報告
ナイロビ・フィールド・ステーション(NFS)活動報告 No.2
「2005年10−11月の活動報告」
孫暁剛 (21世紀COE研究員)


遊牧民サンブルの家でミルク容器の説明をうける。

私たちの突然の来訪に大騒ぎする
遊牧民レンディーレの子供たち。
(丸山淳子さん撮影)

(1)NFS関連の調査研究活動

  10月から11月にかけて、京都大学名誉教授の田中二郎さん、日本学術振興会特別研究員の丸山淳子さん(元ASAFASの大学院生)、そしてASAFASの大学院生の村尾るみこさん(平成12年度入学)と藤岡悠一郎さん(平成14年度入学)がアフリカの広域調査のためにナイロビを訪れました。田中さんと丸山さんはボツワナのカラハリ砂漠に暮らす狩猟採集民サンの人類学的な研究を専門とし、村尾さんはザンビアの砂土が堆積する疎開林で、近年アンゴラから移住してきた農耕民の生業研究に従事し、藤岡さんはナミビアの乾燥地域をフィールドとして農牧民の植物利用の調査をしています。
  今回ケニアを訪れたのは、アフリカの乾燥地域の自然と生業に関する地域間の比較研究を目的として、北ケニアの半砂漠地域に暮らす遊牧民諸社会をイクステンシブに調査するためでした。田中さんは、1970年代に北ケニアの遊牧民レンディーレとポコットを対象に生態人類学的な研究に従事された経験があり、今回は30年ぶりの北ケニア訪問です。
  まず10月22−30日、私の案内で田中さん一行はマララル周辺に住む遊牧民サンブルを訪ねました。サンブルはウシに高い価値評価をおき、鮮やかなビーズ装飾文化と勇敢な戦士(モラン)で知られる人々です。ASAFASの大学院生である中村香子さん(平成10年度入学)の調査地がマララルの近くにあります。
  続いて11月2−7日に、丸山さん、村尾さん、藤岡さんと私の四人は、再び北ケニアの広域調査をおこないました。今回はASAFAS大学院生である内藤直樹さん(平成10年度入学)が調査している遊牧民アリアール、私の調査対象であるラクダ遊牧民レンディーレ、そしてトゥルカナ湖畔に住む遊牧民トゥルカナと漁撈民エルモロの人びとを訪問しました。
  私は1998年以来、北ケニアの乾燥地で調査を続けてきましたが、今回は、アフリカの違う地域で調査をおこなってきた研究者たちを自分のフィールドに招いて現場でディスカッションをおこなうことによって、異なる視点から自分の研究を再考することができ、たいへん大きな刺激を受けました。
  また、今回の広域調査について、参加者から以下のような感想が寄せられています。
【丸山さん】
北ケニアのレンディーレやサンブルなどの遊牧民は乾燥地において遊動的な生活を営んできた人びとであり、近年になって水場や学校などの周囲で定住的な生活を始めているという点でも、私が調査を進めている南部アフリカのサンと似通っているために、非常に興味深かったです。サンをとりまく状況とくらべて、定住化の圧力や、土地利用にかかわる制約が緩やかであるものの、新たな状況のなかで人々の生活が変わりつつあることが、よくわかりました。また遊牧民が人口の大多数を占めるこの地域で、漁撈や狩猟、採集などを営んできたエルモロやドロボーなどの少数民族が、近年の開発計画などの進行にともなってどのような変化を経験しているのかにも興味をひかれました。機会があったら再びこの地域を訪れて調査をしてみたいと思います。
【村尾さん】
北ケニアでは、家畜に高い価値をおきながら営まれている遊牧民の生業形態が大変印象的でした。わたしは、ザンビアで農耕に従事する人びとが、作物生産を維持するために様々な工夫をこらす様子を調査してきましたが、北ケニアでは、家畜に依存して暮らす人びとの創意に満ちた営みを実見することができて、非常に興味深かったです。こうした経験は、乾燥地域から湿潤地域への推移帯に暮らす農耕社会の人びとを、広域のなかで捉えなおすために、たいへんよい機会となりました。
【藤岡さん】
今回訪れた北ケニアは、私が調査をおこなっているナミビアと似たような乾燥地域に属していますが、その景観や集落の様子は大きく異なる印象をうけました。南アフリカによる統治期が長く続いたナミビアでは、国の大部分に広大な柵で囲まれた白人の大規模所有地が広がり、辺境の集落においても白人の経済活動の影響が強く感じとれますが、ケニアではそのような雰囲気をあまり感じませんでした。今回おこなった地域間の比較調査から、南部アフリカにおける南アフリカ経済の影響の強さをあらためて実感させられました。その一方で、北ケニアの特徴として感じたのが、ソマリ商人の活動であり、ナミビアにはみられないタイプの経済活動の展開として興味深かったです。

レンディーレの集落について説明をうける。
(村尾るみこさん撮影)
北ケニアのチャルビ砂漠にある泉を見学。
遊牧民にとって水源は何よりも重要である。
北ケニアで乾燥地の地形を調べる。
(村尾るみこさん撮影)
トゥルカナ湖畔に暮らす漁撈民エルモロの人びと。

(2)NFSのホームページの開設

  10月3日より、NFSのホームページが開設されました。NFSメンバーの研究テーマと概要・業績・フィールドエッセー、ケニアやウガンダにおける研究のカウンターパート、調査許可の申請方法、そしてナイロビやカンパラの情報などを紹介しています。 http://areainfo.asafas.kyoto-u.ac.jp/nfs/nfstop.html

(3)研究協力体制の推進

  10月18日に私は、日本学術振興会ナイロビ研究連絡センターとケニア共和国科学技術評議会(National Council for Science and Technology: NCST)の会談に参加しました。NCSTは、ケニアにおける科学技術の振興のために政策立案などの重要な任務を負っている機関です。この会談は、ケニアと日本の教育研究機関のあいだの協力体制を推進するための可能性について意見交換をしたいという、NCSTの要望によって開かれたものです。日本側からは、日本学術振興会ナイロビ研究連絡センターのセンター長である波佐間逸博(ASAFAS研修員)さんと私の二人が参加し、NCSTからはDr. John O. Onyatta (Chief Science Secretary, NCST)、Prof. George M. Siboe (University of Nairobi)、Mr. John M. Chege (Directorate of Higher Education, Ministry of Education, Science and Technology)など、8名が参加しました。
  会談では日本学術振興会の活動全般について、特に研究連絡拠点の形成と二国間交流事業や拠点大学交流事業を中心としながら説明をおこない、また、「アフリカ諸国との交流の活発化」を実現した事例として京都大学のナイロビ・フィールド・ステーションを拠点として実施してきた活動についても具体的に説明しました。NCST側からは活発な質問とアドバイスがあり、この会談は、日本とケニアの教育研究機関のあいだにネットワークを構築してゆくために、非常に有意義なものであったと思います。なお、 教育研究における二国間の連携については、今後もさらに検討を継続してゆくことになっています。

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【映像資料名】
ナイロビ・フィールド・ステーションの活動(2)
【撮影場所】
ケニア
【撮影日時】
2005年10月〜11月
【撮影者】
孫暁剛、丸山淳子
【編集】
川瀬慈

 
 

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