-- 全体構想と将来計画 --
I プログラムの概要 II 総合的地域研究とは III 今後の展開 IV さらなる飛躍を目指して 
 I プログラムの概要
 

1) プログラムの目的と特色
  本計画は、京都大学におけるアジア・アフリカ地域に関する長年の臨地研究の蓄積を踏まえて先端的な地域研究を推進させ、そこに大学院教育を有効に組み込むことにより世界を先導する総合的地域研究・教育の拠点形成を目指す。グローバル化のもと、地域社会と地球社会との接点が拡大・多様化するなかで、環境問題や南北問題等に見られるように、〈世界〉と〈地域〉の間の相克が先鋭化しつつある。これら現代世界を取り巻く諸問題の多くは、社会と自然が絡み合う複合的な問題群であるが、これまでは社会科学と自然科学に分けて対処しようとしてきた。こうした状況のなかで、真に持続可能な地球社会の発展の方向性を打ち出し、アジア・アフリカを含む諸地域の自立と世界の共存、さらには自然と人間の共生を可能にする新たな秩序を構想するうえで、生態、社会、文化が歴史的に交差する場である〈地域〉に関する文理融合的な知の蓄積が急務であり、そのための研究・教育拠点の形成が不可欠である。
  地域研究を標榜する世界の研究機関としては、連合王国のSOAS(ロンドン)やオランダのCNWS(ライデン)などがあるが、それらの多くは歴史学・政治学・経済学・社会学・人類学などの人文社会科学系が中心であり、本拠点のように文理融合的アプローチにより、地域間比較をも企図した総合的地域研究(Integrated Area Studies、略称IAS)を推進するところはきわめて少ない。また、本拠点は、フィールドワークを重視しながら、基礎研究と実践的関心の融合を図ること、先端的研究と現場における教育との融合を目指すものとしても、きわめてユニークである。

2) 期待される成果
  本拠点は、アジア・アフリカの各地に設置するフィールド・ステーション(FS)を核として、文理融合的なアプローチ、教育と研究の融合、基礎研究と実践的関心の結合、アジア・アフリカの地域間比較などを柱とする総合的地域研究を推進し、統一テーマ「地球・地域・人間の共生」のもとで、〈地域〉に関する新しい〈知〉の創出を目指すものである。同時に、地域研究に関する多元的情報の収集・整理・発信、および国内外の研究機関とのネットワーク形成のために「地域研究統合情報化センター」を設立し、これらの活動を支援する。FS及び地域研究統合情報化センターの機能を統合することによって、世界を先導する総合的地域研究拠点の形成を実現させる。
  これまで地域研究の中心であったアメリカなどは、国家戦略の変化にともない、地域研究を縮小している。そのため、アジアにおける地域研究の拠点形成と研究・教育のネットワーク化は、これからのアジア、アフリカを考える上できわめて重要である。また国内外の多くの地域研究機関による研究は人文社会科学分野が中心であり、地域の全体像を把握するための文理融合的なアプローチはきわめて不十分である。本計画の成果として、地域研究における研究・教育の高度化や文理融合の促進をはじめ、開発援助、自然保護、民族紛争などアジア・アフリカ地域が抱える多様な問題に総合的な観点から柔軟に対応しうる地域の専門家の養成や、これらの問題に対する地域研究の知見の社会的還元などが期待される。

   
 
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 II 総合的地域研究とは

プログラムの特徴としての総合的地域研究
  プログラム「世界を先導する総合的地域研究拠点の形成―フィールド・ステーションを活用した臨地教育・研究体制の確立」の最大の特徴は、タイトルにもある「総合的地域研究」である。

総合的地域研究とは
  総合的地域研究(Integrated Area Studies)は、4つの要素から構成される。すなわち、

  1. 文理融合(transdisciplinary studies)、とくに生態学的アプローチと問題関心を重視する文理融合。
  2. 基礎研究と実践的課題の融合(applied studies)。
  3. 地域間比較的融合(comparative area studies)。
  4. 臨地研究と臨地教育の融合(on-site education)。
  プログラムが目指すのは、これら4つの融合に立脚した総合的地域研究を、教育・研究両面において推進することである。

