京大式フィールドワーク入門

書名:

京大式フィールドワーク入門

著者: 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
京都大学東南アジア研究所
発行元: NTT出版
 
 

【概要】
本書は、2004年10月に開催された21世紀COE京都ワークショップ「フィールドワークから紡ぎだす:発見と分析のプロセス」をきっかけとして編集された。フィールドワークを主たる研究手法とする人たちを対象とし、フィールドワークによる研究のプロセスで起きるさまざまな問題点を考えることが本書の目的である。

フィールドワークによる研究が実際におこなわれるプロセスを詳細に見てみると、共通する試行錯誤があることに気づく。フィールドワークで得た情報やデータを分析するためには一定の作法や論理の展開方法が存在する。それが、フィールドワークによる研究の方法論であり、論理である。分野や目的を超えて、フィールドワークによる研究を遂行する上での共通の問題点とは何か、それをどのように解決するのか。そのことを、実際に公表された研究論文を題材にして考えるために本書は編集された。

 

本書の構成は以下の通りである。

第1章では、フィールドワークによる研究が求められている社会的な要請について説明する。かつて、人類学や社会学の研究手法のひとつであったフィールドワークは、いま、新しい目的・新しいテクニック・新しい考え方を取り入れて、より多くの人が利用する重要な研究手法へと転換しつつある。

第2章では、フィールドでの事実とは何か、何が発見なのかについて考える。研究者自身の気づきからスタートし、研究上の発見に至るまでのプロセスを概観し、最初の気づきの中に、その後の調査の方向を決定付けるような発見があることを述べる。フィールドワークによる研究は知的興奮からスタートする。

第3章と第4章では、データを取得し分析する方法について考える。自然科学的な調査ではフィールドで計測や実験がおこなわれ、社会科学的な調査ではインタビューや参与観察などの調査がおこなわれることが多い。もちろん、それらの複数が利用されることも多々ある。

第3章では、計測や実験によって得られたデータをもとにして仮説を検証する過程を考える。ふたつの論文を題材とし、最初の論文では、複数の状況証拠を利用して仮説を検証する過程を取り上げる。もうひとつの論文では、調査対象の設定を工夫することによって疑似実験的な状況を作り出し、比較によってフィールドの現象のメカニズムを検討する過程を考える。いずれも、仮説を検証するときの重要な方法である。

   
      【書名】 京大式 フィールドワーク入門  
      【著者】 京都大学大学院アジア・アフリカ
地域研究研究科
京都大学東南アジア研究所
 
      【発行元】 NTT出版  
      【出版年】 2006年  
      【関連ワーク
ショップ  HP】

「フィールドワークから紡ぎだす
―発見と分析のプロセス―」

 
           
 

第4章では、インタビュー調査について考える。聞き取り記録は、読み物としてはおもしろいが、いざ論文とするためにはどうすればよいかわからなくなるものである。本章で題材とした論文において論文筆者は、参与観察や聞き取り記録だけでなく、自らが商売人として商売に従事し、その実践の中で得られた理解をもとに論を進める。曖昧で矛盾に満ちた聞き取り記録をさまざまな側面から検討することで、はじめて、筋の通った理解に到達することができることを示す。

第5章は、学際的研究について考える。フィールドワークによる研究は、すべからく学際的研究にならざるを得ない。というのは、現実の人間社会はさまざまな要因が複雑に絡み合うだけでなく、現在進行形で変化しており、それを理解するには、どうしてもさまざまな(専門分野)ディシプリンを超えて考察することが必要になるからである。学際的研究の第一歩に何が必要なのかを考える。

第6章と第7章では、サーベイ型調査と事例研究について考える。質問表調査のように、できるだけ広域から多数のサンプルを選んでデータを取得するサーベイ型調査のスタイルと、事例研究のように、定点で長期間滞在し、事例の数は少ないものの、その事例に関するさまざまなデータを取得する調査のスタイルは、データの取得方法から見れば、両極端にある。

まず第6章では、サーベイ型調査について考える。広域に分布する多数のサンプルからデータを取得するサーベイ型調査の本質は比較にある。多数のサンプルを比較することに由来するメリットとデメリットについて考え、デメリットを克服するための工夫について考える。

第7章では、事例研究について考える。事例研究とは、事例そのものの問題に答えることを目的とした研究ではなく、事例の深い理解を通じてより一般的な問題に答えることを目的とした研究である。事例のための研究ではなく、事例研究であるための工夫について考える。

最後に第8章では、ある特定地域を対象にしたフィールドワークによる研究から、より汎用性の高い一般的なモデルを構築するプロセスを取り上げる。個別の事例で得られた知見を、世界の多くの人に向けて発信するための工夫について考える。

   

以上に加えて、さらに、5つのコラムを挿入した。フィールドワークによる研究の新しい動向を示すだけでなく、時代を経ても変わらない、古くて新しい問題についての再考も促すべくラインナップされている。本文と同様、自身のフィールドワークの経験と照らし合わせて考えてみてほしい。

 
    ※問い合わせ先
 
   
  • 21世紀COEプログラム事務局<21officeasafas.kyoto-u.ac.jp>
    電話: 075-753-9192
 

 

 
 
 
 
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