研究会
「国民国家と宗教の制度化」


日時: 2004年2月16日(月) 13:00〜18:00
会場: 京都大学東南アジア研究センター 共同棟3F共同講義室
    宗教と国民国家は、いくつかの側面において緊張関係にある。 世界の主要宗教は国民国家より歴史が長く、これも一つの背景 となって世界宗教の信徒は通常ひとつの国家の枠におさまるこ とはない。同様にして、宗教のもつ思想や信仰上の浸潤性ゆえ に、ひとつの国民国家内には複数の宗教が並存するのが常態 である。そして、宗教は、国民とはかならずしも重なることのない 想像の共同体を、国家のなかで、あるいは国家を越えて形成す る。他方で、この共同体は、同じ宗教を信奉していても、かならず しも一枚岩であるとは限らない。
  信教の自由を前提またはアリバイとしながら、いかにして国民 国家は宗教の制度化をはかり、国民を創ろうとするのか、そして それは、宗教社会にどのような影響を与えるのか―この問題を、 フィリピン、インドネシア、タイの事例をもとに考えてみたい。今回 の発表に共通するのは、中央と周縁、制度と実践の対比である。

 
     
  13:00〜14:00 辰巳頼子(上智大)
「越境するイスラーム−マラナオ社会における移動の諸相から−」
        フィリピンにおける国民統合の歴史は、フィリピン・ムスリムにとっ ては周辺化の歴史であった。とくに、ムスリムが多く居住するミン ダナウ島へキリスト教徒の移住が進むにつれ、いわばホームラ ンドにおいてさえ政治・経済的なマイノリティとなったムスリムのな かには、自己の存在理由の根拠を国民国家の外の権威に求め ようとするものもでてきた。なかでもミンダナウの代表的なムスリム 民族集団であるマラナオは、移動/越境することによって中東イス ラーム世界との繋がりを強化し、より確かなもの、すなわちより正 統なイスラームへと自らを同一化させることによって、フィリピン国 家による経済的、政治的周辺化に対抗しようとしてきた。本発表で は、マラナオによる中東イスラーム社会とフィリピンのあいだの移 動、すなわち留学、巡礼、出稼ぎに注目し、これに伴うモノ、カネ、 知識の還流の諸相を明らかにする。そしてフィリピン国家、オイル・ マネー、グローバルな労働市場、テロリズムなど、この還流に影響 を与えるアクターにも注目しながら、現代における宗教の越境の条 件と意味を考える。
 
    14:00〜14:15   質疑応答
 
    14:15〜15:15   永渕康之(名工大)
「国家による制度化が少数派宗教にもたらしたものとは何か?
−インドネシアにおけるヒンドゥーをめぐる国家と共同体の攻防−」
        世界最大のイスラーム人口から構成されるインドネシアにおいて、 ヒンドゥーは絶対的少数派である。少数派宗教の国家体制への組 み込みは、宗教省による承認および宗教政策の受け皿となる代表 機関の設置によって保障された。しかし現在、国家が確立したこう した宗教制度は、ヒンドゥー代表機関の内部分裂をもたらし、強い体 制批判を生んでいる。もともとバリ島の共同体から出発したインドネ シアのヒンドゥーが、国家の制度化をへることでバリ島の慣習から脱 領域化したことが最大の原因である。1980年代半ば、絶頂期に あったスハルト政権による宗教勢力の囲い込み以後、ことにバリ島 外の勢力によるバリ島中心主義への攻撃は激化し、ヒンドゥー内部 の論争はあらわになった。この論争において何が問われているかを 明らかにして、国家、宗教、共同体の関係を考えてみたい。
 
    15:15〜15:30   質疑応答
 
    15:30〜15:45   コーヒーブレーク
 
    15:45〜16:45   林 行夫(京大)
「<タイ仏教の危機>とは?−制度と実践のなかの<僧界>と<俗界>−」
        東南アジア大陸部諸国に広がる上座仏教は、世俗社会からの離脱 を目的とする出家主義の宗教である。しかし、歴史上の出家者集団 (サンガ)は、常に世俗権力に依存するとともに、在俗信徒社会との 関わりのなかで、地域や民族ごとに多様な実践を築いてきた。タイ国 は最初の「1902年サンガ法」以来、全国の出家者や寺院組織を統括 し、「国家(民族)に内属する宗教」、伝統文化としての仏教を内外に 表象している。ところが、その制度の裾野ないし周縁には、師弟関係 に基づく出家者や在俗者の個別の実践が、それぞれの地域社会の 脈絡のなかで今日も広く観察される。近代国民国家タイは、支配の ツールとして仏教をいかに制度化しようとしてきたのか。さらに、グロ ーバルな社会変化の下で生じた「サンガ法」改定問題、「仏教の危機」 が叫ばれる近年、実践の統制はいかなる様相をみせているのか。本 報告では、世俗権力を担う者が定義する制度仏教と、フィールドで遭 遇する実践仏教との差異と相関関係に留意しつつ、メディアや知識人、 NGOなどが客体化するタイ仏教と、それとは無縁な住民による実践の 社会的基盤について考察したい。
 
    16:45〜17:00   質疑応答
 
    17:00〜17:15   コーヒーブレーク
 
    17:15〜18:00   総合討論

 

 

これは、「支配の制度と文化」研究会の第11回です。

問い合わせ先:
京都大学大学院AA研究科
加藤剛(075-753-7342) katogo@asafas.kyoto-u.ac.jp
玉田芳史(075-753-7379) tamada@asafas.kyoto-u.ac.jp
長津一史(075-753-7376) nagatsu@asafas.kyoto-u.ac.jp

 
 
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