研究会
ベトナムの伝統的祭礼の復活に関する一考察
バックニン省トゥアンタイン県の一村落の事例から


発表者: 川上崇(京都大学大学院)
日時: 2004年9月17日(金) 16:00〜18:00
場所: 京都大学東南アジア研究所  共同棟3階講義室(C307)
 
  1986年に始まるドイモイ政策以降、特に1990年代にはいってから、ベトナム各地で伝統的な祭礼が復活するという現象が起こっている。発表者の調査村でも1994年、村の守護神を祀る亭での祭礼が復活した。しかし準備の段階から細かく観察してみると、復活後の祭礼は運営面において多くの問題を抱えていることがわかった。なにより発表者の関心をひいたのは、一部の人を除いて村人が祭礼に関わることに消極的なことであった。
  革命以前、守護神は村の平安と繁栄を保証する神霊であり、守護神への祭礼は村をあげておこなわれていた。なぜ現在では、村人は亭での祭礼に消極的なのか。祭礼の意味はいかに変化したのか。本発表では革命以前と1990年代の復活以後の亭での祭礼をその組織運営を中心に検討し、村人の祭礼に対する態度の変化が、革命以前、村人に祭礼を強制する装置となっていた「甲」(ザーップ:giap)組織の消滅と密接に関係していることを明らかにする。
  革命以前の調査村では、人々は甲に所属し、亭での祭礼の際に一定の義務を果たすことによって、はじめて村の成員資格を得ることができた。甲での義務を果たせない場合は成員資格を失い、葬式で棺担ぎの協力を得られないなど村内での社会関係を一切絶たれることになった。革命以後、社会主義体制下での村落改編によって甲は消滅し、亭の祭礼と村の成員資格との結びつきは絶たれた。さらに復活後の祭礼は国家が掲げる「信仰の自由、信仰しない自由」に基づき、個々人の自主的な参加によって運営されるよう改められた。村の社会関係と切り離された祭礼は、村人にとって「得るものも、失うものもない」娯楽行事としての性格を強めているのである。

 

これは、「東南アジアの社会と文化」研究会の第19回です。

この研究会は原則として奇数月の第三金曜日に開催されます。なお、7月は夏休みとし、研究会は開催しません。研究会の案内はメールを通じて行っています。案内リスト参加希望者の連絡先は nagatsu@asafas.kyoto-u.ac.jpです。


[世話人]
杉島 敬志(京大大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
林 行夫(京大東南アジア研究所)
[事務局]
長津一史(京大大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)nagatsu@asafas.kyoto-u.ac.jp
速水洋子(京大東南アジア研究所)yhayami@cseas.kyoto-u.ac.jp

 
 
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