プログラムの考え方
  拠点形成推進機関である大学院アジア・アフリカ地域研究研究科(ASAFAS)ならびに東南アジア研究所(CSEAS)における地域研究のすべてが、かならずしも上記の4要素を兼ね備えているわけではない。たとえば、文理融合というよりはきわめて社会科学的な研究や、CSEASを中心に臨地教育的側面の薄い研究もあるというように、多様な形の地域研究が行なわれている。プログラムが目標とするのは、2機関の構成員が、たとえ上記要素のひとつについてでも意識的に取り組み、その成果を蓄積することによって、プログラム全体として総合的地域研究を推進することである。
  具体的には、フィールド・ステーションを介した活動をつうじて総合的地域研究の教育と研究を推進し、新設予定の地域研究統合情報化センターを結節点として、その成果にかかわる情報蓄積・情報発信・情報交換を押し進め、アジアにおける最大の総合的地域研究拠点を形成する。

ウェブサイトの重視
  研究・教育成果の情報蓄積・発信にかかわる地域研究統合情報化センターの将来的活動を念頭に、ホームページ、メール・マガジン等のウェブサイトによる情報発信を最重視し、これの頻繁な更新と定期的なコンテンツの見直しを行なっている。昨年、各種研究分野のメルマガのレヴューを専門とする編集者と、21世紀COEプログラム関係の英訳をよく担当するという業者から、本プログラムのウェブサイトを非常に高く評価する内容のメールを受け取ったが、プログラムはこれを大変誇りに思っている。ウェブサイトの新たな目標は、音(すでに着手)と動画を取り入れることである。

ASAFAS、CSEASの特色
  ASAFAS、CSEASは、上記の総合的地域研究を推進するに適した以下の条件を備えている。

  1. 京都大学の研究者のフィールドワークは、今西錦司に代表されるように、生態学的関心が強く、ASAFAS、CSEASともに、この伝統を受け継いでいる。
  2. 両機関における研究には、基礎研究とともに、とくに環境問題・在来農法の再評価・開発等に関係した実践的課題への取り組みが顕著である。
  3. ASAFAS、CSEASが過去に推進した大型プロジェクト、すなわち重点領域研究「総合的地域研究の手法確立―世界と地域の共存を求めて―」(平成5〜8年度)、特別推進研究プログラム(旧COE)「アジア・アフリカにおける地域編成―原型・変容・転成―」(平成10〜14年度)は、すでに地域間比較的関心を示しているが、制度的にも2機関には東南アジア、南アジア、西アジア、アフリカをフィールドとする研究者・大学院生が集まっており、臨地教育・研究、研究会などをとおして、地域間比較的融合を実践する環境が整っている。なお、重点領域研究における「総合的地域研究」の英訳はGlobal Area Studiesで、地域間比較を意識した命名と内容であった。
  4. 京都大学において東南アジアならびにアフリカにかんする地域研究の大学院教育が専門的に始まったのは、独立研究科「人間・環境学研究科」内に東南アジア地域研究講座とアフリカ地域研究講座が設置された平成5年度である。その後、たとえ小さな研究科でも地域研究に適した独自の教育を実践しようと、平成10年度、東南アジア、アフリカ以外に、新たに南アジアと西アジアを加え、独立研究科「アジア・アフリカ地域研究研究科」を立ち上げ、世界でも珍しい、アジア・アフリカでのフィールドワーク経験の豊かな研究者による地域研究の大学院教育が開始されるにいたっている。

