Zambia Field Station
| Top | ZFS概要 | 研究者一覧 | フィールド | 活動内容 | リンク |

ZFS Work Shop

ークショップ開催に際して
我々、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科のザンビア・フィールドステーション/南部アフリカ地域研究会は、「21世紀COEプログラム:世界を先導する総合的地域研究拠点の形成」の機会に、これまで個々人が進めてきた研究成果を、南部アフリカの枠組みの中でお互いに見つめ直してみようと考えました。そして、その成果を京都ではなく、これまでほとんど発表の機会の無かった関東の地で行おうと企画しました。それには後で述べる外部的要因と内部的要因があるのですが、幸いにも、南部アフリカ研究の全国組織である「南部アフリカ研究会」の方々の協力を得ることが出来たので、同研究会と共催の形でその企画が実現する運びとなりました。またこの機会を、日本アフリカ学会の関東地区の学会員との研究交流の強化にも繋げたいとの思いから同学会関東支部に共催をお願いしたところ、快く引き受けてもらい、三者の共催のワークショップとなった次第です。

さて、我々がこのワークショップを企画した外部的要因と内部的要因というのは以下のことです。まず外部的要因とは、南部アフリカを取り巻く最近の急激な変化です。そして内部的要因とは、日本における南部アフリカ研究の新たな展開にむけての試みです。

まず外部的要因とは、南部アフリカにおける1990年代以降の急激な政治的、経済的な動きを意味しています。ここ10数年間のうちに南部アフリカで起きた政治的民主化や経済のグローバル化の進展は、我々地域研究者に何を問いかけているのでしょう。そのことを我々は強く意識せざるを得なくなってきています。つまりこの状況は、研究対象である地域自体が足早に走り、研究者が置き去りとなる可能性を示すものとも考えられるのです。

南アフリカ(以下南ア)では、アパルトヘイトの廃止(1991年)、黒人政権の実現(1994年)という政治的変革が、周辺国からの経済制裁撤廃をもたらし、経済のグローバル化が一気に進行しました。経済制裁の下で成長してきた国内産業の多くはグローバル化の中で国際競争力を持っていませんでした。しかし南アにとって幸いだったことは、白人政権下で政治的対立関係にあった周辺諸国が一気に自分たちの市場として開かれたことでした。

また南ア以外の南部アフリカ諸国においては、経済の自由化が南アの資本と商品の圧倒的流入という形で始まりました。その理由は、これらの諸国のなかで、対外債務問題に端を発する1980年代以降の経済の自由化と政治の民主化の動きが、南アの政治的変革と共振する形で実現したためです。1980年にはアフリカ開発調整会議(SADCC: Southern African Development Coordination Conference)が、南アに対する経済依存からの脱却を目指して結成されました。これは1992年に南部アフリカ開発共同体(SADC: Southern African Development Community)に改組され、1994年には南アがこれに加入しました。南アの一方的な輸出超過という貿易構造にみられた特徴は、南アのSADC加入によりさらに一層強められることとなったのです。

南アを中心とした南部アフリカ経済圏が次第に形をなすにしたがい、域内の豊富な資源をいわば「地域公共財」として有効に活用しようという計画が打ち出されはじめました。ザンビアでは南ア資本による土地の買い占めがめだつようになり、ボツワナやナミビアでは再定住計画と農地の囲い込み(狩猟採集民の排除)が実施され、それらの動きが地域の土地利用の急激な変化を伴いながら、直接的間接的に地域の環境に大きな変化をもたらしています。さらに南アの商業資本進出による南ア製品や農産物の大量流入は、周辺国の伝統的市場と商品作物を中心に栽培する農家に、少なからぬ影響を与えています。

南アを中心とした南部アフリカ経済圏の再編は、南アの周辺諸国への一方的経済進出、それは特殊南部アフリカ版グローバル化といって良いと思いますが、そのさらなる進行が危惧されています。我々のほとんどが、この周辺諸国で地域研究を行っています。このような最近の変化をどのように自分の地域の問題として受け止めるのか、今我々は問われているといえます。これが我々自身に自分の研究を見直す機会となった外部的要因の内容です。

次に内部的要因とは、日本の南部アフリカ研究にみられる、問題関心や研究手法の差異に関わるもので、これはいま述べた外部的要因と無関係というわけでもありません。京都大学における南部アフリカ地域研究は、生態人類学者と農学者によって途が切り開かれました。以後今日まで、多くの学生が、狩猟・採集や農業、漁労といった人びとの生業、さらには生業に基盤を置く生活全般についての実態を解明する研究をミクロな視点からおこなってきました。

特に、自然環境と人びとの生業基盤との関連性や、社会的なネットワーク、相互行為などについて注目したものが多くあります。しかしこのような研究を進めるにあたって、近年の国の政治や経済的側面のめまぐるしい変動は、捉えどころのない厄介な問題を投げかけてきます。それは、本学での研究内容やその方向性についても問い直すよう、ますます迫り来るようになってきたのではないかと思うのです。私は、研究方法や視点を再検討する必要を日常的に感じています。

広く日本の南部アフリカ研究を概観しますと、今日マクロなレベルでの政治経済的研究の進展が極めて急速です。その勢いは、本学におけるミクロレベルでの地域研究の成果を置いてきぼりにしかねない程です。しかしながら、本学の地域研究のなかでも、生業についての実態分析は、現在の南部アフリカで起きている政治経済変動の奥行きや幅を正しく理解するために不可欠です。つまり、ミクロレベルでの生業研究は、マクロな政治経済研究が新たに展開すればするほど、その重要性が高まっているといえます。

しかし、その重要性の高まりに応えるためには、我々も改めてさらなる努力が必要だろうと考えています。その努力とは、我々が一つの村、一つの社会での長期フィールドワークを通じて実証的な研究を進めていくとき、その地域の内面的理解に深く沈潜するベクトルを抱えながらも、時には空を見上げ、辺りを取り巻く激しい嵐を感じ取る感性を磨きつつ、これまで以上に視界を広く持つような努力といえるでしょう。

このような努力を見直し、自らの研究に組み入れる機会として、マクロな政治経済研究の分野で活躍する多くの南部アフリカ研究者を擁する「南部アフリカ研究会」の研究者の協力を仰ぐことができないかと考え、企画したのが今回の東京でのワークショップです。しかしこのワークショップは、以上述べた狙いの実現の場のみならず、問題関心や研究手法が異なる東西の研究者同士が交流する場をもつ機会でもあります。このすばらしい機会が、南部アフリカ研究者のネットワークと、今後の南部アフリカ研究のさらなる発展に寄与することを心より願っています。
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科・京都大学東南アジア研究所
21世紀COEプログラム:世界を先導する総合的地域研究拠点の形成
ザンビア・フィールドステーション
ワークショップ企画委員会 顧問 島田周平
日時:2006年2月18日 10:30 - 
場所:東京外国語大学本郷サテライト
共催:南部アフリカ研究会
共催:日本アフリカ学会関東支部

発表者感想
プログラム
総合討論

開催に際して

趣旨説明

本WSトップページ

ザンビアFSトップページ