マカッサル海峡には、無数の有人島が点在する。17世紀以来、東インドネシア地域へ
向かう漁業活動や商業活動によって生計が営まれてきた。寄港先で新しい関係を築く
際にも、古くからの信頼を維持していくのにも、欠かせない条件はメッカ巡礼の経験
があり、そのことによって尊敬を得ることだと考えられてきた。では巡礼の経験は、
この島々の社会内部において、どのような意味を持つのだろう。本報告では、ある島
の女性の日常生活世界に注目する。その日常生活世界における、伝統的な儀礼の場面
や日常生活の場面で、巡礼経験がどのような作用を与えるものであるかを検討する。
巡礼を実現させるためのプロセスは、小商いから始まって、資本金が増えるにつれ商
う品目も変わっていく。宗教的に熱心であることと巡礼に行きたいという気持ちの間
には、大きな隔たりがある。この隔たりを、島の内部における巡礼経験者の社会的位
置づけを手がかりに、明らかにしようとする。