発表

シンポジウム開催当日(2007年10月2日)は、まずマケレレ大学副学長Livingstone S. Luboobiが開会のスピーチをおこない、つぎに太田が日本とウガンダの学的交流の歴史を素描した。その後、波佐間がシンポジウム開催にいたった経緯とその目的を述べたあとで、研究発表が続いた。

シンポジウムは3つのセッションと特別講演、総合討論によって構成されていた(プログラム)。各セッションはチェアパーソンによる導入に続いて、4つの研究発表がおこなわれ、ディスカッサントによるコメントを経て、会場の聴衆も参加して討論がなされた。以下では各発表の内容をごく簡単に紹介する。より細かな内容は、アブストラクト集をご参照願いたい。

10月2日午前のAセッション「アフリカ人類学とアフリカ研究における理論的問題−アフリカ人類学とアフリカ研究の文脈において自己/他者とはなにか−」では、まず森口が、1986年の「ライティングカルチャーショック」以後に、アフリカにおいて民族誌を書くことの新たな戦略を探った。つぎに波佐間はウガンダ北部に暮らすカリモジョンの詩にみられる自己の解放を分析した。白石はアフリカ農村が近年経験している劇的な社会変容を、「大きな物語」に回収されないでどのように描くことができるのかを検討した。佐川は「暴力的」と表象されることが多かった東アフリカ牧畜民が、近隣集団とのあいだに形成している平和的な関係に焦点を当てた。森口と白石が調査、分析、記述する側とされる側の関係に焦点を当てたのに対して、調査対象とする人びとにとっての自己と他者の関係に焦点を当てたのが波佐間と佐川の発表であったと考えることができる。
Aセッションのようす

10月2日午後のBセッションは、「アフリカ人類学とアフリカ研究における創造の問題−アフリカの文脈において、いかに自己/他者の経験を表現できるか−」として、アフリカの人びとの創造的な実践に焦点を当てた発表がおこなわれた。Rose Kirumiraはみずからが制作した彫像の制作プロセスと完成後に他者からなされた評価を検討した。佐藤はウガンダのバナナ農家の生産活動に焦点を当てて、人とバナナ、バナナをとおした人と人の多面的な関係を明らかにした。Mike Kuriaは、ダンスと唄に表現されるケニアのキクユの人びとのセクシュアリティについて分析をおこなった。大門はマケレレで近年流行しているポピュラーカルチャー「カリオキ・ショー」における、演者と聴衆の関係に焦点を当てた。いずれの発表も自己と他者の境界のあいまいさに焦点があてられ、創造の過程を自己と他者、あるいは主体と客体が相互に変容していく過程として描きだしていた。
Bセッションの発表者

10月3日の午前中におこなわれたCセッション「アフリカ人類学とアフリカ研究における実践の問題−アフリカの文脈において自己/他者の関係をいかに問うことができるか−」では、人類学の応用的側面、とくにアフリカで深刻な問題となっているHIV/AIDSに関する問題に議論が集中した。Wotsuna Khamalwaは、ウガンダにおける伝統医療と近代医療の関係について検討し、Charles Barwogeza Rwabukwaliは、ウガンダのバトロ社会における在来の性交渉や文化規範とHIV/AIDS感染の関係を議論した。椎野は、ケニアのルオ社会における「レヴィレート婚」の慣習とその変化が寡婦の生活にいかなる影響を与えているのかを解明した。Anthony Simpsonはザンビアのカトリックの寄宿生学校における男らしさとセクシュアリティの関係について分析した。

Cセッションの発表者


マケレレ大学副学長によるオープニングスピーチ


会場のようす

10月2日の午後からは、特別講演としてV.Y.Mudimbeが、”On the Idea of Humanity in the Name of Similitude”(「類似性の名におけるヒューマニティの観念 」)と題して、認識において誤謬が発生する経緯について述べた。総合討論では、3名の学生のコメントに続いて、発表者、ディスカッサント、チェアパーソン、聴衆が参加して議論をおこなった。最後にEdward Kirumiraがウガンダ、日本両国の緊密な相互関係を維持していくことの重要性を指摘して、本シンポジウムは幕を閉じた。
特別講演をおこなうV.Y.ムディンベ

この日の夕方には、カンパラ市内にある「SAKURAレストラン」において約85人が参加する盛大な懇親会がひらかれた。参加者たちは、バナナを使った数種類のガンダ料理や天ぷらなどの日本料理、そしてワットとインジェラのエチオピア料理などに舌鼓をうち、また、おそくまで踊りに興じながら交流を深めた。