(1) 研究課題 (博士論文に予定しているタイトル)
(2) 博士論文において目的としていること
(3) そのうち,今回の現地調査で明らかにしたこと
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渡航期間: 2006年7月9日〜2006年9月30日, 派遣国: インド
(1) 現代インドのガンディー主義と社会運動―スンダルラール・バフグナとヒマラヤの環境問題
石坂晋哉 (東南アジア地域研究専攻)
キーワード: ガンディー主義,社会運動,スンダルラール・バフグナ,チプコ運動,テーリー・ダム反対運動


写真1: テーリー・ダム
(堤高260.5mは世界第6位)


写真2: テーリー・ダム湖


写真3: 南インドを代表する
ガンディー主義者
ジャガンナータン夫妻
(2) 博士論文では、インド独立運動の指導者ガンディーに由来するガンディー主義の思想・実践が、社会改革思想・社会運動の潮流として現在も存続していることを示し、その論理・特徴と意義を明らかにする。
 博士論文では、まず、ガンディー主義的環境思想が出現した歴史的背景を論じる。M. K. ガンディー(1869-1948)没後のインドでは、土地問題に取り組んだヴィノーバ・バーヴェ(1895-1982)やインディラ・ガンディー政権に対抗したJ. P. ナーラーヤン(1902-79)をはじめとして多くのガンディー主義者が活躍してきたが、現在のガンディー主義者の多くは環境問題に取り組むようになってきている。他方、インドにおける環境思想史は1970年代に入って本格的に始まったといえるが、そのなかで、「ガンディー主義的改革運動家」たちは「エコロジカル・マルクス主義者」や「適正技術論者」と並んで主要な潮流のひとつを形成してきている。
 スンダルラール・バフグナ(1927-)は、北インド・ウッタラーカンド地域においてヒマラヤの環境問題に取り組んでいるガンディー主義者として全世界的に知られた人物である。彼はこれまで、1973年に始まったチプコ運動(地元住民が域外の企業などによる森林伐採を<樹に抱きついて(チプコchipko)でも阻止しよう>と始めた運動)や、1990年代にピークを迎えたテーリー・ダム反対運動(発電を主目的としたテーリー・ダムの建設に対し、その安全性や地元住民への補償の不十分さといった観点から反対する運動)などに、それぞれ運動の指導者として深く関わってきた。博士論文では、彼の知的遍歴を描くことで彼の思想・生き方の特質を明らかにするとともに、彼の森林保護論を中心とした思想と行脚や断食といった実践とが、運動の展開においてどのような役割を担ったかといった点に焦点を当て、ガンディー主義者が社会運動を組織する際の論理と特徴を明らかにしたい。

(3) 北インドのウッタラーンチャル州テーリー周辺では、テーリー・ダム反対運動に関する調査を行った(2006年7月中旬〜8月上旬、9月中旬〜下旬)。そこでは、運動への民衆の動員に際して、第一にバフグナのガンディー主義思想とそれにもとづく生き方に共鳴する「中間的指導者」たちの貢献が大きかったこと、第二に歌や噂などのオーラルなコミュニケーション手段が重要だったことが明らかになった。
  南インドのタミル・ナードゥ州ナーガパッティナム周辺とマドゥライ周辺では、南インドを代表するガンディー主義者ジャガンナータン夫妻の活動についての調査を行った(2006年8月中旬〜下旬)。そこでは、ガンディー主義者が社会運動を組織する際の共通の論理の解明に向けた資料を集めることができた。

 
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