都市では入手しにくいローカル情報や出版物なども、できるだけ勢力的に収集しようとMKSFSでは考えています。移動性の高い生活様式や固有の建築文化を持つ人びとの生活環境や生態環境は、どのような辺境地域であっても都市化・近代化の影響を受け、変化しつつあります。変化する社会の記録や、映像や写真などの収集やデジタル化も、この研究基盤基地ではおこなわれています。
エジプト
  (1)フィールド・ステーションの整備:
    2002年度末の2〜3月にはカイロ・フィールド・ステーション代表の小杉泰がカイロに出張して、現地で調査中の院生・横田貴之とともに、フィールド・ステー ションのカイロ基地として2002年1月から借りているフラットの整備をおこないました。これは家具付きのフラットで、机や椅子、本棚などは備え付けのものがありましたが、衛星テレビの受信については新たに整備しました。臨地研究のための語学研修を日本で行なうために、衛星テレ ビの映像を適宜録画して活用することを計画しています。また、フィールド・ステーションに設置されたコンピュータに、デジタル版の日本語の種々の辞事典をインストールするとともに、アラビア語の基本的な辞事典および基本文献を設置しました。
2002年2月末には、フィールド・ステーションメンバーの東長靖も別なプロジェクトでカイロに出張したため、この機会を利用して、カイロ旧市街のイスラーム地区をフィールドとして、オンサイト・エデュケーションをおこないました。
フィールド・ステーションで小研究会を開催し、その様子をビデオに収めました。
今年度にはいってからは、6〜7月に別なプロジェクトで小杉がカイロに出張し、フィールド・ステーションが円滑に機能していることを確認しました。カウンターパートのカイロ大学政経学部アジア研究センターとの協力関係も非常に良好に展開しています。
  (2)学生の派遣:
    本資金で、横田貴之(平成12年入学)と新井一寛(平成13年入学)を現在派遣中です。それぞれ、草の根イスラーム復興、スーフィー教団の調査 を精力的におこなっています。また、別な資金でエジプトのフィールド調査にでかけた上木原理英(平成14年入学)も、フィールド・ステーションを活用しています。
  (3)共同研究:
    カイロ大学政経学部アジア研究センターとはMOUを締結する前提で、さまざまな研究協力をおこなっています。2003年7月には、小杉が同センターの全面的協力を得て、カイロ大学において国際ワークショップ「イスラーム世界の中道派:その理念 および国内的・国際的アジェンダ」(別資金による)を開催しました。
同センター長のセリーム教授および政経学部長とMOUの締結について正式に合意し、また、2003年10月には来日した同教授と、できるだけ早く、署名およびセレモニーをおこなう機会をもうけることで同意を得ました。
エチオピア
  (1)フィールド・ステーションの整備:
    重田眞義は、2003年7月17日〜8月15日の期間にエチオピアに出張し、フィールド・ステーションとして借り上げている部屋を整備しました。同時に2003年10月20日からアジスアベバにおいて開催する国際ワークショップの準備と打ち合わせ作業を、アジスアベバ大学側の関係者とともにおこないました。
  (2)学生の現地調査:
    21世紀COEプログラムの支援をうけてエチオピアに派遣されたアジア・アフリカ地域研究研究科大学院生およびエチオピア・フィールド・ステーションを利用した院生は以下のとおりです(2003年10月末現在)。
21COEプロジェクトによる派遣:金子守恵、西崎伸子、マモ・ヘボ、西真如、川瀬慈、佐川徹。
別経費による現地調査:森下敬子、鈴木郁乃、ベル・アサンテ、伊藤義将。
  (3)共同研究:
    重田がアジスアベバ大学を訪問したときに同大学エチオピ研究所の所長と面談し、今後の共同研究の可能性、具体的には共同のプロジェクトの実施について話しあいました。2003年12月には前所長を、2004年7月からは現所長を、それぞれ日本へ招聘するとともに、現在交わされている研究協力協定を見直すという合意ができました。
アジスアベバ大学社会学人類学学科のスタッフと会談し、同大学院修士課程の学生が修士論文作成のために実施するフィールドワークを、エチオピア・フィールド・ステーションを通じて支援してゆくことで合意しました。
