現地セミナー
 
   カメルーン・フィールド・ステーションとWWFのジョイント・セミナー
  2003年12月14日:ヨカドマWWFオフィス(東部州)にて
  木村大治 (大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・アフリカ地域研究専攻)
     
    2003年12月10日、カメルーン共和国東部州、ブンバ=ンゴコ県の県庁所在地ヨカドマ(Yokadouma)にあるWWFのオフィスにおいて、WWF、GTZ (ドイツの政府援助機関、日本のJICAのような存在)、MINEF (カメルーン環境森林省)、およびカメルーン・フィールド・ステーションの共催によるジョイント・セミナーがおこなわれた。ヨカドマは、首都ヤウンデから車に揺られ丸一日かけて着く、地方の都市である(写真1)。  
(写真1:ヨカドマの風景)
    京都大学を中心としたアフリカ熱帯雨林の調査チームは、1993年よりカメルーン東南部で狩猟採集民バカ・ピグミーと、農耕民の研究を続けてきている。一方、WWFらの団体は、この地域の熱帯林保護のために活動を続けており、これまでにも日本人研究者と頻繁な接触をもってきた。このたび、WWFで開催されるセミナーで日本側の成果を発表し、意見を交換しようという話がもちあがり、アジア・アフリカ地域研究研究科(以下ASAFAS)大学院生の服部志帆さん(平成12年度入学)を窓口に日程を調整した結果、12月10日の開催に至ったのである。  
    日本側からは、服部さんと四方かがりさん(平成12年度入学)が話題を提供し、木村大治(ASAFAS教官)と大石高典さん(京都大学理学研究科、大学院生)が討論に参加した。カメルーン側からはWWF,GTZ,MINEFのメンバーをはじめ,ローカルNGOの関係者,聖職者,ヤウンデ大学の大学院生も参加した(大学院生Njounan Olivier氏は本年9月にセミナーで発表をおこなっており、その内容をアフリカ地域研究資料センターの研究誌African Study Monographsに論文として投稿したいとのことで、投稿の段取りについても話し合った)。発表時の聴衆は最大時で20人を超えており、通算すると30人程度は来ていただろう。女性も4名ほど参加していた(写真2)。  
(写真2: 参加者の記念写真)
    発表はパワーポイントを使っておこなわれた。液晶プロジェクターが使える予定だったが、残念ながら故障していたので、ディスプレイの画面を前に置いてのプレゼンテーションとなった (写真3)。発表は英語でおこなわれたが、フランス語圏出身の人が多いこともあり、途中でWWF側によるフランス語の要約を挟む形となった。  
 
(写真3: 発表のパノラマ写真)
    服部さんの発表の表題は、"Nature Conservation Project and Hunter-gatherers' Life in Cameroonian Rainforest"であった(写真4)。発表ではまず、バカの生活について生業活動、食事、物質文化の視点から分析し、彼らの生活における森の位置づけを明らかにした(写真5)。そのデータをもとに、保護区のゾーンニングとバカ・ピグミーの実際の土地利用形態のずれ、保護に際しての狩猟規制とバカの狩猟活動のずれを指摘し、バカの生活の実情に合わせて自然保護計画を練り直す必要性を指摘した。
 
(写真4: 話題提供をする服部さん)

(写真5: バカの集落で調査する服部さん)
    ディスカッションにおいて議論の中心となったのは、「密猟」すなわち「規制されるべき狩猟」とは何か、という問題である。WWF, MINEFらによる現在の保護計画は合法的な狩猟を、(1)狩猟動物を外部に売却しない、(2)狩猟方法を弓矢猟、槍猟、植物性の素材を用いて作られた罠による猟といった伝統的なものに限る、という条件を満たしたもののみに限定している。しかし、すでに現金経済が浸透しているバカ社会では、獣肉を売って現金を手に入れるということも、ある程度は生活のために許されるべきであるというのが発表者の主張であった。この点については議論は平行線をたどった。また、発表者の調査地であるマレア・アンシアン村は、つい最近自動車道路が開通した辺境の村であり、そこで得られた結果を一般化するのはどうか、という意見もあった。しかし全体の議論としては、森林保護計画にバカ・ピグミーたちをなんとかしてうまく統合する必要があるという点で、参加者たちの意見は一致していた。
    四方さんの発表は"Sustainable Plantain Production by Shifting Cultivation in the Secondary Forest of Southeastern Cameroon"という表題であった(写真6)。農耕民バンガンドの、プランテン栽培を中心とした焼畑農耕の体系を記述した後、その体系が、森林の持続的な利用を可能にしている、というのが発表の趣旨であった。
(写真6: 話題提供をする四方さん)
    ディスカッションでは、発表で主張された、焼畑農耕の持続性sustainabilityがはたして存在するのかという点が議論された(写真7)。カメルーン側の参加者の多くは、伝統的な焼畑農耕は土地を疲弊させる危険な方法であると認識しており、たとえば畑作の後に生えてくるパラソルツリーの林は、土地の劣化の指標なのだといった指摘がなされた。この点において、アフリカの伝統的な農法を積極的に評価しようという日本側の基本姿勢と明確な対比が見られたのは興味深かった。またこの場には、バンガンド出身の人も参加しており、大乾季が12月から始まるとしていたが11月からではないのか、といった具体的な指摘もなされていた。  
(写真7: ディスカッションの様子)
    セミナーは午前10時に始まり、昼の軽食を挟んで午後3時前に終了した。ヨカドマのWWFのパンフレットは、ともすれば「どこそこでこれこれの集まりがおこなわれた」といった政治的な記事が目立つのだが、今回の発表は、具体的なデータにもとづいた提言をおこなっている点で、カメルーン側の参加者にも新鮮な印象を持って迎えられたように感じられた。  
 

  このセミナーの開催については、前日より、ヨカドマのローカルFMラジオ放送で紹介されていたが、服部さんがそのラジオ局からのインタビューを申し込まれた。そのインタビューは、ヨカドマWWFのウソンゴ氏によるフランス語訳つきで、その日の午後7時からの番組で放送された。その内容の録音もここに添付しておくことにする(サウンドファイル)。

  (サウンドファイル: 服部さんのラジオ出演)
・MP3: 1.43Mb
このサウンドファイルを開くためには、MP3対応のプラグインをダウンロードしてください。

 

 
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