「香しい優しさ」 片岡美和 (東南アジア地域研究専攻)
残念です。お鍋からたちこめる、まったり甘い香しい香りをお届けできないのは。
ただいまこの鍋は、ドドールを煮詰めている最中なのです。
ドドールは、餅米の粉、ココナッツミルク、椰子砂糖を煮詰めて作る、ういろう状のお菓子です。インドネシア、ジャワ島西部の山間農村では、収穫祭や結婚式などの特別な行事の折に、大きな鍋でたくさんのドドールを作ります。
明日は、この鍋の持ち主であるンジャイさんの孫が割礼の儀式を受ける日です。ンジャイさんは、親戚や村中の人に配るドドールを作るために、たくさんの餅米と、椰子砂糖、ココナッツミルク、薪を何ヶ月も前から準備していました。
鍋は常にかき混ぜていないと焦げ付いてしまうため、村人が交互に手伝いにやって来ます。粘り気のある液体を混ぜるには相当な力がいります。二日かけて出来上がったドドールは、ンジャイさんの家族を想う気持ち、村人の協力が絶妙の味付けとなって、やさしい味がお腹にしみわたりました。