2003年10月20日から開催された国際ワークショップの詳細については、エチオピア・フィールド・ステーションHPにて順次公開の予定です。
カメルーン
  (1)フィールド・ステーションの整備:
    市川光雄は、2003年7月13日〜8月14日の期間にカメルーンに出張し、同時期に派遣されていた安岡宏和、四方かがりの協力を得て、カメルーン南東部のNgoko川(コンゴ川支流)岸のDongo村に昨年設置したフィールド・ステーションの整備をおこないました。すでに建設されている1棟に加えて、あらたに現地素材を利用して女性用の宿泊所1棟を建設しました。
大型カヌーを購入して船外機を装着するなど、流域の漁労活動の調査、および過去の村落の移動ルート調査を実施する環境をととのえました。また、太陽光発電システムやコンピュータ、電話機の設置などのインターネット環境を整備をおこない、京都およびカメルーンの関係機関とのあいだに通信ネットワークを確立するとともに、フィールド・ステーションからの最新情報の送信を開始しました。
  (2)学生の派遣:
    本資金でカメルーンに派遣した四方かがり(平成12年入学)は、フィールド・ステーションを利用して熱帯雨林における持続的焼畑農耕の確立に関する基礎調査をおこなっています。また、私費で参加した稲井啓之(平成15年入学)も、フィールド・ステーションを利用して、この地域の漁民社会の調査に従事しています。少し離れた森のなかでは、昨年度から派遣されている安岡宏和がバカ・ピグミーの狩猟活動に関する調査を継続し、2003年10月には帰国しました。
カメルーンのフィールド・ステーションは、本研究科以外にも、本学理学研究科、浜松医大、山梨大、東京都立大などの研究者、学生が調査拠点として利用しており、この地域の日本人の調査拠点としての役割をも果たしてます。2003年11月からは新たに服部志帆(平成12年入学)が派遣され、自然保護計画地域に住むバカ・ピグミーに関する調査をおこなう予定です。
  (3)共同研究:
    現地研究者との共同研究は、カメルーンで調査を開始した1990年代中頃からおこなっていますが、カウンターパートであるGodefroy Ngima Mawoung博士が最近、科学省からヤウンデ大学に転出したこと、21世紀COEプログラムが開始されたことなどを受けて、よりフォーマルな学術協定の締結が望まれるようになり、昨年度から話し合いを継続してきました。そして2003年7月に、市川がカメルーンを訪問した際、ヤウンデ第一大学人文社会学部長のAndre-Marie Ntsobe教授と会談し、同学部と大学院アジア・アフリカ地域研究研究科とのあいだに、学術交流に関する覚え書き(MOU)を交換することを決定しました。
調査地においては、自然保護計画を推進しているWWF-Cameroon 、カメルーン森林省(MINEF)、及びこの計画を支援しているドイツの政府援助団体(GTZ)等の専門家、政府役人、研究者、学生、普及員等とも緊密な連絡をとりながら調査がすすめられています。2003年12月には、これらの機関・団体と共同で、ブンバ=ンゴゴ県の県庁所在地であるヨカドゥマにおいて現地セミナーを開催し、現地派遣中の服部、四方がこれまでの調査の成果を発表します。
ケニア
  (1)フィールド・ステーションの整備:
    太田至は、2003年7月26日〜9月15日の期間にケニアに出張して、フィールド・ステーションとして2003年6月から借りているフラットの整備をしました。インターネット環境を整備するために、コンピュータや電話機、ターミナルアダプタの設置、電話番号の取得とプロバイダへの加入、ISDNによるインターネットへの接続をおこないました。また、机・椅子・本棚・ホワイト・ボードの設置、停電時の電源確保、不在時の管理体制の確立、床のワックスがけなどの居住環境の整備等々をしました。
このステーションは、フィールドワークに必要な機材・物資を保管するためにも使います。
現在、フィールド・ステーションのホームページを作成中で、今年度中には公開する予定です。
  (2)学生のフィールドワークの支援:
