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 佐藤 靖明  SATO Yasuaki
 所属:  京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
 E-mail:  y-satojambo.africa.kyoto-u.ac.jp

研究概要

研究テーマ: ウガンダ中部ブガンダ地域におけるバナナの民族植物学的研究

研究の背景と目的

 根栽作物とは、種子以外の部分に大量に蓄えられるでんぷんが収穫・利用される栄養繁殖作物のことをいい、イモ類、バナナ、パンノキなどがこれに含まれます。この作物群は熱帯各地で広く栽培、利用されており、穀物とともに人類の食生活にとって最も重要な位置を占めています。各地域、各作物の根栽農耕にはさまざまな共通点がみられますが、私の大きな研究関心は、アフリカにおける人とバナナとの関係を、根栽農耕という視点からとらえることです。

 バナナは東南アジアで最初に栽培化され、アフリカには紀元前後にもちこまれたと考えられています。栽培起源地ではないことや考古学的な証拠がほとんど残らないことから、アフリカでは近年まで文化的な観点からの研究が活発にはおこなわれてきませんでした。しかし現在の湿潤アフリカでは、バナナは日々の食糧を支える主食作物として非常に重要な役割を果たしています。例えば、とくに人口稠密な地域である東アフリカの大湖地方において、第一の主食用作物はバナナです。歴史的にも、バントゥー系農耕民が熱帯雨林に居住域を拡大したことの大きな要因の一つとして、バナナ栽培の重要性が指摘されています。

 私は現在、ウガンダ共和国中部のブガンダ地域を対象として、人びとのバナナに対する認知・栽培・利用に関する研究をおこなっています。この一帯はバナナを基盤とする農耕文化が古くから発達しており、人びとはアフリカの中でもとくにバナナ栽培に強いアイデンティティをもっています。つまり、この地域では、人びととバナナとの間に相互依存的ともいえる密接な関係がつくられていると考えられます。私は、バナナに対して人びとがおこなうはたらきかけだけでなく、バナナがもっている諸特徴が人びとの行動や社会にどのような影響を与えているのかに注目しながら民族植物学的な研究をおこなっています。

研究項目

具体的な項目は以下の3つです。

1.収穫パターン

 ブガンダ地域では、世帯ごとに何百本ものバナナが栽培されており、それらは長期にわたり連作されます。バナナは一年をとおして収穫可能ですが、季節によって収穫量が大きく変化します。私は、各世帯におけるバナナの収穫パターンが、サツマイモやキャッサバ、トウモロコシといった他の主食作物の収穫パターンとどのように相互に関連しているのかを明らかにしたいと考えています。また、それは食事に供される品目の数とパターンとも関係してきます。

2.食生活

この地域ではバナナの食文化が大変発達しています。調理法には細かなきまりがあって広く共有されています。また、バナナの地酒がつくられているのは世界的にも大変めずらしいことです。私は、調理法や日々の献立を観察や聞き取りによって詳細に記述し、イモ類や穀類との共通点や相違点を明確にする作業をしています。

3.品種の多様性 

 この地域では地方名で100を越す特有の品種が栽培されています。その多様性はブガンダ地域全体というよりは、世帯といった小さな社会集団が単位となって維持されているとの指摘がありますが、それらの多様な品種が生成・維持されてきたメカニズムは明らかにされていません。そこには「極めて多くの品種を擁するが、各品種の特徴が必ずしも生育の良し悪しや用途に直接的に対応しているわけでない」という複雑な状況がみられ、類似した現象が世界の多くの根栽農耕地域にも存在しています。また、品種多様性の創出と維持に関する研究はドメスティケイション(栽培化、家畜化)研究とも通ずるところがあります。私は、バナナの形態変異に関する認知や命名、実際に各品種が栽培されはじめた経緯について観察と聞き取りをおこなうことを通して、人びとと多品種との関係を解きほぐしていこうと考えています。

以上のように1、2、3について根栽農耕という視点から比較をおこなうことによって、ブガンダ地域のバナナ農耕の特徴が明確になってくると考えています。

これからの研究

 今後は、この地域にかつて存在したブガンダ王国の国家形成において、バナナ栽培が果たした生業基盤としての役割について考えたいと思っています。はじめて西洋との接触があった19世紀後半には、ブガンダ王国においてすでにバナナが重要な主食とされていました。しかし、水分が多いバナナは穀物のようには貯蔵しにくいこと、現在バナナ栽培が各世帯ごとに独立しておこなわれていることを考慮すると、いったいブガンダ王国の形成はバナナという資源の集中とどのような関係があったのか―これまでに蓄積されてきたブガンダ王国に関する研究ではあまり顧みられることがなかったバナナ栽培という生業基盤の視点をとりいれることによって、新たな知見を見出せないかと考えています。


業績

■論文など

・佐藤靖明(2004)「人とバナナの織りなす生活世界―ウガンダ中部ブガンダ地域におけるバナナの栽培と利用」『ビオストーリー』第2号、pp.106-121、生き物文化誌学会.

・佐藤靖明(2004)「ウガンダ中部ブガンダ地域におけるバナナの栽培・利用・分類」『生態人類学会ニュースレター』第10号、pp.2-4、日本生態人類学会.

・大山修一、四方かがり、佐藤靖明(2004)『アフリカにおけるバナナの栽培技術に関する農業生態学的研究』日本学術振興会熱帯生物資源研究助成事業、研究助成金報告書.

■学位論文

・佐藤靖明(2004)「バナナの民族植物学的研究―ウガンダ中部ブガンダ地域における栽培・利用・分類―」京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・博士予備論文.

・佐藤靖明(2001)「北ガーナの穀物流通における都市定期市の卸小売機能―ナブロンゴ市の事例―」東北大学大学院理学研究科・修士論文.

・佐藤靖明(1999)「香港におけるスクウォッターの空間的分布の変化と住宅政策」東北大学理学部・卒業論文.

■口頭発表

Sato, Y. 2004."Interaction between Cultural Selection and Banana Diversity: A Case Study of Ganda Banana Gardens in Uganda."第9回国際民族生物学会(英国、2004年6月).

佐藤靖明(2004)「ウガンダ中部ブガンダ地域におけるバナナの栽培・利用・分類」第9回生態人類学会研究大会(滋賀県大津市、2004年3月).

・佐藤靖明(2004)「バナナの民族植物学的研究 ―ウガンダ中部ブガンダ地域における栽培・利用・分類―」日本民族学会・第5回近畿地区研究懇談会・修士論文発表会(国立民族学博物館、2004年3月).

・佐藤靖明(1999)「1980年代および1990年代の香港における臨時住宅の空間的分布と住宅政策」1999年東北地理学会秋季大会(福島県富岡町、1999年10月).

 ■略歴

1995-1999 東北大学理学部(地圏環境科学科)卒
1999-2001 東北大学大学院理学研究科(博士前期課程)修了
2001-現在 京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科(5年一貫制博士課程)

■海外研究歴

1998.3 香港(英国)(スクウォッターに関する研究)
1998.12 香港(中国)(スクウォッターに関する研究)
2000. 2-2000.3 ガーナ共和国(穀物流通に関する研究)
2000. 8-2000.9 ガーナ共和国(穀物流通に関する研究)
2001.12-2002.3 ウガンダ共和国(バナナの民族植物学的研究)
2002.10-2003.7 ウガンダ共和国(バナナの民族植物学的研究)
2004.6          イギリス(学会発表とイギリスのバナナに関する研究)
2004.11-2005.10 エチオピア、ウガンダ共和国(エンセーテとバナナの民族植物学的研究)


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