報告
    21世紀COE ラオス・フィールド・ステーション・スタディ・ツアー報告

「ラオスにおけるワークショップおよび地域間比較交流に参加して」

黒崎龍悟(アフリカ地域研究専攻)
 
出張期間: 平成17年2月11日〜2月12日
参加したワークショップとスタディ・ツアー: Workshop on Local Knowledge and Its Potential Role for Sustainable Agro-Based Development in Lao PDR および
サワナケート県ケンコック村、ターレオ村へのスタディ・ツアー
ワークショップの開催場所と主催したフィールド・ステーション:

ラオス人民民主共和国、ラオス・フィールド・ステーション

報告者の研究対象地域(関連フィールド・ステーション): タンザニア連合共和国、タンザニア・フィールド・ステーション

  平成17年2月9日、10日にラオス・サワナケットにおいて実施された「Workshop on Local Knowledge and Its Potential Role for Sustainable Agro-Based Development in Lao PDR」に参加した。同ワークショップにはサワナケット県農林局とラオス国立大学、京都大学からの関係者、そして農村部から選出された10名のモデル・ファーマーが参加した。ワークショップでは、農林局からの出席者によって作物生産(主に稲作)、畜産、養魚、情報統計などの各セクションからの現状報告がなされ、それぞれの分野に関連する研究が大学関係者から発表された。

  私のフィールドである東アフリカ・タンザニアとラオスを比較する上で共通することは、両国ともに社会主義を経験していることである。タンザニアにおいて社会主義路線が放棄された後、多くの開発援助が入ってくるようになったように、ラオスでも1986年の市場経済導入後は様々な国からの援助が受け入れられ、持続的な農村開発を目指す活動が展開されている。独立後に社会主義体制を選択した国は、資本主義を最初から選択した国に比べて経済発展が立ち遅れ、市場経済導入後はそれを補うように環境へ大きな負荷をかけることも厭わない開発を推進するイメージが私にはあった。しかし報告から、ラオスでは未だ環境へ負荷をかける化学肥料・農薬の利用が主流ではないこと、また「自然」を意味するタマサートという言葉が、仏教の「法」と学問の「学」を表す言葉を合わせてつくられた造語ということからも、宗教的背景が環境と調和した農業を志向することと関係があるのではないかとの印象を受けた。11日、12日は農村部へのスタディツアーの機会を得て、自然地形を利用した養魚池や多様な樹木利用の説明を受けると同時に、村の「鎮守の森」も見学し、このような環境と調和した農村の姿を垣間見た。一方、私のフィールドでは、環境保全型の農村開発プロジェクトが増加しているものの、一部の人々は在来農法の代わりに短期間で利益をもたらす化学肥料に依存した耕作を取り入れ、環境の荒廃が懸念されている状態にある。ワークショップでは主にサワナケット農林局、ラオス国立大学からの参加者により、今後の課題として水稲生産の増大と新たな商品作物の導入、収入源の多様化といったことが論じられたが、将来ラオスにおいて農業生産の商業化が進行した際、このような環境と調和した村の生活が存続していくことができるか、強い興味を覚えた。

  ワークショップの意義のひとつとしては、これまで意見交換の場を持つ機会が少なかった政府関係者と村人、そして研究者が一堂に会することだということであった。これはタンザニアにおいてもよく見られる光景だが、政府関係者と村人のみでは、議論は表層的なものに終わりがちである。しかし、現場を知っている研究者が加わることで両者の深い議論が促進されるのではないだろうか。今回のワークショップにより、持続的な農村開発を目指すうえで在地の知識の潜在力を活用するには、研究者によるフィールド調査を基盤とした情報提供が、地域を問わず重要であると再認識した。

農民グループによる化学肥料を利用したトウモロコシの共同耕作の風景(タンザニアの調査地より)

 

 
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