    21世紀COEプログラムの資金でケニアに派遣した中村香子(平成10年入学)と、別の経費を使ってケニアで現地調査をおこなった孫暁剛(平成13年3年次編入)の二人は、調査資料の整理のためにフィールド・ステーションを活用しています。
太田がナイロビに滞在中には、フィールド・ステーションでセミナーを実施して討論をおこないました。
今年度中には、21COEの資金によって、さらに坂井紀公子と白石壮一郎(いずれも平成10年入学)の2名を現地調査に派遣する予定です。
  (3)共同研究:
    太田は、ナイロビ大学アフリカ研究所の所長と会談し、今後の共同研究の可能性、具体的には共同のプロジェクトの実施について話しあい、2004年5月には所長を日本に招へいする努力をすることで合意しました。この時期としては、アフリカ学会がひらかれる2004年5月末ごろを考えています。
トヨタ財団による助成金によって「難民と地域住民の共存をめざして−ケニア共和国からの提言−」という研究プロジェクトを、ナイロビ大学アフリカ研究所と共同ですすめてきましたが、これに参加したナイロビ大学修士課程の学生には実質的な指導もおこなってきました。太田はこの学生が提出した修士論文(現在審査中。ディフェンスがまだ)を読み、フィールド・ステーションで討論をおこないました。
ザンビア
  (1)フィールド・ステーションの整備:
    荒木茂は、2003年10月18日から11月16日の期間にザンビア、ナミビアに出張し、ザンビア大使館勤務の日本人宅一室を借り受けて、情報収集と連携研究に利用するためのコンピュータを設置し、インター ネットの環境を整えました。また、GISを利用した参加型データベースの構築を準備中です 。フィールド・ステーションの機能を充実させた来年度以降には、独立したオフィスを設置する予定です。
荒木は、ザンビア大学社会経済研究所所長代理のムレンガ博 士(カウンタパート)と、フィールド・ステーションを運営してゆくための協力体制について話しあいました。
  (2)学生の派遣:
    現在、丸山淳子(平成11年入学)村尾るみこ(平成12年入学)が、それぞれボツワナ、ザンビア で現地調査を継続中です。荒木は、ムレンガ博士とともに、村尾の現地指導をおこないました。
  (3)共同研究:
    平成17年度にルサカにおいて開催を予定している「南部アフリカにおける 社会経済変動と地域変容に関するワークショップ」に、ムレンガ博士とともに理学部のチズマヨ教授の協力を得られることになりました。また、共通の調査地における共同研究のための予備調査も実施しました。現在、ムレンガ博士を平成15年度に客員助教授として招聘する手続きをすすめています。
ナミビアにおいては、北部オバンボランドにおける農村変容に関する調査をおこない、現地カウンタパートとともにワークショップを実施する準備をすすめています。
タンザニア
  (1)フィールド・ステーションの整備:
    池野旬は、2003年7月19日〜9月1日の期間、伊谷樹一は2003年10月18日〜11月16日の期間に、それぞれタンザニアへ出張し、フィールド・ステーションの管理・運営ならびに安全対策の体制を整備しました。
衛星電話・インターネットを敷設したほか、データ整理用コンピューター、セミナー用機材、フィールドワーク用機材などを設置しました。
来年度には、インターネット環境をさらに拡充し、ホーム・ページを作成する予定です。
  (2)学生の派遣:
    本年度に、21世紀COEプログラムによってタンザニアに派遣する学生は、小川さやか(平成12年度入学:10〜2月)、近藤文(平成11年度入学:10〜12月)、ディビッド・ムハンド(平成14年度編入学:12〜3月)、長谷川竜生(平成11年度入学:2月)の4名です。
別の資金によってタンザニアで現地調査をおこなっている当研究科の学生が、ほかに6名います。いずれの学生も、調査許可の取得準備、現地調査の準備、文献資料収集、資料整理、ミーティングなどをおこなう拠点として、フィールド・ステーションを頻繁に活用しています。また、2003年11月には、タンザニア在住者ならびに派遣学生を交えてフィールド・ステーションで公開セミナーを開催しました。
  (3)共同研究:
