Zambia Field Station
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ンビア東部における社会変動と農地利用の変化 ―チェワ農民による新しい畑の創出をめぐってー
The Change of Land Use in the Social Dynamics of Eastern Zambia:
The Creation of New Fields by Chewa Farmer
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
吉川 竜太
ザンビア東部州は1980年代から本格化する農業近代化政策により、トウモロコシの一大生産地帯となった。ところが1990年代に入ると、ザンビア政府はIMF主導の構造調整政策を受け入れ、人々は経済自由化の波にさらされるようになった。その結果、東部州でも化学肥料の入手が困難になり、トウモロコシの生産は現在でも伸び悩んでいる。

東部州にはザンビアにおける3大民族集団の2つであるチェワが居住している。ザンビアには母系制の民族が多数居住しているが、チェワもその中の一つであり、社会制度や儀礼に注目した人類学的研究が蓄積されてきた。しかし、農業や土地利用に関する研究は少数に限られ、とりわけ近年の政治経済変動に対する人々の対応は明らかにされてこなかった。

そこで本発表では、80年代からの政治経済の変動のなかでチェワ農民が農地利用と耕作形態をどのように変化させてきたのかを明らかにする。そして、農地利用と居住形態の変化との関連性について検討する。

まず、チェワ農民は80年代から従来の畑に加えて、2種類の新しい畑を創出し、拡大させてきたことがわかった。その畑とは、乾季に耕作をおこなう湿地畑と居住域の中に牛糞、食物残渣を用いて耕作する村内畑である。次に、従来の畑においても農地利用に変化が見られ、そのことは換金作物の選択と大きく関連していることが明らかとなった。80年代の農業近代化政策の時期にはトウモロコシが換金作物として栽培されており、90年代の農業流通の自由化後は綿花やタバコなどが新たな換金作物として栽培されている。また、現在の自給用のトウモロコシ栽培と換金作物栽培に注目して世帯のタイプ分けをおこなった結果、栽植密度を低くしてトウモロコシの収量を確保している世帯群とトウモロコシの面積を多少減らしてでも換金作物の栽培をおこなう世帯群の2種類が存在していた。さらに、後者の世帯群では、換金作物の販売で得た現金で化学肥料を購入し、それを用いてトウモロコシを高密度で栽培していることがわかった。こうした世帯群では、牛耕や換金作物へのアクセスの点で男性の労働力が重要なファクターであることが明らかとなった。さらに、この2種類の畑が拡大した時期に、居住形態にも妻方居住から夫方居住へと変化が見られ、農地利用の変化が居住形態の変化と連動していることが示唆された。すなわち、人々は外的な政治経済変動に対して農地利用のみならず、社会関係をも変化させ対応してきた可能性が考えられる。

このように、チェワの農地利用の変化は、外的な政治経済変動と内的な社会関係に対する農民の対応の中で引き起こされ、その両者が交錯する中で2種類の新たな畑が生み出され、拡大されてきたと考えられる。