(3) 調査地のトウガラシ換金栽培における高投入性の弊害として、農薬被曝や負債が問題視
されている(前回調査結果*)。この問題を解決するために、地域で入手可能な植物資源を病害虫防除に活用することはできないかと考えて、植物農薬として利用
できる植物資源の探索を開始した。殺虫作用があると村人たちが考えているものや文献で書かれているもの12種類を得た。これらから水抽出液や熱湯抽出液を作製
し、トウガラシの主要害虫ハスモンヨトウ(Spodoptera litura)幼虫に効くかどうかを実験室内にて試験した(写真1)。カロトロピス
(Calotropis gigantea)とトウダイグサ科落葉低木の一種Cleistanthus collinusの葉の水抽出液に、食害を軽減する効能があることが認めら
れた。これらは、調査地内の荒地や森林で大量に入手可能できるうえに、一晩水に漬けて濾過するだけで抽出液が作製できる。つまり村人たちが容易に自作するこ
とができる。
近隣のトウガラシ栽培が行われていない地域では、自家消費用のモロコシと水稲を基幹とした低投入型農業が続けられている。換金農業に傾倒しな
くても辛うじて生計が維持できているのは、多種多様な植物資源が毎年確実に一定の収入をもたらしているからである。中でも、パルミラヤシ
(Borassus flabellifer)の葉(写真2)、葉柄、樹液醸造酒や、ボンベイコクタン(Diospyros melanoxylon)の葉、バターノキ
(Madhuca indica)の花の蒸留酒が安定した収入源である。販売先も様ざまであり、政府系公社や、地域の富農、仲買人などと産物により異なる。
収穫後の耕地で、自家飼養牛を停泊させて排泄した糞を踏み砕かせることを、毎晩違う場所で繰り返すことにより耕地全体を施肥するという技術
(コラリング、Corralling)が、コヤ族地域では一般的に見られる。半数以上の水稲栽培世帯が、この方法で水田を施肥していた(写真3)。村人たちは、どの
植物を牛やヤギが好んで食べるかということについて豊富な知識を有している。この施肥方法も、家畜を用いて植物資源を肥料として利用するという意味では、
植物資源の有効利用技術であると言える。
以上各点はいずれも、調査地域において持続可能な農業技術を維持または開発するために、地域の植物資源が活用されていること、あるいは活用
されるべきであることを示唆している。
*: http://areainfo.asafas.kyoto-u.ac.jp/japan/activities/fsta/16_tsunashima/16_tsunashima.html