タイとミャンマーを訪問した今回のスタディ・ツアーは、わたしにとってはじめての東南アジア滞在だった。タイではバンコクのみの滞在であったが、ミャンマーでは広域を見聞することができ、東南アジアの景観の一端を目にすることができた。カメルーンでの2年間、そしてミャンマーでのわずか5日間の経験をもってアフリカとアジアという枠組みでものをいうのはおこがましいけれども、無謀を承知のうえで両者の景観を比較するための視座について考えてみたい。
アフリカの植生景観においては、サバンナではネムノキ亜科のアカシアが、ウッドランドではミオンボとよばれるジャケツイバラ亜科の樹木(Brachystegia spp., Julbernardia spp., Isoberliniaspp.)が主たる景観を構成している。熱帯雨林ではほかの植生ほど卓越するわけではないが、ジャケツイバラ亜科(Gilbertiodendron dewevrei, Scorodophloeus zenkeriなど)やネムノキ亜科(Pentaclethra macrophylla, Albizia spp.など)の高木が特徴的である。伊谷[2002]も述べているように、マメ科の樹木がアフリカ大陸の植生景観を特徴づけているといえなくもない。
一方、ミャンマーでも、中央部の半乾燥地や南部のデルタ地帯の村ではマメ科(ネムノキ亜科)のアカシアとアメリカネムノキが村落景観の主たる構成要素となっていた。おもしろいことにこれらは外来の植物である。ちなみに中部乾燥地域の畑に植えられていたオウギヤシもアフリカ原産である。反対に、アジア原産のナンバンサイカチやマンゴーといった樹木はアフリカの景観においても欠かせない要素となっているが、ナンバンサイカチはマメ科(ジャケツイバラ亜科)に属している(マンゴーはウルシ科)。これらマメ科樹木を切り口として、アジア、アフリカ、そしてアメリカの熱帯地域の植生景観ないし村落景観の形成史をたどってみることができないだろうか。
本稿に登場した農作物のなかにはラッカセイ・キマメ・緑豆・毛蔓小豆などマメ科植物がみられたが、野生のマメ科植物にも多目的に利用される有用樹が多い。くわえて、ハリエンジュやナンバンサイカチが街路樹としてよく利用されることからもわかるように、成長が早いにもかかわらず、パイオニア植物にみられるような嫌らしさはなく、むしろ爽やかな印象をあたえるものがマメ科樹木には多い。多様な有用性をもつことと景観の構成要素として優れているというマメ科樹木の性質が大陸間における相互交流においてつよい契機となったことはたしかだろう。
このようなマメ科植物による景観形成を縦軸とするならば、原野と管理された土地という横軸を導入することによって、アフリカとアジアにおける景観比較の視座に広がりがでてくるのではないだろうか。アフリカでは村外に一歩でれば原野がひろがっているし、「原野に生きる」という表現が成りたつほどに原野が身近な景観として存在している。しかし、アジアにおいて、村外に出たとしても目にはいってくるのは遥かかなたまで農地である。おそらく山岳部には未開地があるのだろうが、平原部には人の手がはいりつくしているという印象をうけた。ミャンマー中央部の畑ではオウギヤシが整然とならんでいたが、カメルーンでは、プランテーションでないかぎり、整然とならんだアブラヤシをみることはなかった。
ただし、アフリカ=原野、アジア=管理された土地、というふうに短絡することは慎まねばならないだろう。アフリカにも、管理され、人の手のゆきとどいた土地はもちろんある。重要なのは原野と管理された土地という景観認識の軸と、マメ科植物による景観形成という軸との関係性を把握することである。そのときオウギヤシやアブラヤシといったヤシ科植物を分析対象にくわえてみるのもいいかもしれない。ヤシ科植物もまた多目的に利用され、熱帯地域にひろく分布しており、マメ科植物と同様、景観形成において無視できない植物である。マメ科植物にくわえてヤシ科植物にも注目することによって、アジアとアフリカにおける景観比較に厚みがでてくるにちがいない。
引用文献
伊谷純一郎, 2002, 「アフリカの植生を考える」『アフリカ研究』60:1-34. |