報告
ナイロビ・フィールド・ステーション(NFS)活動報告 No.1
「2005年7-9月の活動報告および21世紀COE研究員の調査研究の概要」
孫暁剛 (21世紀COE研究員)

2005年7〜9月におけるNFSの活動内容、ならびに21世紀COEプログラムの一環としてCOE研究員自身がおこなっている個別研究について報告します。

  1. 2005年度、第1回ステーション・セミナーの開催
  2. 教員による臨地教育と大学院生によるフィールドワークに対する支援
  3. ナイロビ日本人学校との交流
  4. COE研究員の調査研究活動


発表者の庄司航(ASAFAS大学院生)

砂金の分別作業をおこなう
トゥルカナの女性

(1)2005年度、第1回ステーション・セミナー
   2005年8月3日、ナイロビ・フィールド・ステーションにおいて今年度の第1回セミナーが開催されました。

発表者 庄司航
(京都大学・アジア・アフリカ地域研究研究科[ASAFAS]・大学院生:平成16年度入学)
タイトル 「北ケニアにおける金鉱床の形成と牧畜民トゥルカナの採掘活動」
発表概略

発表者が、調査地のナモルプス(Namoruputh)に着いて最初に目をひかれたのは、町の地面をおおう、一面の白い石であった。また、北には雄大なロイマ(Loima)山がそびえており、その手前には、台地状の奇妙な地形がひろがっていた。調査地を歩きまわった発表者は、石英の結晶(水晶)や、果てしなく広がるレキ、貝塚のような表面をもつ石など、今まで目にしてこなかった景観を数多く見た。ナモルプスのすぐ南にある山のふもとでは、牧畜民であるはずのトゥルカナが、金の採掘をおこなっているのを目撃した。企業に雇われているのではなく、生業としておこなっているのである。これらのことは、この土地が大地溝帯の一部、すなわち、地球内部からプレートが湧き上がってくる地域のなかに位置していることと深く関連している。本発表では、まず、牧畜民トゥルカナの一般的な生活について述べ、トゥルカナの採掘活動について報告する。そして、地下資源の存在は、地球自身の運動と深い関係があることを説明し、地下資源という観点から人類(社会)の進化を考える、という今後の研究の構想について述べる。

参加者
  • 太田至(ASAFAS・教員)
  • 品川大輔(日本学術振興会・ナイロビ研究連絡センター・センター長)
  • 品川紀子
  • 中村香子(ASAFAS・大学院生:平成10年度入学)
  • 井上真悠子(ASAFAS・大学院生:平成17年度入学)
  • 孫暁剛(ASAFAS・21世紀COE研究員)

セミナーの様子(1)

セミナーの様子(2)


太田至教授による臨地教育
(右2人目は太田教授、
左端はASAFAS院生のMutuaさん)
(2)教員による臨地教育と大学院生のフィールドワークに対する支援

  2005年9月15-19日の期間、太田至(ASAFAS・教員)が臨地教育のため、ASAFASの大学院生ムトゥアさん(Charles Mutua Musyoki:平成16年度第3年次編入学、ケニア人留学生)の調査地を訪問しました。それには、今栄博司(JICA・環境教育専門家)と孫暁剛(21世紀COE研究員)の2名が同行し、調査地に一緒に滞在して、研究視点に関する議論やフィールドワークに対するアドバイスなどを行いました。

  ケニアでは、多くの国際的な保護団体が野生動物の保護を求めて活動しています。また、国の政策でも観光資源としての野生動物の重要性が強調され、狩猟の全面的な禁止など、野生動物の保護政策が実施されています。しかしながら、国立公園や保護区の近隣に住む地域住民が、野生動物によるさまざまな被害を受けていることは、あまり注目されてきませんでした。具体的には、農作物が荒らされ、家畜が殺されること、ときには人間の生命も危険になるという問題があります。ムトゥアさんは現在、ケニア山国立公園とアバディア国立公園のあいだにひろがるニエリ県の北部で農耕をおこなっている人びとを対象に、野生動物と人間との共存をテーマにして、長期にわたるフィールドワークをおこなっています。


