Zambia Field Station
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「砂漠ゾウ」と牧畜民との関係性の変容 −季節河川の利用をめぐって−
Changes in Relationship between "Desert Elephant" and Herders:
With Special Reference to the Utilization of Ephemeral River
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
吉田 美冬
アフリカにおけるゾウの個体数は、近年の保護活動の活発化によって増加傾向にあり、国立公園では植生破壊の深刻化などの問題が指摘されている。また、農業へ多大な被害を与え、時に人間をも襲うゾウは、その生息地に居住する住民と敵対的な関係を築く場合が多い。

ナミビア北西部の乾燥地帯には、「砂漠ゾウ」とよばれる砂漠の環境に適応したアフリカゾウ(Loxodonta africana)が生息する。乾燥気候の卓越する厳しい自然環境下において、砂漠ゾウは、"Linear Oasis"と表現される季節河川を中心に、食物や水を求めた移動生活を行うことが知られている(Viljoen 1987)。一方、この地域に暮らす牧畜民のヒンバも、生活に必要な資源を求め、河畔林の広がる季節河川を利用する。そのため季節河川は、生活空間として両者に共有されるとともに、直接的な出会いの場ともなっている。

本発表では、季節河川の自然環境をめぐり、ゾウと地域住民がどのような関係を築いてきたのか、両者の現在の関係とその変容を明らかにすることを目的とする。調査を実施したナミビア北西部の季節河川であるホアルシブ川流域では、保護政策と狩猟圧の低下により1990年代以降のゾウの個体数が増加傾向にある(Legget 2000)。植生調査の結果から、ゾウの採食行動によって河畔林の大部分が損傷を受けていることが明らかになった。近年の個体数の増加が、河畔林の破壊に拍車をかけていると推察される。また、河畔林の天然更新がうまく行われていない可能性も示唆されたため、今後の河畔林の存続にとってゾウの影響は無視できない要素となっている。

一方、住民にとっても河畔林は建材や燃材の供給源として重要であった。しかし、住民はゾウの採食行動によって生じた樹木の残骸を利用するなどして、ゾウの動態にあわせるように樹木の入手場所や利用樹種を変化させてきた。また、この地域はNGOの介入により、住民参加型の自然資源管理が1980年代前半からすすめられてきた。住民は、砂漠ゾウを中心とする地域の野生動物を利用した観光業に積極的に関わり、大きな利益を得るようになった。観光業による現金収入は、牧畜に依存していた住民のライフスタイルを大きく変化させ、今や観光業なくしては、生活が成立しない状態にさえなっている。

この20年あまりの間に季節河川周辺の住民がゾウから受ける利害のかたちは多様化してきた。今後のゾウと住民の関係性は、より複雑なものへと変化していくことが予想される。しかし、砂漠における両者の生存を根本から支えているものは、季節河川の自然資源である。この地域の砂漠ゾウと地域住民の関係の将来は、砂漠のオアシスである季節河川の河畔林が今後も存続できるか否かにかかっている。