報告 No.3
ミャンマー・フィールド・ステーション活動報告(3)
ミャンマーの農村・漁村社会と農民・漁民の暮らしの歴史的変遷−伝統から近代へ−
大西信弘 (21世紀COE研究員)

調査関係

■シットウェー/ミャーウー調査(2003年12月)

シットウェーの中央市場には、以前にも訪れたことがあるが、まるでバングラデシュにいるかのような印象を受けた。ミャンマーのローカルマーケットでは、一般的には魚を売るのは女性の仕事なのだが、ここでは、一部塩乾魚を売る女性がいるくらいで、生鮮魚を売るのは男性たちだ。ところが、一歩、内陸のミャーウーに行くと、女性たちが魚や貝を売っている。また、ミャンマーでは珍しく、タガメ、ゲンゴロウなどの昆虫がが市場に並んでいることに驚いた。
  シットウェー周辺の水産業では、主に中国向けの輸出産品が製造されている。代表的なのはクラゲの塩漬けだ。

中国向けに出荷されるクラゲは、ムセ経由で送られるそうだ。また、シットウェーからミャーウーにかけては、エビの養殖が盛んで、養殖池に水を入れるときに天然種苗が入り込み、これを育てるという方法で養殖している。この他に、塩乾魚の製造も盛んで、他の地域に比べると、塩乾魚を作る労賃も良いようだ。

 

ダチュン ダチュンを使って魚をさばいている様子
■グワ調査(2003年12月)

今回は、短期間だったので、安藤さん(CSEAS教員)の犂研究に倣って、魚をさばく包丁をちょっと調べてみた。グワで一番古い漁村であるヤハンガドゥでは、ダチュンと呼ばれる先の尖った包丁が、塩乾魚づくりのために魚をさばくときに使われる。

 

ところが、周辺の他の村に行くと、ダマーと呼ばれる鉈状の包丁が魚の解体に使われる。

 

ダマーを使って魚をさばいている様子

 

 

このダマーは、ヤンゴンでも簡単に入手でき、ミャンマーで広く使われている。鉈状の形からも想像できるように、薪炭材を割ったりするのにも使われ、刃渡りも30センチを超すものから10センチほどのものまであって、万能包丁のように使われる。グワで売られているのは、イラワジ、ヤンゴンから来ているダマーだと言う。これに対して、ダチュンは、マーケットでは手に入らない。ヤハンガドゥで使われている物は、周辺の村の鍛冶屋が作っている。私自身、魚をさばくのが趣味なので、一振り作ってもらったところ、800チャット(約80円)。グワに限らずヤンゴン周辺でも同じなのだが、鍛造の刃物を作るための良質の鋼が入手しにくいそうで、トラックのリーフスプリングを材料としている。魚をさばくのに、ヤハンガドゥだけでダチュンが使われるのかは今のところは不明。使用感は、出刃とよく似ている。刃の丸みのある所を使うと、刺身もきれいに切れる。ヤハンガドゥでは、魚の卵巣を取り出すのに便利なのでダマーよりダチュンが好まれるのだと言う。

 

■マウービン調査(2003年12月)

ヤンゴン大学の大学院生たちとマウービンで合流し、それぞれの学生の調査現場で個別の指導を行った。今回は、安藤さんが中心になり、大学院生の研究にアドバイスした。各院生が自分の調査地で、調査対象を前にしながらこれまで行ってきた調査内容を説明し、具体的にどの点を改善していくのか、農学系の視点からのアドバイスが得られた点が有意義だったように思う。これまでは、歴史、地理、植物学、動物学の専門の視点から、村落や村落の自然資源の調査を進めてきたのだが、このようなアドバイスは村人たちの社会状況を含めて解析を加える際に役立つ事であろう。

 

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