:: 平成16年度 フィールド・ステーション年次報告
ケニア
  (1)概要:
    ナイロビ・フィールド・ステーション(ナイロビFS)は、平成15年6月からナイロビで借用したフラットにオフィスをかまえて調査研究の拠点としており、地域的にはケニアとウガンダの両国をカバーし、ナイロビ大学アフリカ研究所(ケニア)とマケレレ大学社会科学部(ウガンダ)との協力体制のもとで運用しています。
平成16年度には、京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科(ASAFAS)の教員1人と大学院生4人が当プログラムの資金によって派遣され、ナイロビFSを活用しながら教育研究に従事しました。これ以外にも、別資金によって渡航したASAFASの教員2名がナイロビFSの管理・運営にあたり、また、別資金で渡航したASAFASの大学院生1名がナイロビFSを利用しています。
ナイロビFSは、京都大学の教員・大学院生以外にも、弘前大学、岡山大学、筑波大学などの教員と大学院生によって活用されています。
 
     
    京都・金閣寺にて。左からナイロビ大学アフリカ研究所長のニャモンゴさんとASAFAS大学院生のムトゥアさん(2004年5月) ナイロビ大学アフリカ研究所にて。前所長のシミユ・ワンディバさんと筑波大学の佐藤俊さん(2004年8月)  
   
  (2)教員による臨地教育と研究活動:
   

太田至(ASAFAS教員)は、平成16年7月28日〜9月4日の期間、当プログラムによってケニアに出張し、フィールド・ステーションの整備や大学院生ムトゥア(Mutua Charles Musyoki:平成16年度第3年次編入学)の臨地教育、ナイロビ大学との共同研究にたずさわると同時に、「東アフリカ牧畜社会の社会変容に関する研究」のためのフィールドワークを実施しました。
梶茂樹(ASAFAS教員)は、平成17年1月29日〜3月6日の期間、科研費によってケニアとウガンダに出張し、ケニアでは内藤直樹(ASAFAS大学院生:平成10年度入学)、ウガンダでは佐藤靖明(ASAFAS大学院生:平成13年度入学)の臨地教育をおこなうとともに、「ウガンダにおける多言語状況の調査および西部ウガンダに話されるアンコーレ語、トーロ語、ニョロ語などの記述研究と比較言語学的研究」に関する現地調査を実施しました。
太田至(ASAFAS教員)は、平成17年3月12日〜28日の期間、科研費によってケニアに出張し、内藤直樹と庄司航(ASAFAS大学院生:平成16年度入学)の臨地教育を実施しました。

 
   
  (3)大学院生の研究活動:氏名(入学年度)・渡航期間・調査経費・派遣国・研究テーマ:
   

Mutua Charles Musyoki(平成16年度第3年次編入学)・平成16年7月25日〜8月24日・私費・ケニア・「ケニアにおける野生動物保護と住民生活の軋轢に関する研究」
Mutua Charles Musyoki(平成16年度第3年次編入学)・平成16年10月18日〜平成17年1月17日・当プログラム・ケニア・「ケニアにおける野生動物保護と住民生活の軋轢に関する研究」
内藤直樹(平成10年度入学)・平成16年11月1日〜平成17年3月31日・当プログラム・ケニア・「アフリカ牧畜民社会における生業変容と民族間関係の動態に関する人類学的研究」
佐藤靖明(平成13年度入学)・平成16年11月5日〜平成17年3月28日・当プログラム・エチオピア、ウガンダ・「北東および東アフリカにおける『根栽文化』に関する人類学的研究」
波佐間逸博(平成15年度入学、ASAFAS研修員)・平成17年1月5日〜平成17年3月23日・当プログラム・ウガンダ・「北東部ウガンダ牧畜社会における家畜認識に関する人類学的研究」
庄司航(平成16年度入学)・平成17年3月1日〜平成17年7月5日・私費・ケニア・「ケニア北西部にすむ牧畜民トゥルカナの植物利用に関する人類学的研究」

 
   
  (4)フィールド・ステーションの整備と運用:
   

