実をいうと、これは、われわれの21世紀COEプログラムの統一研究テーマ「地球・地域・人間の共生」のもとに設定された4つの問題群のうちの3つを借用したものである。21世紀COEプログラムでは、このほかにプログラムの全体を領域横断的にすすめるための装置として「地域研究論問題群」がもうけられた。しかし、プログラムの運営にたずさわった者の実感からいうと、これがうまく機能したとはいいがたい。にもかかわらず、本号に登載されている論文のような研究が現れてくる背景には、さまざまな学問分野のパラダイムが覇権を競うことなく、同時並行的に作用している地域研究という「場」があるといえるだろう。
こうした「場」でおこなわれる多様な研究活動の全体を理論的な言葉で要約することは至難である。そうであるなら、現在進行しつつある研究の具体例をできるだけ多くしめすことで、刻々と変化する地域研究の姿を浮かびあがらせることは、成果報告の手法として理にかなっているだけでなく、地域研究とは何かという、しばしば発せられる問いに対する最良の答えにもなるだろう。特集のタイトルを「地域研究の前線」とした理由はこうした考えによる。この場合の「前線」はミリタリー・メタファーではない。気象学用語の転用だろうが、同時期に複数の場所で生じる、ある現象をむすぶ仮想の線を「前線」とよぶことがある。複雑な曲線をえがきながら、おりしも京都にむかって近づきつつある桜の花の「前線」のように。
本号の初校刷りが印刷所からとどいて間もなく、投稿者のひとりであると同時に21世紀COEプログラムの立ち上げに尽力した百瀬邦泰氏の訃報がとどいた。今後ますますの活躍が期待されるなかでの逝去だった。ここに謹んで哀悼の意を表する。
『アジア・アフリカ地域研究』編集委員会 |