研究会 「移動性と秘密の言語――セブ興旺寺の事例をめぐって」

日時: 2003年1月17日(金) 16:00〜18:00
会場: 京都大学東南アジア研究センター 共同棟3階講義室(307)

話題提供者: 宮原曉 (大阪外国語大学地域文化学科)

発表要旨
  かつて華僑社会、あるいは華人社会と呼ばれていた社会が今日,大きく変わりつつある。1990年以来、私はフィリピンのセブ市で華僑・華人の調査をしてきたつもりであった。しかしそこで懇意にしていた友人たちは,いまラス・ベガスと台北とバンクーバーに移動している。彼ら・彼女らは、セブの華僑でも、華人でもなくなったのだ。このような再移民の登場は、中国大陸の出身村と移住先との二者関係のなかで収まりかけていたアイデンティティ問題を再燃させる。とともに従来の華僑・華人研究が、例えば「華人」や「エスニック・チャイニーズ」という呼称を用いて提示しようとしてきた「チャイニーズ」の像に対しても、再考を迫られるようになった。
  本報告では,こうした「チャイニーズ」像を再考するうえで、一見、人口移動の主流から取り残されたかに見えるフィリピン中部のセブ市にある小さな廟に集う女性信者たちに焦点をあて、女性たちが廟での託宣(「問」)や儀礼を通して、どう自らの運命(「命」)を「チャイニーズ」の人口移動のなかに意味づけているかを観たいと思う。「チャイニーズ」の人口移動を考えるうえで、中心と周縁がいかに構造化されるかという問題は本質的である。「チャイニーズ」のアイデンティティをめぐる言説は、これまで既婚成人男性の中心性を表象してきたに過ぎないのかも知れない。そうしたなか女性たちに光をあてることで、「チャイニーズ」の人口移動をめぐる中心と周縁がどういった世界観、運命観に基づいて構造化されるか、また個々の女性たちがどう人口移動に参与するか、展望しようというのが本報告の目的となる。

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