象に荒らされたトウモロコシ畑を見学
(左端は太田至教授、右から今栄さん、Mutuaさん)

住民から聞き取りをおこなう
Mutuaさん(ASAFAS院生)

(3)ナイロビ日本人学校との交流

  2005年9月23日、ナイロビ日本人学校の結城政好先生と、中学3年生の若田部緑さん、杉山拓馬くんがNFS を訪問して、太田至(ASAFAS・教員)から話を聞きました。

  ナイロビ日本人学校とは、ケニアに在住する日本人の子弟を対象とした在外教育施設です。そして今回の交流は、同校の中学3年生がおこなっている「総合的な学習の時間」の一環として実施されたものであり、来訪した生徒たちは「私たちはどこから来て、どこへ行くのか」というテーマについて自主的な学習にとりくんでいます。具体的には、ヒトの進化、人類の発祥、類人猿とヒトの違い、ケニアにはどんな民族がいるのか、いつ、どこから来たのか、民族とは何か、民族同士の関係はどうか、日本人の祖先はどこから来たのか、今後、どうなっていくと考えられるか、といった課題について、生徒たちは、図書館やインターネットで調べたり、ケニア国立博物館を訪問して話を聞いたりしてきました。この日にNFSでは、太田教授から、ケニアにおけるエスニック・グループの形成や民族間関係、そして文化の多様性について話を聞きました。生徒たちは自主学習の成果を、11月5日に予定されている発表会で公表します。


熱心に話を聞く中学生たち

文化の多様性について語る太田教授(右二人目)

(4)COE研究員の調査研究活動

  私は2005年6月30日より、COE研究員としてケニアにおいて調査研究活動を開始しました。研究テーマは「東アフリカの遊牧社会における『近代化の経験』と生活の再構築に関する社会生態学的な研究」です。

  東アフリカ乾燥地域にひろがる遊牧社会の人びとは、過去約30年のあいだに、開発援助や現金・市場経済の浸透、そして国民国家への統合といった激動の時代を生き、「近代化の経験」を積み重ねてきました。その過程では、定住化や牧草地の私有化などの影響によって高い移動性を特徴とする伝統的な遊牧は継続できなくなったという悲観的な見方があります。しかしながら他方では、人びとが生業経済の基盤を遊牧におきながら、「近代化」によってもたらされた新しい経済機会を積極的に利用して生業の多角化を試みているという事例も報告されています。

  私が1998年からフィールドワークをおこなっている北ケニアの遊牧民レンディーレ社会では、人びとが定住化の進行に対処するために、従来の集落と放牧キャンプのセットによる分業をより徹底化させています。すなわち、集落には既婚者を主体とする人びとが住み、放牧キャンプは未婚者を中心に運営することによって、家畜飼養に必要な高い移動性を維持しています。また、現金経済の拡大に対して人びとは、市場価値の高いウシを増やしたり、都会に出稼ぎに行ったりして、新しい経済活動を試み始めています。

  現在、私は遊牧社会における市場経済の浸透と生業の多角化への試みに注目して、レンディーレ社会の継続調査をおこなっています。具体的には、(1)現金・市場経済の浸透にともなって、遊牧民をとりまく地域の経済システムがどのように変化しているのか、(2)人びとが新しい経済活動に参入していく契機と動機、そしてそれに影響している要因は何か、そして(3)従来の家畜に対する社会的・文化的な価値評価や社会の安定性を重視する自然資源の所有・利用形態は、市場価値という「近代的」価値基準の出現によってどのような影響をうけているのか、それに対して人びとがどのように考え、対応しているのかに焦点をあてて、われわれと同時代に生きる遊牧民の姿を描き出す研究をめざしています。


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【映像資料名】
ナイロビ・フィールド・ステーションの活動(1)
【撮影場所】
ケニア
【撮影日時】
2005年8月3日、9月15-19日、9月23日
【撮影者】
孫暁剛
【編集】
川瀬慈
【内容】
1.ステーション・セミナー
2.フィールドワーク
3.ナイロビ日本人学校との交流



 
 

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