ラオス北部の町ルアンパバーンに到着した翌日、私たちはタイ・ルー(ラオ低地民、以下ルーと記す)が居住するナーヤンタイ村へ向かった。道中立ち寄ったマーケットや商店には、ほうき、かご、いすなど植物を用いた道具類が所狭しと並べられていた。アフリカにももちろんこのような商店はある。しかし、私の調査地であるタンザニア中央部とは利用されている植物が異なり、タケが多く使われていることに気が付いた。その日の朝購入したカオラムという食べ物も、タケの稈の中にもち米とココナツ果汁を入れて炊き上げたものだった。
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写真1: 道中立ち寄った商店
買い物をしているのは風戸真理さん(ASAFAS院生) |
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写真2: タケの稈の中にもち米とココナツ果汁を
入れて炊き上げたカオラム |
バスに乗ること約4時間、ナーヤンタイ村に到着した。ナーヤンタイ村に居住するルーは、水田稲作を主な生業とする人々で、村は高床式の大きな家とヤシが立ち並び、とても心地よい景観が広がっていた。大きな高床式の家はやはりタケで作られていた。その後、いろいろな道具類に注目しているうちに、家、穀物倉庫、畑の柵、マット、かご、いす、農具、漁具、ドラム缶の蓋、ニワトリを運ぶかご、帽子など、やはり非常に多くのものにタケが使われていることに気が付いた。
その後の聞き取りで、ルーにマイパイという名前のタケがあることがわかった。そこで、「マイパイには他にもいくつか種類がある?あるならその種類を教えて欲しい」とインタビューを行なうと、マイヒャー、マイボーン、マイサー(もしくはマイサンパノ)、マイソー、マイノーホム、マイホ(すべて未同定)という6つの名前が返ってきた。マイとはラオ語で「木」を表す。これら7種類のマイパイの仲間は、それぞれのタケの強度、稈が中実か中空かといった性質によって、用途が異なっていた。
建材は、大きな柱以外ほとんどがタケで、壁にしたり屋根を葺いたり、その用途によって、タケの種類を使い分けていた。
いす、マット、かご、もんどり、帽子など、編んで作っているものには、マイソーが利用されることが多かった。これらは、マイソーを細く割り、薄くさいて用いているようだが、おそらくマイソーはそれほど強固なタケではないだろう。また、マイソーより堅固なマイサーは、ドラム缶の蓋や棚を作るのに利用されていた。稈が中実であるマイボーンは、農具の柄として利用されていた。
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写真3: タケ製の帽子をかぶり、
タケ製のかごを担ぐ女性 |
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写真4: タケ製の立派な穀倉 |
これ以外にも非常におもしろいタケの利用法があった。バイボーンと呼ばれる植物を材料とするライボーンという料理があり、それを調理する時にタケが用いられる。バイボーンは、野生種が2種、栽培種が1種あり、野生種は乾期にだけ採集できるそうだ。私が水田で見たバイボーンは野生のサトイモだと考えられる。ルーはバイボーンの葉だけを利用して、イモは食べない。ライボーンの調理方法は、タケにバイボーンの葉と水と塩を入れ、叩き潰しながらトロトロになるまで煮る。その時、鍋代わりになるのがタケ筒であり、また叩き潰す棒もタケだった。
ナーヤンタイ村で頂いた4回の食事のうち、2回にライボーンが出てきた。そのうちの1回のライボーンには、バイボーンの他に水牛の皮の燻製が加えられていた。私が調査しているタンザニア中央部のサンダウェの村には、畑に自生するベテベタと呼ばれる半栽培植物(ニセゴマCeratotheca sesamoides)の葉を利用したおかずがあり、非常に高い頻度で食べられている。それが畑に自生しているただの雑草である場合はベテベタと呼ばれるが、おかずとして採集された時からそれはカンカサという異なる名前で呼ばれ、カンカサ100%で作られた場合、料理名もカンカサ
と呼ばれる。カンカサ以外に何か(例えば粉状にしたラッカセイや他の野草)が加われば、その料理名はシュンブルーと呼ばれる。カンカサは特に、食材の乏しい乾期に重要な食料であり、カンカサが1週間続くことも珍しくない。カンカサとよく似た色のライボーンを頂きながら、もしかしたらルーにとってのライボーンは、サンダウェにとってのカンカサのようなものなのだろうか、と思った。
ラオ語でラオと呼ばれる米の蒸留酒があり、この蒸留作業においてもタケが用いられていた。ドラム缶を利用した蒸留装置から、酒を入れる瓶までの管をタケが担っていた。稈が中空であれば、他の植物と比較して用途の幅が広がるのだろう。
さらに忘れてならないタケ利用として、「筍を食べる」がある。以前はルーの人々は筍を漬物にして保存していたそうだが、近年はビニールに入れて真空状態にして保存している。
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写真5: 田んぼで見つけたバイボーン野生種 |
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写真6: ライボーンを作る女性 |
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写真7: 11月27日のおかず 右下の緑色のものがライボーン、右中が筍 |
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