ラオス・フィールド・ステーション(LFS)活動報告(平成17年度No.3)
−京都大学(ASAFAS・CSEAS)・ラオス国立大学共同研究プロジェクトの進展− |
増原善之 (21世紀COE研究員) |
平成17年度活動報告No.1において報告した通り、2005年8月、LFSはラオス国立大学林学部と協力して、京都大学(ASAFAS・CSEAS)・ラオス国立大学共同研究プロジェクト
「在地の知識‐過去、現在、未来‐」を立ち上げた。今回は、2006年2月22日から3月1日まで行われた第2回現地調査の模様につき報告したい。
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(1)参加メンバーと研究テーマ
社会科学部講師のペンシー・カムムンクンは近くタイ国へ留学することになったため、本プロジェクトから離脱することとなったが、新たに農学部講師のブントーン・
ゲオチャンダーがプロジェクト・メンバーに加わった。メンバーと各自の研究テーマは以下の通りである。
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氏名
所属 |
研究テーマ |
1 |
ランプーン・サイウォンサー(リーダー)
ラオス国立大学林学部講師
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サワナケート県チャンポーン郡における森林物産の伝統的利用について |
2 |
ブントーン・ゲオチャンダー
ラオス国立大学農学部講師
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サワナケート県チャムポーン郡における伝統的農具の収集および天然染料の研究 |
3 |
プーウィン・プーサワン*
ラオス国立大学農学部講師
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サワナケート県チャムポーン郡の氾濫原における漁業の研究 |
4 |
ゲーサドン・シリトーン
LFS現地スタッフ
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サワナケート県チャムポーン郡の住民の生活におけるキーター塩の役割 |
5 |
虫明悦生
京都大学CSEAS研修員
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サワナケート県チャムポーン郡周辺における語り歌(ラム)に歌われる地域の風土と住民の暮らし
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6 |
大塚裕之**
京都大学ASAFAS院生
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メコン川中流域における氾濫原の役割
−淡水魚の生態と住民の資源利用− |
7 |
増原善之
京都大学ASAFAS・COE研究員
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「在地の知識」の伝承における伝統文書(バイラーン)の役割 |
*プーウィン・プーサワンは、校務の都合により時期をずらして単独で現地調査を行うことになった。
**大塚裕之は、今次現地調査の終了後もサワナケート県チャムポーン郡に留まり、定着調査を行っている。
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(2)現地調査の概要
2006年2月22日、プーウィンを除くプロジェクト・メンバーは、首都ビエンチャンを出発し、陸路サワナケート県へと向かった。走行距離にして約470キロ、所要時間7時間の旅であった。
翌23日、サワナケート県農林局を訪問し、今次現地調査ならびに大塚の定着調査の概要につき説明したうえで現地関係諸機関の理解と協力をお願いした。虫明は同県情報文化局等で「語り
歌(ラム)」に関する情報収集を行うため、しばらく同地に留まったが、他のメンバーは調査地である同県チャムポーン郡へ移動した。同郡農林普及事務所および情報文化事務所を訪問した
後、メンバーは各自の調査地に分かれて、現地調査に取りかかったのである。今回は7名のメンバーのうち、リーダーのランプーンおよびLFS現地スタッフのゲーサドンの調査の模様を紹介したい。
- 林学部講師のランプーン・サイウォンサーは、チャムポーン郡ラオホアカム村およびその周辺でラタンの栽培状況について調査を行っている。ラタンの新芽はラオス料理の食材として
広く利用されているが、森の中で自生しているものを採取するのが一般的である。20年ほど前、ラオホアカム村のある家族が自らの食用にと家の庭先にラタンを植えたのがこの地域におけるラタ
ン栽培の始まりだという。これにならって他の家族が植え始めると、買い付けに来る者も現れるようになり、以後、これを換金作物として栽培するようになったという。現在ではラオホアカム村
の大多数の世帯がラタンを栽培しており、中には年間500ドル程度の収益を上げている家族もあるという。種子や肥料などを購入し、収穫に至るまでに少なからぬ投資を必要とする他の換金作物とは
異なり、ラタン栽培はほとんど経費がかからないうえ、植え付け後3年経過すると1年を通じて収穫できるという利点があり、住民にとって安定した副収入源となっている。次回の現地調査では、雨
季に行われる苗木の植栽やラタン栽培が土壌に与える影響などについて調査を行っていく。
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ラタン(左)とその栽培地(右)
茎は長く鋭利なとげで覆われている
(チャムポーン郡ラオホアカム村)
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- LFSスタッフのゲーサドン・シリトーン(ラオス国立大学農学部卒)は、チャムポーン郡ラオスリニャ村、ドンカンクー村、ドンドークマイ村などでキーター塩の製法や流通について調査している。
この地域の住民たちは、乾季になると地表面に浮き出てくる塩の結晶を土とともにかき集め、これを塩水濾過槽に入れ、水を注いで塩分を溶かして塩水をとる。塩水濾過槽には、高み(小丘、塩を抽出
した後の土を捨てる所)の上部に穴を掘り、漏水を防ぐため内部に粘土を貼ったもの(スン)と丸太をくり貫いて作ったもの(ハーン)の2種類がある。濾過槽の下に置かれた容器にたまった塩水を煮
詰めることでキーター塩が得られるのである。キーター塩は、工場で生産される塩より味にコクがあり、ラオス料理に欠かせないと言われており、製塩を行う村では買い付けに来る者が後を絶たないと
いう。しかし、多くの農民が積極的に製塩に取り組むという状況にはなく、むしろ乾季に農業用水が十分確保できないため換金作物栽培が困難であり、かつ他の副業を行うだけの資金もない貧しい農民
に残された唯一の現金収入源という側面もあるようだ。近年、塩土の採取場が縮小する中、製塩に従事する住民も減少傾向にあるという。次回の現地調査では、製塩プロセスをより詳細に調べるともに、
キーター塩の流通について聞き取り調査を行う予定である。
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地表面に浮き出てくる塩の結晶 (ドンカンクー村) |
塩水濾過槽(スン) (ドンカンクー村) |
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塩水濾過槽(ハーン) (ラオスリニャ村)
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塩水を煮詰める (ラオスリニャ村)
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