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今回の現地調査で明らかにしたのは、主に次の2点である。
- タリーカの修道場の調査
ザンジバルにおけるタリーカの修道場の位置や、どのようなタリーカがどのように活動を行っているか、については、これまで明らかにされていなかった。今回の調査では、ザンジバル全土を回り、島内全域に100カ所以上の修道場があることを明らかにした。また、80以上の修道場におけるインタビューから、そのほとんどがカーディリー教団に属しており、彼らは現在もイスラーム教育等、社会的にも重要な役割を果たしていることが分かった。
- 預言者の医学の発見
また、調査地に決定したM地区の修道場の指導者Aは、クルアーンやハディース(預言者ムハンマドの言行録)に則って治療を行う医者でもあり、多くの時間を問診や、祈り(ドゥアー)を伴った治療に費やしていた。これまでの先行研究では、西洋以外の医学は、「伝統医学」や「呪術」として一括りにされてきた。しかし、今回の調査では、ザンジバル人が明確に「非イスラーム的な呪術」と区別している「イスラームに則った医学(預言者の医学)」という分野があることが分かった。預言者の医学に関する多くの書籍がスワヒリ語で出版され、精神的・肉体的な病気の治療や日常生活の問題の改善、願掛けなどが行われている。そのため、預言者の医学に注目することで、西洋医学と預言者医学との関係、現在のザンジバル人が、日々の中の問題をイスラームの教えに則ってどのように解釈し、解決しようとしているかといった、彼らのイスラーム実践の一端が明らかにできると考える。