    池野と伊谷は、ソコイネ農業大学・地域開発センターの教授陣と今後の協力体制を協議するとともに、当研究科の大学院生をサポートしながら共同研究を実施する体制についても検討しました。また、同センターからは、当研究科の大学院生に定期セミナーにおいて発表してほしいという要望が出されており、情報交換ならびに共同研究の機会として積極的に参加してゆく予定です。
マレーシア
  (1)フィールド・ステーションの整備:
    長津一史と加藤剛は、2002年2月9日〜11日の期間にマレーシア国民大学マレー文明・世界研究所(ATMA)を訪問しました。この際、ATMA所長のシャムスル教授と面会し、1)ASAFASとATMAとのMOU締結、2)フィールド・ステーションとして使用するオフィスの借り上げ、3)マレー研究に関連する文献の電子データベースの作成のための相互協力について話合いをおこないました。その結果、2003年8月より21世紀COEプログラムによるフィールド・ステーション用オフィスをATMAに設置することが了承されました。
MOUについては現在、ASAFASとATMAのあいだで内容の調整をしており、2004年2月までには締結する予定です。文献のデータベースに関しては、ATMAのポータルサイトPADAT (Malay World Studies Database)に、東南アジア研究センター発行『東南アジア研究』所収の関連論文の公開権を与えることにしました。
フィールド・ステーションでは現在、21世紀COEプログラムによって派遣された学生や、ほかの資金で現地調査をおこなっているASAFASの大学院生が資料整理をおこなっており、また、ATMAの研究者と討議する場としても活用しています。
長津は、2003年12月18日から27日まで、加藤は12月19日から23日までマレーシアに出張し、すでに賃借しているフィールド・ステーションのコンピュータ環境の整備をおこなう予定です。
フィールド・ステーションの活動のひとつとして、1)植民地期北ボルネオ(現サバ州)の政府刊行物、2)マレーシアにおける出産医療に関する政府報告、3)ジャウィ表記のマレー語イスラーム教本の電子資料化をすすめています。
臨地教育の成果と電子資料の一部は、現在作成中のホームページにおいて公開する予定です。
  (2)学生の派遣:
    2003年10月現在、本プログラムの資金で派遣された加藤優子(平成12年度年入学)と、別の経費で渡航している河野元子(平成11年度入学)および内藤大輔(平成15年度入学)がマレーシアで臨地調査をおこなっていますが、マレーシア国民大学内に設置したフィールド・ステーションを利用して資料の収集と整理をしました。
2003年12月の出張期間中に長津と加藤は、加藤優子と河野元子の調査地であるスランゴル州バンギとトレンガヌ州スブラン・タッキールを訪問し、臨地教育をおこなう予定です。
  (3)共同研究:
    2004年度中に、大学院生の加藤優子と河野元子が中心になって、マレーシア国民大学およびマラヤ大学の学生とともにフィールド・ステーションにおいて合同研究会をおこなう予定です。長津、加藤、石川登は現地でこれを支援します。
ATMAのマレー研究文献データベースと、本フィールド・ステーションで作成する電子資料とを双方のホームページ上で利用できるような環境を、現在整備中です。
ミャンマー
  (1)フィールド・ステーションの準備:
    安藤和雄が2003年3月2日〜3月8日、大西信弘(21世紀COE若手研究員)が2月16日〜3月13日にかけてヤンゴンに出張し、SEAMEO-CHAT(東南アジア教育省組織歴史伝統地域センター)の所長、副所長、担当、顧問と2003年4月から2004年3月までのフィールド・ステーションの整備・運営・活動について、すでに取り交わしている京大東南アジア研究センターとSEAMEO-CHATとのMOU(学術協定)などを根拠に協議し合意しました。
  (2)フィールド・ステーションの整備:
    上記の合意内容にもとづき、大西信弘が4月25日〜9月25日の間、フィールド・ステーションに駐在し、事務所整備を行いました。SEAMEO-CHATの3階フロアーの一角に事務所スペースをもうけ、事務用机、デスクトップ型パソコン、ミーティング用机、来客用ソファーなどを設置しています。
