1) 運営状況
本計画はこれまで、(1)フィールド・ステーション(FS)の設置とFSを利用した臨地教育・研究体制の推進、(2)臨地教育・研究支援のための、多元的情報の整備と発信を担う「地域研究統合情報化センター」の設置準備(平成16年度4月設置予定)、(3)統一テーマ「地球・地域・人間の共生」のもとでの(1)(2)の資源・活動の統合と、統一テーマに沿った4つの問題群に関する研究・教育、という3つの柱に沿って推進されてきた。(1)(2)を中心とする運営状況は以下のとおりである。(3)については、「III 活動実績」を参照されたい。
(1)フィールド・ステーション部門
FSに関しては、これまでの2年間に、延べ27名の教官、52名の大学院生、3名の若手研究者がラオス、ミャンマー、インドネシア、エジプト、タンザニア、エチオピア、カメルーン、ザンビア、
ケニアなどに派遣され、本計画の遂行にあたった。すなわち、大学院アジア・アフリカ地域研究研究科と東南アジア研究センターがこれまでに推進してきたさまざまなプロジェクトの調査拠点に、MOUなどを活用しつつ14FSを設置・整備し、統一テーマにそった文理融合的研究、および大学院生に対するオンサイト・エデュケーションを推進してきた。また、FSを活用して当該地域の教育研究機関と双方的かつ多中心的な研究・教育ネットワークを形成し、共同研究やワークショップの実施、現地語の図書や政府刊行物資料などの収集と整理・発信をおこなった。
平成15年度には、エチオピア、アジスアベバ大学との共催によって、地域間比較を目的としたワークショップ「環境と生業をめぐる地域住民のとりくみ」を開催し、FSにおける活動の成果を発信した。さらに、カメルーンにおける熱帯雨林保護に関する現地セミナーの開催(WWF,
GTZ, MINEFとの共同開催)、インドネシアにおける現地ワークショップ「インドネシアの地方社会のミクロロジー」の開催など、FSを活用した共同研究の推進と研究成果の発信に努めている。
これらの活動を通して、アジア・アフリカ地域のFSを拠点として、現場における第一線の研究と教育を融合させながら推進する体制が我が国ではじめてスタートすることになった。アジア・アフリカ地域に関する植民地時代の資料などの蓄積が乏しい我が国の研究者が、地域研究の分野で世界の先端に立つには、自ら収集した一次資料や現場体験にもとづく研究が有効であり、FSを拠点とした臨地教育・研究の推進によって、その体制が確立されることになる。
(2)統合情報化部門
統合情報化関係では、FSにおける教育・研究に対する支援と、国内外の地域研究に関する情報及びネットワークの拠点としての機能をあわせもつ「地域研究統合情報化センター」(仮称)の設立準備をすすめるとともに、この新しいセンターが担うことになる様々な機能を具体化する作業をおこなってきた。これまでの主な実績としては、まず、情報・ネットワーク関係では「地域研究統合情報化センター」を結節点とする各種のコミュニケーション・モジュールの核となるサーバーの導入や、フィールド・ステーションおよび学内外の研究者、学生との円滑なコミュニケーションをはかる機器等の整備があげられる。研究資料の収集関連では図書7,500冊、マイクロフィッシュ1,500枚、マイクロフィルム600リールを購入するとともに、地域研究資料のデータベース化、デジタル化を推し進めた。
また、出版物による広報を企図する代わりに、平成15年4月21日にはホームページを開設して21世紀COEプロジェクトの活動状況や教育研究成果等のリアルタイムな発信に努めるとともに、10月には当初計画を1年前倒しして、地域研究者間の情報交換と交流を促進する月刊メールマガジン『アジア・アフリカ地域研究情報マガジン』(通称IAS-INFOM)を発刊し、すでに6号(2004年2月現在)を発刊している。その他、多元的な地域研究資料・情報の統合的な蓄積、管理、公開のためのメタ・データベース・システムの開発をおこなった。これらの活動を通して、アジア・アフリカ地域に関する多元的資料の収集・整理・発信、及び国内外の研究機関及びFS等を結ぶ研究ネットワークの機能を有する、アジア最大の情報・ネットワーク拠点の形成に向けて着々と整備を進めるとともに、本計画の成果を国内外に向けて発信する体制が整備されつつある。
さらに本計画では、統一テーマ「地球・地域・人間の共生」を設定し、これに関わる4つの問題群に沿った研究会を組織し、そこに臨地調査に携わる大学院生を効果的に参加させる仕組みを整えた。これまでに本計画の事業推進担当者が中心になって、合計50回の国内シンポジウム・研究会と、4回の海外ワークショップないしセミナーを開催してきた。今後は、臨地調査と研究会活動を連携させながらさらに成果を積み上げ、アジア・アフリカ地域研究における先導的研究者を育成していく計画である。
2) 今後の展開
現在、アジア・アフリカ地域を合わせて合計14箇所のFSにおいて臨地研究・教育を推進しているが、今後はこれまでの活動内容、研究成果等の実績にもとづいてFSの数を絞って重点化するとともに、そこでの研究・教育の多角化、現地大学・研究機関との共同研究教育、国内他大学との共同利用等を進めていきたい。また、本計画による活動内容と成果についてHP等を利用して発信するとともに、メールマガジン「アジア・アフリカ地域研究情報マガジン」の発行等を通して情報ネットワークの整備をおこなっていきたい。さらに、平成16年度に設置する「地域研究統合情報化センター」を、アジア・アフリカ地域研究に関する情報およびネットワークの拠点として整備していきたい。このセンターは、京都大学内のアジア・アフリカ研究に関心をもつ関係部局・研究者を繋げて構築予定の「京都大学地域研究ネットワーク」の核として機能し、さらには国内外の地域研究関係諸機関を結びつける「地域研究グローバルネットワーク」の核となることを目指している。
以上のような活動を通して、フィールドワークの拠点および情報・ネットワークの拠点として、アジアにおける最大の地域研究に関する拠点を形成しつつ、世界を先導する地域研究者の育成を図っていきたい。また、自然保護や開発、民族紛争、少数民族文化の保全といった、アジア・アフリカ地域が抱える切実な問題に対しても、地域に関する深い理解をもとにした問題の解明と対応法を模索するなど、研究成果の知的還元を図りたい。さらに、オンライン・ジャーナルや「地域研究統合情報化センター」に設けられる「エリア・インフォ交流室」を通して、アジア・アフリカ地域に関する一般の理解を深めることに貢献するなど、研究成果の社会的還元にも努めたい。 |