- 要 旨:
本発表は、エチオピア南部における歴史学者と人類学者との共同研究に向けた、より大きな方法論的な協調関係の可能性をさぐるひとつの試みである。それは、歴史家と人類学者とのたんなる「交流」を超えて、より周到な協力と融合の可能性をさぐるものである。「歴史人類学」という用語の意味するところからはじめて、本発表ではこの地域の調査と分析のモデルケースを示したい。ただし、発表者が歴史研究の背景をもつことなどから、おもに抵抗という歴史学的なトピックの研究に軸足をおいた議論を行う。
この抵抗というテーマを考えるにあたって、20世紀後半におけるエチオピア国家の介入に対して南部の人びとがどのような反応をしたかを検証することは、歴史学的かつ人類学的な分析に対して有益である。私は、抵抗という概念を拡張し、その焦点を非暴力的で開かれた抗議へとシフトさせることで、歴史学と人類学の共同研究が浮き彫りにする政治的、社会文化的プロセスに目をむけることが可能になると信じている。
私の研究は、アルシとウォッレガ地域のオロモ語話者が、帝政政府に向けて送った陳情書にもとづいている。こうした陳情書に書かれている議論およびそこで用いられているイディオムは、どのように抵抗が、ローカルな歴史や伝統についてだけでなく、その社会構造の再構成と再概念化の動態的過程と関連しているのかについて、興味深い示唆を提供してくれる。こうした歴史学的調査が浮き彫りにする再構成と再概念化の側面や、人類学者のインテンシヴな調査をとおして描かれる側面をともに指摘することで、結論にかえたい。