研究会 「東南アジア島嶼部における<インド化>の意味:文字・建築・思想」

日時: 2003年3月19日(水) 13:00〜18:00
会場: 京都大学東南アジア研究センター 東棟2F教室

  京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科(ASAFAS)地域進化論講座では、毎年度末に特別研究会を開催しています。今回は、東南アジアにおける<インド化>の諸相をめぐって、インドネシアを中心に研究されている3名の講師に最新の研究成果を報告していただきます。
  なお、この研究会は、2002年度から始まった 21世紀COEプログラム「世界を先導する総合的地域研究拠点の形成」の研究活動の一環でもあります。

13:00〜14:15:青山亨(鹿大)
「文字受容からみた<インド化>:東南アジア島嶼部におけるインド系文字の展開」

発表要旨
  東南アジア大陸部の多くの国民国家においてインド系の文字が公用文字であることは周知の事実である。他方、現在ローマ字が公用文字として使われている島嶼部においても、かつてはインド系文字が広範に使用され、地域によっては今日でも使用されていることはあまり知られていないように思われる。しかしながら、インド系文字は東南アジアの人々が自らの言語を書き留めるのに使用した最初の文字であり、島嶼部においてもインド系文字の受容のインパクトは広範かつ長期に渡るものであった。この報告では、インド本土におけるブラーフミー文字の発展から、東南アジアへのブラーフミー文字の伝播、その後の島嶼部における諸文字の分化までを概観し、文字の受容という視点から東南アジアの<インド化>を考えてみたい。

14:15〜15:30:小野邦彦(早大)
「古代ジャワの寺院建造物配置が示す象徴性:ヒンドゥー教寺院の<非対象称の伽藍構成>について」

発表要旨
  インドを源泉とする文化芸術の遺品として、ジャワ島を中心とする群島部に残されているヒンドゥー教及び仏教の神仏を祀る宗教建造物は、一般にチャンディと総称されている。チャンディの中でも、特にジャワ島のヒンドゥー教寺院の伽藍、すなわち宗教建造物の配置には、一見して左右対称の形式を遵守しているようにみえて、実際にはわずかにその対称性が崩されている様式、いわば「非対称の伽藍構成」が認められる。
  まず、報告者が作成した配置図を基に、仏教寺院の伽藍構成との比較を含めて、非対称の伽藍構成を有するヒンドゥー教寺院の諸特質について報告する。続いて、インドの代表的な建築理論書ないし関連文献の読解を通じ、インドのヴァーストゥ・プルシャ・マンダラ、すなわち、ミクロコスモスとしての建物は巨大な生命体(ヴァーストゥ・プルシャ)を媒介としてマクロコスモスに対応する、という観念の影響を、「非対称の伽藍構成」に認め得るかどうかを検討したい。

15:30〜15:45: コーヒーブレーク

15:45〜17:00:石井和子(東外大)
「パンチャシラ第一原則のルーツを求めて:<唯一なる神性>の時空性」

発表要旨
  パンチャシラは日本軍政時代の1945年6月1日、独立準備調査会の討議の席上スカルノにより提起されたインドネシア共和国建国の五原則である。この五原則の一つがKetuhananないし神性であるが、当初第五原則であったものが、後にYang Maha Esaが付加され「Ketuhanan Yang Maha Esa」となり、第一原則として位置付けられた。この第一原則はわが国では「唯一神への信仰」と訳され、またインドネシアにおいてもそのような解釈がなされている。しかし、原意は「唯一なる神性」である。スカルノは「Ketuhanan Yang Maha Esa」の理念を模索するにあたって、インドネシア文化の源流をインド化以前にさかのぼって探求し、その時代々々のインドネシア人の神(Tuhan)について考察した結果、「唯一なる神性」はすべての宗教グループによって受け入れられるものだとの結論に達した、と述べている。ジャワ人スカルノにとって「Ketuhanan Yang Maha Esa」はインドネシアにおける諸宗教の共存を可能にするための「装置」であった。そして、「唯一なる神性」は、そのルーツを古代ジャワに求めることができ、シヴァ教と仏教の受容後、数世紀にわたり長い年月をかけてジャワにおいて構築されたものであったと報告者は考えている。
  本報告では、ジャワにおけるシヴァ教と仏教の受容、共存に焦点をあて、古代ジャワにおける「唯一なる神性」について考えてみたい。

17:00〜17:10: コーヒーブレーク

17:10〜18:10: 総合討論

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