プログラムの特徴としての総合的地域研究
プログラム「世界を先導する総合的地域研究拠点の形成―フィールド・ステーションを活用した臨地教育・研究体制の確立」の最大の特徴は、タイトルにもある「総合的地域研究」である。
総合的地域研究とは
総合的地域研究(Integrated Area Studies)は、4つの要素から構成される。すなわち、
- 文理融合(transdisciplinary studies)、とくに生態学的アプローチと問題関心を重視する文理融合。
- 基礎研究と実践的課題の融合(applied studies)。
- 地域間比較的融合(comparative area studies)。
- 臨地研究と臨地教育の融合(on-site education)。
プログラムが目指すのは、これら4つの融合に立脚した総合的地域研究を、教育・研究両面において推進することである。
プログラムの考え方
拠点形成推進機関である大学院アジア・アフリカ地域研究研究科(ASAFAS)ならびに東南アジア研究所(CSEAS)における地域研究のすべてが、かならずしも上記の4要素を兼ね備えているわけではない。たとえば、文理融合というよりはきわめて社会科学的な研究や、CSEASを中心に臨地教育的側面の薄い研究もあるというように、多様な形の地域研究が行なわれている。プログラムが目標とするのは、2機関の構成員が、たとえ上記要素のひとつについてでも意識的に取り組み、その成果を蓄積することによって、プログラム全体として総合的地域研究を推進することである。
具体的には、フィールド・ステーションを介した活動をつうじて総合的地域研究の教育と研究を推進し、新設予定の地域研究統合情報化センターを結節点として、その成果にかかわる情報蓄積・情報発信・情報交換を押し進め、アジアにおける最大の総合的地域研究拠点を形成する。
ウェブサイトの重視
研究・教育成果の情報蓄積・発信にかかわる地域研究統合情報化センターの将来的活動を念頭に、ホームページ、メール・マガジン等のウェブサイトによる情報発信を最重視し、これの頻繁な更新と定期的なコンテンツの見直しを行なっている。昨年、各種研究分野のメルマガのレヴューを専門とする編集者と、21世紀COEプログラム関係の英訳をよく担当するという業者から、本プログラムのウェブサイトを非常に高く評価する内容のメールを受け取ったが、プログラムはこれを大変誇りに思っている。ウェブサイトの新たな目標は、音(すでに着手)と動画を取り入れることである。
ASAFAS、CSEASの特色
ASAFAS、CSEASは、上記の総合的地域研究を推進するに適した以下の条件を備えている。
- 京都大学の研究者のフィールドワークは、今西錦司に代表されるように、生態学的関心が強く、ASAFAS、CSEASともに、この伝統を受け継いでいる。
- 両機関における研究には、基礎研究とともに、とくに環境問題・在来農法の再評価・開発等に関係した実践的課題への取り組みが顕著である。
- ASAFAS、CSEASが過去に推進した大型プロジェクト、すなわち重点領域研究「総合的地域研究の手法確立―世界と地域の共存を求めて―」(平成5〜8年度)、特別推進研究プログラム(旧COE)「アジア・アフリカにおける地域編成―原型・変容・転成―」(平成10〜14年度)は、すでに地域間比較的関心を示しているが、制度的にも2機関には東南アジア、南アジア、西アジア、アフリカをフィールドとする研究者・大学院生が集まっており、臨地教育・研究、研究会などをとおして、地域間比較的融合を実践する環境が整っている。なお、重点領域研究における「総合的地域研究」の英訳はGlobal Area Studiesで、地域間比較を意識した命名と内容であった。
- 京都大学において東南アジアならびにアフリカにかんする地域研究の大学院教育が専門的に始まったのは、独立研究科「人間・環境学研究科」内に東南アジア地域研究講座とアフリカ地域研究講座が設置された平成5年度である。その後、たとえ小さな研究科でも地域研究に適した独自の教育を実践しようと、平成10年度、東南アジア、アフリカ以外に、新たに南アジアと西アジアを加え、独立研究科「アジア・アフリカ地域研究研究科」を立ち上げ、世界でも珍しい、アジア・アフリカでのフィールドワーク経験の豊かな研究者による地域研究の大学院教育が開始されるにいたっている。
21世紀COEプログラムの意義
上記2機関の特色は、総合的地域研究のための潜在力を示すものではあるが、21世紀COEプログラムによってフィールド・ステーションが設置され、大学院生のための臨地研究・臨地教育支援の体制が整い、地域研究統合情報化センター設置の動きが始動することによって、ようやくこれらの特色を基盤として、総合的地域研究の実体化へ向けての現実的な取り組みが可能となった。 |