筆者は21世紀COE研究員としてラオス・フィールド・ステーション(以下LFS)を拠点に調査研究活動を開始したが、2004年3〜4月におけるLFSの活動内容ならびに21世紀COEプログラムの一環として筆者自身が行う個別研究の計画につき報告したい。
なお、LFSは現地研究者との共同研究促進をその活動の大きな柱の一つとしているが、ラオス国立大学林学部を卒業した若手研究者Saysana 氏が、ASAFAS大学院生の小坂さんとともに共同研究を行い、その成果を本ワークショップにおいて発表したことは、カウンターパートとの協力体制構築が軌道に乗りつつあることを示していると言えよう。
LFSでは臨地調査のために来訪した研究者・院生等に対して適宜、必要とされる支援を行っている。2004年3〜4月におけるLFS来訪者は次の通り。
加藤真(京都大学大学院人間・環境学研究科 教授) 川北篤(京都大学大学院人間・環境学研究科 大学院生)
(3)個別研究の計画 筆者は2004年4月5日より21世紀COE研究員としてラオスにおいて調査研究活動を開始した。研究テーマは「ラオスにおける19世紀後半から現在にいたる森林資源利用の変遷−人は森にどうかかわってきたか−」である。ラオスは森林資源に恵まれた世界有数の「森の国」であると一般に考えられている。前世紀後半にラオスの森はかなり破壊されたとはいえ、多くの村人たちは今なお森と密接な関係を保ちつつ生活している。実際、ラオスの人々は、太古の昔からさまざまな森林資源を利用することで生きてきたのであり、その意味で森林資源の利用は、ラオス経済の最も重要な部門の一つであったと言っても過言ではない。言い換えれば、森林資源利用の変遷を含む広義の「林業史」あるいは「森林史」は、ラオス史研究全体においても主要な地位を占めてしかるべきである。 近年、森林保護や地方開発に対する関心の高まりをうけ、この地域の森林の現状に関してさまざまな側面(焼畑農業、土地・森林分配政策、非木材森林物産、山間部における経済活動等)から調査を行う研究者も少なくない。しかし、森林資源の利用が歴史的にどのように変化してきたかについてはこれまで十分に検討されてこなかったのではないだろうか。言うまでもなく、現代における村人たちの森へのかかわり方は、彼・彼女らが祖先から受け継いできた知識と経験の集積に基づいており、現在のラオスの森林をめぐる諸問題を理解し、その解決策を探るためには、森林資源利用を歴史的文脈の中で捉え直すことが大いに求められている。 本研究では、インドシナ半島にフランスを始めとする欧米諸国が影響力を扶植し始めた19世紀後半以降、植民地政府およびその後のラオス政府の森林経営(林業政策)が森に住む人々の生活にどのような影響を及ぼしたのか、ならびにそうした状況下において、人々は森にどうかかわってきたのか(森林資源利用)という2つの側面からラオスの森林について検討していきたい。その意味で、この個別研究はラオス班共同研究テーマ「ラオスにおける生物資源利用と地域社会」の中でその歴史的背景を担当するものと言ってよい。現在、ビエンチャンにおいて文献資料の収集・整理を進めるとともに臨地調査地の選定にかかる情報収集を行っている。
報告 >>No.2