デスクトップ型パソコンは、SEAMEO-CHATのLANを経由してインターネットに接続されています。また、国際電話についはSEAMEO-CHATの内線を経由して問題なく交信がはかれるよう整備されています。
  (3)大学院生のフィールド・ワークの支援:
    学振特別研究員である中西嘉宏は、SEAMEO-CHATの客員研究員となり、ヤンゴンに設置されたフィールド・ステーション機能を常時活用しています。また、21世紀COEプログラム資金の支援を受けて鈴木怜治(平成13年度第3年次編入学)が、7月20日〜8月3日に、イエジンにある林業大学とASAFASが行なっている科学研究費「ミャンマー北・東部跨境地域における生態資源利用とその変容」による共同研究(代表:竹田晋也、ASAFAS教官)に参加し、バゴー山地での焼畑調査に従事しています。大西信弘がこの共同研究を支援するために、バゴー山地周辺に林業大学のカウンターパートとともに雨量計・温湿度計を設置しています。
ヤンゴン・フィールド・ステーションが成長していくためには、ミャンマー人の研究者・院生がステーションを十分に活用し、文理融合型の総合的地域研究に参加できる機会をつくっていかなくてはなりません。ヤンゴンFSの大きな特徴の一つは、この考えに基づきヤンゴン大学大学院博士課程の学生支援プログラムを積極的に実施していることです。共同調査地をイラワジ管区マウービン郡に設置し、現在、ヤンゴン大学地理学科(2名)、動物学科(3名)、植物学科(1名)が文理融合を目指した総合的な学際研究に取り組んでいます。
  (4)共同研究:
    安藤和雄が代表となっている文部科学省科研費「バングラデシュとミャンマーの少数民族における持続的農業と農村開発」での共同研究をヤンゴン大学、大学歴史研究所、SEAMEO-CHATと実施してきています。このプロジェクトをフィールド・ステーションの共同研究の一つとして積極的に位置付け、これまで活動を行なって来ました。ヤンゴン大学地理学科(1名)、動物学科(1名)、植物学科(1名)、大学歴史研究所(2名)のカウンターパートたちのチームが核となって、フィールド・ステーションの共同研究活動「ミャンマー社会の多様性とその変容」を牽引してくれています。
上記の他に「日用品・農林水産資源のデータベース作成」を共同研究として実施しています。この関連で、不定期ですがフィールド・ステーションでは大西信弘が中心となり、勉強会を開催しています。また、ミャンマー地域研究の基本資料となるビルマ地誌の収集を古本屋経由で収集しています。
ヤンゴン・フィールド・ステーションでは、他の日本人関係者の共同研究支援を大西信弘が行っています。共同研究については詳しくは、大西信弘の活動報告を参照してください。
ラオス
  (1)フィールド・ステーションの設置と研究テーマの進捗状況:
    ラオスは、東南アジアの中でも豊かな自然の残された数少ない地域であり、地球レベルの生物多様性保全にとってもきわめて重要な地域です。したがって生物資源保全に対して国際的に強い圧力がかけられ、その利用形態は厳しく規制されつつあり、地域住民の生業や生活を大きく変えようとしています。グローバルな視点に立つ政策とローカルな生活システムの軋轢が顕在化してきています。ラオス・フィールド・ステーション(以下ラオスFSとする)では、大きな変化に直面している生物資源利用と地域社会の関係をフィールド調査に基づいて研究しています。
ラオスFSでは、21世紀COEプログラムの申請段階からカウンターパートとの連絡を密に取り、準備をすすめてきました。2002年5月30日には、京都大学とラオス国立大学との大学間協定が締結され、それを受けてラオス国立大学林学部、農学部とのうちあわせをおこないました。2002年9月27日には林学部と合意に達し、2002年12月13日には、21世紀COEプログラムのラオスFSとして正式に活動を開始しました。2002年度には生方史数が、若手研究者として2002年12月13日から2003年3月25日まで現地へ派遣されました。
ラオス国立大学林学部研究棟の1階に部屋を借り受けて、連絡事務所を設置しました。ここにはコンピューター1セットと作業机、本棚、標本棚を置き、現地に派遣される教官・学生が活用しています。
