報告では、フィリピンの女性労働政策のレビューをおこない、近年みられる「海外労働者の女性化」が提起する問題を考察する。フィリピンは、他の「開発途上国」同様、開発過程が要請する形で女性労働政策(ここでは、社会政策を含む、女性の労働力化に影響をおよぼす政策と定義する)を推し進めてきた。1970年代ごろより、その時代ごとに国際的な標準とされた開発のなかの「女性」や「ジェンダー」モデルを先駆的に取り入れ、女性労働政策を施行してきた。
しかし、このような先駆的政策の推進が、実際の女性の労働力化におよぼした影響は限定的であった。逆にいうならば、実効性がなくても済んだからこそ、「女性」や「ジェンダー」の分野で頻繁に政策を打ち立て、「開発途上国」の優等生としてのポーズをとることができたのかもしれない。ところが、近年の「海外労働者の女性化」とそれに伴う人権侵害の増加の問題は、フィリピン政府に、実効性のある女性労働政策と、女性労働者の保護を要請することとなった。1980年代後半から、海外労働者のなかでもとりわけ脆弱な立場におかれている「家事労働者」と「エンターテイナー」に対する人権侵害の問題が浮上した。女性海外労働者の人権にからみ、国内を騒然とさせる事件が発生し、「海外労働者の保護」のイッシューが、政権をゆるがす事態に直結する、という構図が成立している。
報告では、「海外労働者の女性化」の増加にともない、フィリピンの女性労働政策が実効性を求められるようになった局面を指摘し、そのなかでみられる議論を紹介する。