21世紀COEプログラムの意義
  上記2機関の特色は、総合的地域研究のための潜在力を示すものではあるが、21世紀COEプログラムによってフィールド・ステーションが設置され、大学院生のための臨地研究・臨地教育支援の体制が整い、地域研究統合情報化センター設置の動きが始動することによって、ようやくこれらの特色を基盤として、総合的地域研究の実体化へ向けての現実的な取り組みが可能となった。

 III 今後の展開

今後の展開
  2003年度末現在、アジア・アフリカ地域を合わせて合計14箇所のフィールド・ステーション(FS)において臨地研究・教育を推進しているが、今後はこれまでの活動内容、研究成果等の実績にもとづいてFSの数を絞って重点化するとともに、そこでの研究・教育の多角化、地元の大学・研究機関との共同研究教育、国内他大学との共同利用等を検討していく予定である。
  本プログラムによる活動内容と成果については、HP等を利用して発信するとともに、メールマガジン「アジア・アフリカ地域研究情報マガジン」の発行等を通して情報ネットワークの整備を行なっていく計画である。また、平成16年度に設置する「地域研究統合情報化センター」を、アジア・アフリカ地域研究に関する情報およびネットワークの拠点として整備していきたい。このセンターは、京都大学内のアジア・アフリカ研究に関心をもつ関係部局・研究者を繋げて構築予定の「京都大学地域研究ネットワーク」の結節点として機能する。
  2003年度末、国立民族学博物館/地域研究企画交流センター・京都大学東南アジア研究所・東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所・北海道大学スラブ研究センターが幹事拠点機関となり、2004年4月現在、約45の国内地域研究関連組織を連携して地域研究コンソーシアムを立ち上げた。地域研究統合情報化センターは、このコンソーシアムの運営にも深くかかわっていく計画である。さらに、同センターは、国内外の地域研究関係諸機関を結びつける「地域研究グローバルネットワーク」の核となることを目指している。
  以上のような活動を通して、フィールドワークの拠点および情報・ネットワークの拠点として、アジアにおける最大の総合的地域研究拠点を形成しつつ、世界を先導する地域研究者の育成を図っていきたい。また、自然保護や開発、民族紛争、少数民族文化の保全といった、アジア・アフリカ地域が抱える切実な問題に対しても、地域に関する深い理解をもとにした問題の解明と対応法を模索するなど、研究成果の知的還元を図りたい。さらに、オンライン・ジャーナルや「地域研究統合情報化センター」に設けられる「エリア・インフォ交流室」を通して、アジア・アフリカ地域に関する一般の理解を深めることに貢献するなど、研究成果の社会的還元にも努めていきたい。

   
   
 IV さらなる飛躍をめざして

  21世紀COEプログラムは最大5年間で終了するが、総合的地域研究拠点の形成は平成18年度で終わるわけではなく、本プログラムの成果を生かしつつ、総合的地域研究拠点としてのさらなる発展を目指すつもりである。そのためのステップとして、次のようなことを計画している。

1) 21世紀COEプログラムによる成果の持続性の確保

  • フィールド・ステーションでの活動・経験のドキュメンテーションの活用を通じて、キャンパスにおけるフィールドワークおよび現代の諸問題群に関する教育の充実化を図る。
  • 競争的資金の継続的獲得による一部フィールド・ステーションの維持と漸次的現地移管、さらに必要に応じてのフィールド・ステーションの新規設置により、臨地研究・教育活動を継続する。
  • フィールドワークと文理融合的アプローチを強調した教育を通じて、21世紀の地球社会、地域社会が必要とする、広い視野と地域経験を有する自主・自立の人材を育成する。

2) 新たな一歩へ向けて

 「地球・地域・人間の共生」に深く関わる特定研究テーマに関し、文理融合的アプローチを体現した地域横断的な臨地研究・臨地教育融合型の新プログラムを立ち上げる。とくに、21世紀の重要課題であり、ASAFAS・CSEASの特長を生かしたプログラムの構想が望ましい。たとえば「自然資源の持続的利用」に関するプログラムは、そのような例である。

 

 

 
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