Zambia Field Station
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ツワナの再定住地における狩猟採集民サンの居住地選択
Selection of Residence Site among the Resettled San Hunter-Gatherers in Botswana
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科/日本学術振興会特別研究員
丸山 淳子
南部アフリカの先住民として知られるサンは、狩猟採集を主たる生業とし、遊動的な生活を営んできた。しかし近年では各地で進行する開発計画によって、サンの集住と定住化がすすめられ、その生活は大きな変化の局面を迎えている。サン人口の約半数を抱えるボツワナ共和国でも、彼らの生活はこの数十年で大きく変わりつつある。1970年代に一地方ではじまった「遠隔地開発計画」が全国的に展開され、現在までに全国の約8割のサンが、政府が設けた64の再定住地に移り住むようになったのである。その過程で、従来のサンの生活域は自然保護区として整備され、あるいは大農場地域として囲い込まれていった。そして再定住地に移住したサンには、政府によって区画化された居住地や農地が配分された。南部アフリカで広く見られる土地の囲い込み、区画化の流れが、ついに遠隔地のサンの生活にも直接的な影響を与え始めたのである。

本発表では、このような状況において、サンがいかにして日常的な土地利用のあり方を再編し、生活を再構築しているのかを検討する。従来、遊動生活を営んでいたサンの土地利用に関する研究は、カラハリ砂漠の生態学的特徴を論拠として、彼らのテリトリアリティーが著しく開放的なものであることを強調してきた。すなわち、固定的で排他的なテリトリーでは、気候の地域的変異と年変動に対処できない。そして自由な行き来を可能にしておくことは、将来の危険性に対する互酬的な「保険」としても機能すると論じられたのである。しかし今日では、開発計画の影響を受けてサンの土地へのアクセスが制限され、またその利用のあり方もより固定的なものへと転換を迫られている。さらに、再定住地では狩猟採集活動が衰退し、それに代わって賃金労働の機会、福祉サービスが提供されるなど、サンの土地利用を規定するものはカラハリ砂漠の生態学的特徴にとどまらなくなっている。そこでここでは、再定住をしたサンを対象として、彼らがどのように居住地を選択しているのかを報告し、そこに見られる特徴を論じたい。

発表ではまず、この開発計画が進行してきた経緯とその影響を概観する。そして国内でもっとも規模が大きい再定住地を事例としてとりあげ、この再定住地の周囲に住民が自主的にひらいた「マイパー」とよばれる居住地に注目する。マイパーは法的には不法占拠とみなされるが、その数は年々増加し続け、住民の約4分の1の人口が住むまでになっている。再定住地では世帯ごとに区画化された居住用プロットが並列していたのとは対照的に、マイパーは原野のなかに互いに距離をおいてつくられ、それぞれには複数の世帯がまとまって居住している。また状況に応じて場所の移動やメンバーの離合集散も見られる柔軟な性質を有していた。ここではこのようなマイパーが誕生した背景を明らかにするとともに、人々がどのような点を考慮しながら自らの居住地を定めているのか、とりわけ周囲の人々との社会関係に注目しながら検討したい。そしてサンの土地利用の特徴について従来の議論を再検討するとともに、彼らが区画化の圧力のなかでも、土地と可変的で柔軟な関わりを持とうとしていることを示したい。