「おばあちゃんのカゴ編み」 近藤史 (アフリカ地域研究専攻)
タンザニア南部に住むベナの女性たちは、ミルルと呼ばれるカヤツリグサ科の植物の茎を使って2種類のカゴを編みます。よく見られるのは編み目の詰まったカゴで、ベナの女性は誰でもこれを編むことができます。乾季になると、カマドのそばでカゴ編みに精をだす女性をよく見かけます。
もうひとつは、ザルのようにすき間をもたせながら編み上げたカゴです。ミルルの茎は柔らかいので、編み目を飛び飛びに作りつつ全体の形を整えるには熟練の技が必要です。昔はこれを編める女性も多かったそうですが、今ではとても少なくなってしまいました。村の雑貨屋でプラスチック製のバスケットを買うほうが簡単だからです。私が初めて調査へ出かけた2000年、ベナの農村に一年間滞在しましたが、これを編んでいる場面には一度も出会えませんでした。
初回調査の帰り際、後者のカゴを手に入れることができず残念がっている私に、居候先のおばあちゃんが、「こんど来た時に編んでやるから安心してお帰り」と言ってくれました。この写真は、その約束を覚えいてくれたおばあちゃんが、2回目の調査で村を訪れた私のために、久しぶりにカゴを編んでいる様子です。「おやおや、こんなことも写真に撮るのかい?」と苦笑するおばあちゃんの手の動きにあわせて、ミルルの茎をしごく音がリズミカルに響いていました。この写真が最後の記録、なんてことになりませんように。