ナイロビFSを運営してゆくためには、若手研究者を常駐させることが必要なのですが、資金的な余裕がありません。そのため、FSを利用する教員や大学院生が、オフィス機器の維持・管理や光熱水料の支払いまで、さまざまな雑用をこなしつつ運用しています。ナイロビでは電話が不通になる、停電する、断水する、車が故障する、ドアのロックが破損するなど、さまざまなアクシデントが発生し、それに対処するためには相当の労力が必要になります。
平成17年度には、当プログラムによって若手研究者を雇用して、ナイロビFSの管理・運営、教育研究の補助、そしてナイロビ大学やマケレレ大学、アジスアベバ大学(エチオピア)、ソコイネ農科大学(タンザニア)との共同研究の推進などをおこなう予定です。

 
   
  (5)研究協力体制の維持:
    ナイロビFSの教育研究活動は、ナイロビ大学アフリカ研究所との密接な協力関係のもとに実施しています。平成16年5月25日〜6月7日の期間、同研究所の所長アイザック・ニャモンゴ(Isaac Nyamongo)氏を日本に招へいし、京都大学とのあいだで結んできた部局間の協力協定を再検討し、あらたに京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科とのあいだに研究交流協定を締結して、今後の協力体制を確認しました。
ニャモンゴ氏は、6月5日には第122回アフリカ地域研究会において、「Ecological Change and Malaria Risk in a Unstable Malaria Region (Gusii) Southwest Kenya(ケニア南西部のマラリアが多発する地域[グシイ]における生態学的な変化とマラリアのリスクについて)」と題する講演をおこない、活発な討論を交わしました。また、名古屋で開かれた第41回日本アフリカ学会学術大会にも参加し、日本のアフリカニストとの交流を深めました。
太田は、平成16年8月2日にケニア野生生物公社ナイロビ本部において、研究開発部門の副部門長であるリチャード・バギネ(Richard Bagine)氏と面談し、「ケニアにおける野生動物保護と地域住民生活の軋轢」に関する研究についての討論をおこなうとともに、今後の協力体制について協議しました。
太田は、科研費による共同研究「東アフリカ遊牧圏における生活安全網と地域連環の統合的研究」(研究代表者:佐藤俊[筑波大学])に分担者として参加していますが、この研究はナイロビ大学アフリカ研究所およびアジスアベバ大学エチオピア研究所との共同研究として実施しています。
 
