研究会
「ココヤシ栽培の小農社会における土地をめぐる社会関係
―フィリピン・ルソン島ラグナ州「高地」の事例―」


話題提供者: 藤井美穂(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
日時: 2006年2月10日(金) 16:00〜18:00
会場: 京都大学東南アジア研究所 東棟2F教室

フィリピンにおける土地への関係行為に関する研究には、低地稲作地帯における土地制度や地主小作関係について多くの蓄積がある。
  本発表は、低地稲作地帯と密接な社会的、経済的関係をもちながらも、これまでほとんど研究のおこなわれてこなかったラグナ州「高地」のココヤシ栽培小農社会をとりあげ、そこに展開されてきた土地への関係行為を歴史的観点から考察する。
  ラグナ州で一般に「高地」と呼ばれるバナハオ山の山腹地域に住む人々は、しばしば地主的土地所有形態の見られる低地稲作地域と対照させながら、「高地」には地主小作関係も、階層の差もないとのべる。だが、実際には、村には住民が一目おき、社会の序列の上位に位置するメイルパ(土地持ち)と呼ばれる者がいる。一見するところ、メイルパは土地所有に基づくカテゴリーのようにみえる。しかし、土地の生産性に基づく所有地形態だけでは説明できない、住民の価値観に基づいた住民同士の分類がある。 
  住民は、土地にまつわる出自や居住地、所有地の管理状態ならびに、村祭りや宗教行事における酒や食事のふるまい、貧困層へのほどこしといった日常的な行動様式を土地と関連させて、メイルパに対して名誉や威信を意味づけてきた。このことは土地が多様な価値を内包する複合的な全体であることを示唆している。
  本発表では、19世紀後半に村の父祖たちが「高地」の開拓を始めた後、メイルパがいかに創出され、維持されてきたかを軸に話を進めながら、メイルパとそうでない者による社会関係の構築と崩壊、土地相続の規模をめぐるキョウダイ間の確執、メイルパへの強い帰属意識を持つ者の戦略等を取り上げ、常に揺れ動いている社会の状況を描き出す。また、その際、開拓者の出身地である「高地」の中心地、N町のバヤン(市街地)の形成過程と、「高地」を取り巻くグローバルな社会・経済的な変化が人々の土地をめぐる社会関係にどのような影響を与えたかについても触れることにしたい。

これは、「東南アジアの社会と文化」研究会の第26回です。

この研究会は原則として奇数月の第三金曜日に開催されます。なお、7月は夏休みとし、研究会は開催しません。研究会の案内はメールを通じて行っています。お知り合いの方、とくに学部生・院生・若手研究者に、このメールを転送するなどして、案内リストへの参加をお勧めいただければ幸いです。案内リスト参加希望者の連絡先はnagatsucseas.kyoto-u.ac.jpです。


[世話人]
杉島敬志(京大大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)
林行夫(京大東南アジア研究所)
[事務局]
速水洋子(京大東南アジア研究所)yhayamicseas.kyoto-u.ac.jp
長津一史(京大東南アジア研究所)nagatsucseas.kyoto-u.ac.jp
王柳蘭(京大大学院アジア・アフリカ地域研究研究科)wliulanasafas.kyoto-u.ac.jp

 
 
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