ラオスFSは、アジア・アフリカ地域研究研究科のみならず、人間・環境学研究科、文学研究科、農学研究科、霊長類研究所の教官・院生の研究拠点として全学的に活用されはじめています。
  (2)大学院生の臨地研究支援とオンサイト・エデュケイションの成果:
    これまでに、ラオスFSを活用し、臨地教育支援をおこなった大学院生および研究テーマは、以下のとおりです。
  • 小坂康之(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)「サバナケート県における農業・土地利用システムと二次植生の遷移」
  • 黒田洋輔(同上)「ラオスの野生イネの自生地保全に関する研究」
  • Thatheva Saphangthong(同上)「Land use systems in the Northern Laos」
  • Anoulom Vilayphone(同上)「Valuation of non-timber forest products and forest management practices of Kham people」
  • Souksompong Prixar(同上)「Village forest management after land and forest allocation in Laos」
  • 松浦美樹(同上)「ラオス北部における生業活動の変容と人々の生活戦略 −ウドムサイ県ナモー郡の低地水田村を事例として−」
  • 山本麻紀子(同上)「中国雲南省西双版納における国営ゴム農場の発展過程と移民労働者の生活史」
  • 広田勲(京都大学大学院農学研究科)「ラオス北部における焼畑耕作システム」
  • 中辻享(京都大学大学院文学研究科)「ラオス焼畑村における土地利用」
具体的には、フィールドへの同行調査、現地セミナー、連絡事務所での日常的な議論や電子メールによる意見交換などを通じて、研究テーマの設定や、研究計画・研究内容に関する議論を深めて、大学院生の研究支援をおこなっています。また、その様子は、適宜、デジタル写真に記録して、CDに保存しています。
  (3)現地研究機関との共同研究の状況:
    現在の段階では、南部サバナケート県の農地・森林における植生調査(小坂、サイサナ)、同県の魚類相と漁労に関する調査(岩田)、同県の伐採二次林における樹木の年輪の調査、および北部ルアンナムター県の非木材林産物交易の調査(アヌロム、竹田ら)が進行中です。これに加えて、トゥン川流域の土地利用の変遷に関する調査(フンペット、生方)、ビエンチャン近郊農村における手工芸品生産・流通システムの発展過程の調査(虫明、スクラーティー、生方)などが計画されています。
現時点では、ラオス国立大学林学部との共同研究が中心ですが、今後は同大学の他学部や、農林省・情報文化省等の研究所などと積極的に連携することを考えています。
文部科学省総合地球環境学研究所による研究プロジェクト「アジア・熱帯モンスーン地域における地域生態史モデルの構築」も、ラオス国立大学を受け入れ機関として開始されているので、このプロジェクトとの連携も深めてゆく予定です。
  (4)セミナー、ワークショップなどの実施状況:
    現地セミナーは、2003年2月17日、3月3日、3月12日、8月5日の4回開催しました。第1回は、院生2人(広田・松浦)の研究計画の発表であり、第2回は、カウンターパートと竹田・生方・小坂で、今後のステーションの研究に関するブレインストーミングをおこないました。第3回は、加藤真教授(京都大学大学院人間・環境学研究科)によるラオス側への特別講義(生態学)、第4回は参加者11名(増野、秋道、小林、岩田、松浦、虫明、小坂、生方、広田、アヌロム、竹田)による学生ゼミとして開催しました。
  (5)資料収集と情報ネットワークの構築状況:
    資料収集に関しては、政府の公式統計を中心に、基礎的な資料の収集を適宜おこなっているほか、独自に医療情報・生活情報等を収集しています。情報ネットワークに関しては、他学部・大学研究推進課との交流や、大使館員との交流・情報交換(地域安全情報など)を随時おこなっています。
 
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