京都大学の伝統・理念と本拠点プログラムの位置づけ
京都大学の伝統のひとつは、学問における実証性の重視であり、とくに今西錦司の業績ならびにカラコルム・ヒンズークシュ調査などに代表されるように、現場主義に基づく、非ヨーロッパ世界を研究の場とする新たなパラダイムの探究である。また、京都大学は基本理念を「地球社会の調和ある共存」においている。統一研究テーマ「地球・地域・人間の共生」のもとで、フィールドワークに立脚した総合的地域研究の推進を標榜する本拠点プログラムは、こうした京都大学の伝統・理念をよく体現・実践するものである。
地域研究の必要性と本拠点計画の目的
21世紀を迎えた現在、言語文化領域や民族、国民国家とともに、それらと関連しつつも位相を異にする<地域>についての深い理解が必要とされている。それは、生態、社会、歴史の交差する場である地域にかかわる<知>の蓄積が、真に持続可能な地球社会の発展の方向性を打ち出し、アジア・アフリカを含む諸地域の自立と世界の共存、さらには自然と人間の共生を可能にする新たな秩序のあり方を構想するうえで、きわめて重要な役割を果たすと考えられるからであり、ここに学際的、文理融合的な総合的地域研究の重要性・必要性がある。
本計画にかかわる2部局は、重点領域研究「総合的地域研究」(平成5〜8年度)、および特別推進研究(前COE)「アジア・アフリカにおける地域編成:原型・変容・転成」(平成10〜14年度)によって、地域研究における拠点を形成してきた。本計画は、これらの基盤の上に新たな先端的地域研究を推進し、そこに大学院教育を有効的に組み込むための研究教育体制の整備を行って、研究・教育・社会的還元の有機的統合と高度化を進め、アジアにあって世界を先導する地域研究拠点を確立しようとする。そのために本計画では、「地球・地域・人間の共生」という統一研究テーマを設定し、これに関係する諸問題群について、教育と研究の融合を図りつつ、フィールドワークによる実証的な研究をとおして探求しようとするものである。この活動を支援するために、(1)フィールド・ステーションの設置、(2)「地域研究統合情報化センター」の充実化、という二つの研究教育体制の整備を行い、これらを有機的に結びつけることで、研究・教育・社会的還元を効率的に推進する。
地域研究の現状
戦後の地域研究における中心的拠点であったアメリカ合衆国は、国家戦略の変化にともない、地域研究の廃止ないし縮小化を行っている。そのため、アジアにおける地域研究の拠点形成と研究・教育のネットワーク化は、これからのアジア、アフリカを考える上できわめて重要である。また国内外における多くの地域研究機関は、人文社会科学分野が中心であり、地域の全体性を把握するための文理融合的な地域研究の必要性はいまだ十分には充たされていない。この意味で、本計画の成果としては、多様な問題群に総合的な観点から柔軟に対応しうるアジア・アフリカ地域の専門家・実務家の養成や、地域研究の知見の社会的還元に加えて、地域研究における研究・教育の高度化・文理融合の促進が期待される。
期待される研究成果、社会的意義、波及効果
- 専門分野が異なる複数の研究者・大学院生が、フィールド・ステーションにおいてともに研究することで、これまでの単独研究に比し、格段にフィールドワークの質の向上と、研究・教育の効率化・高度化・文理融合が促進できる。また、地域を総合的に理解し、多様な問題群にも柔軟に対応しうる能力をもった、現場体験の豊かなアジア・アフリカ地域の研究者・実務者を養成できる。
- 現代世界を取り巻く諸問題の多くは、社会と自然(生態)が絡み合った異種混交の問題群である。このような問題群を、社会科学と自然科学に分けて対処しようとしてきたところに、現代社会における根底的な陥穽がある。本計画では「地球・地域・人間の共生」にかかわる問題群を文理融合的に研究教育することで、諸問題の本質を明らかにし、現実的な対応への道を構想することが可能となる。
- 「地域研究統合情報化センター」の充実化によって、本計画終了後も地域研究教育の発展を図ることができる。さらに、世界との双方向的・非覇権的な情報発信・交換によって、地域研究における研究・教育の深化と、その成果の社会的還元が可能となる。