   
  (6)教員と大学院生の研究業績:
    編著書
  • Ohta, I., and Y. D. Gebre (eds.) 2005. Displacement Risks in Africa: Refugees, Resettlers and Their Host Population. Kyoto: Kyoto University Press.
  • Kaji, S. 2004. A Runyankore Vocabulary. Tokyo: ILCAA.
論文など
  • Ohta, I. 2005. Multiple Socio-Economic Relationships Improvised between the Turkana and Refugees in Kakuma Area, Northwestern Kenya. In (I. Ohta and Y. D. Gebre, eds.) Displacement Risks in Africa, pp. 315-337. Kyoto: Kyoto University Press.
  • Gebre, Y. D., and I. Ohta 2005.Introduction: Displacement in Africa - Conceptual and practical concerns -.In (I. Ohta and Y. D. Gebre, eds.) Displacement Risks in Africa, pp.1-14. Kyoto: Kyoto University Press.
  • Tachiiri, K. and I. Ohta 2004. Assessing impact of a large-sized refugee camp on the local vegetation condition using remote sensing: A case study of Kakuma, Kenya. Proceedings of the 2004 IEEE International Geoscience and Remote Sensing Symposium, III, Geoscience and Remote Sensing Society, pp.1547-1550.
  • 太田至、2004「家畜という資源:等価性と外部性を考える端緒として」文部科学省科学研究費補助金・特定領域研究『資源人類学』総括班(編)『資源の分配と共有に関する人類学的統合領域の構築―象徴系と生態系の連関をとおして』資源人類学総括班、pp.324-328.
  • 太田至、2004「アフリカの『難民問題』を考える:国際シンポジウムの報告」『JANESニュースレター』12: 35-39.
  • 太田至、2004(解説)「伊谷純一郎『トゥルカナの自然誌』」『文化人類学文献事典』弘文堂、p.319.
  • 太田至、2004(解説)「伊谷純一郎『大旱魃―トゥルカナ日記ー』」『文化人類学文献事典』弘文堂、p.320.
  • 太田至、2004(解説)「伊谷純一郎『森林彷徨』」『文化人類学文献事典』弘文堂、p.320.
  • 太田至、2004(解説)「コリン・ターンブル『森の民』」『文化人類学文献事典』弘文堂、p.511.
  • 太田至、2004(解説)「コリン・ターンブル『ブリンジ・ヌガク―食うものをくれ―』」『文化人類学文献事典』弘文堂、p.512.
  • 太田至、2004(解説)「コリン・ターンブル『アフリカ人間誌』」『文化人類学文献事典』弘文堂、p.512.
  • 太田至、2004(解説)「コリン・ターンブル『豚と精霊―ライフ・サイクルの人類学―』」『文化人類学文献事典』弘文堂、p.513.
  • 梶茂樹、2004「アフリカ言語調査雑感―語彙集に書けないこと、あるいは語彙集を作りつつ思うこと―」『アフリカ文学研究会報MWENGE』No.32:17-20.
  • Mizuno, K. 2005.Glacial fluctuation and vegetation succession on Tyndall Glacier, Mt. Kenya. Mountain Research and Development, 25: 68-75 (in press).
  • Mizuno, K. 2005. Vegetation succession in relation to glacial fluctuation in the high mountains of Africa. African Study Monographs, Supplementary Issue No. 30 (in press).
  • 水野一晴、2005「温暖化によるケニア山・キリマンジャロの氷河の融解と植物分布の上昇」水野一晴(編)『アフリカ自然学』古今書院、pp.76-85.
  • 中村香子、2004「戦士の『情報技術』」『まほら』41:42-43. 旅の文化研究所
  • 坂井紀公子、2004「トマトの違い―ケニアのマチャコス公設マーケットで野菜小売商から学んだこと―」『アジア・アフリカ地域研究』4(1):155-160.
  • 内藤直樹、2004「『行為先行的な規範』と『同一経験の共有』との間の相互反照的な関係:北ケニア牧畜民アリアールにおける結婚開始儀礼の事例から」『アフリカレポート』 No.39:26-32.
  • 佐藤靖明、2004「人とバナナが織りなす生活世界―ウガンダ中部ブガンダ地域におけるバナナの栽培と利用―」『ビオストーリー』2:106-121.
学位論文
  • 孫暁剛、2004 Continuity and Dynamics of Pastoral Subsistence among the Rendille in Northern Kenya: With Special Reference to Livestock Management and Response to Socio-Economic Changes(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科、博士学位論文、2004年12月).
学会などでの口頭発表
  • 中村香子、2004「無心する側の論理」『特別フォーラム「無心の壁―アフリカ人の個人的援助要請とのしのぎあい;その意味を探ろう」』日本アフリカ学会第41回学術大会(於:中部大学,2004年5月)
  • 内藤直樹、2004「北ケニアの牧畜民アリアールにおける複合的な民族アイデンティティ形成」日本アフリカ学会第41回学術大会(於:中部大学、2004年5月)
  • 孫暁剛、2005「遊牧民の定住化にともなう資源利用の変化:北ケニアのレンディーレ社会の事例から」『資源と人間ワークショップ2』(文部科学省科学研究費補助金・特定領域研究:資源の分配と共有に関する人類学的統合領域の構築)(於:熱海、2005年3月)
  • Sato, Y. 2004.Interaction between Cultural Selection and Banana Diversity: A Case Study of Ganda Banana Gardens in Uganda(第9回国際民族生物学会、2004年6月、英国)。
  • 白石壮一郎、2005「『酒の労働』から『カネの労働』へ?:ウガンダ東部、山地農耕民 Sabiny 社会における労働交換の規範と組織原理」アフリカ・モラル・エコノミー研究会(2005年1月)。
ワークショップの企画・主催など
  • 白石壮一郎、2004(ワークショップの企画・運営)『京都ワークショップ:フィールドワークから紡ぎ出す―発見と分析のプロセス―』(21世紀COEプログラム『世界を先導する総合的地域研究拠点の形成』による開催。2004年10月30-31日、京都)。
 

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