:: 平成16年度 フィールド・ステーション年次報告
ザンビア
(1)概要:
ザンビア・フィールド・ステーション(以下ザンビアFS) は、「南部アフリカにおける社会経済変動と環境・地域住民の変容」をテーマに、南部アフリカ諸国に共通する問題についてのネットワーク研究をめざして活動をおこなっています。
調査対象国は現在、ザンビア、ボツワナ、ナミビア、ジンバブウェ、マラウイ、南アフリカです。
今年度はASAFAS教員と大学院生、計5名が派遣されました。また11月から3月までの5ヵ月間、ザンビア大学経済社会研究所・所長代理のムレンガ博士がASAFAS客員研究員として滞在され、数回のセミナーおよび研究会がもたれました。
また、平成17、18年度に予定されている、国内および国外(ザンビア:ルサカ)のワークショップにむけて具体的な活動計画を作成しました。
 
(2)研究活動および教員、学生の派遣:

村尾るみこ(平成12年度入学)は、2004年4月1日から8月4日までの期間、ザンビアにおいてアフリカ南部に広がるカラハリ砂層帯に暮らす人びとの生業に関する現地調査をおこないました。ザンビア西部セナンガ県リニュク村において、アンゴラ紛争を逃れて移住してきた人びと(以下、移住民)が、新たな自然環境・社会環境の中で、どのように生活を再編成してきたのかを、移住前後の政治・経済的背景の変化とそれに伴う耕地利用の変遷から明らかにしました。マクロな政治・経済的背景の変化については、大学図書館や中央統計局などで、またミクロなものについては村での聞き取りにより情報を収集しました。耕地利用の変遷はGPSで実測し、分配、相続、処分に関する情報とあわせて調査しました。さらに、生業の中心となっているキャッサバ栽培についても調査しました。

収穫されたキャッサバのイモ(総重量30kg)。
収穫後、水に浸して発酵させ、乾燥したものが5人家族2日分の主食となる

藤岡悠一郎(平成14年度入学)は、乾燥地域における樹木利用の変容と植生動態を研究テーマとして2004年8月から2005年3月までナミビアにおいて現地調査をおこないました。調査はナミビア北部に住む農牧民オヴァンボを対象とし、特に植生の変化が著しい都市近郊の村で実施した結果、以下の点が明らかになりました。

  1. ブッシュ・エンクローチメントによる植生変化と住民の利用による樹木の減少が問題となっている調査村では、人口密度の低い遠隔地に設けられたウシの放牧キャンプの周辺土地が、樹木資源および食用となる動植物資源を利用する上で重要な役割を担っている。
  2. ウシの放牧キャンプを持たない大部分の世帯においても、それを持つ世帯からの贈与によって資源の利用機会を得ている。特に近所に住む世帯間の関係は「首の骨のようなもの」と表現されるほど重要視され、様々な自然資源が近所間で贈答されている。
  3. 樹木の中で最も重要視されてきた果樹に関しても近年では伐採の対象となりつつある。
オヴァンボの果実酒づくり:マルーラの果実が熟す雨季の間、オヴァンボの女性は果実酒づくりに忙しい

荒木茂(ASAFAS教員)は、2004年11月11日より12月3日にかけて、ザンビアおよびジンバブウェにおいて、フィールド・ステーションの整備(現地ステーション活動の項参照)、院生の臨地研究指導、および現地調査をおこないました。ザンビア北部州ムピカ県においては、タザラ回廊農業開発プロジェクト地域の入植状況に関する現地調査を、ルサカ市チャンババレーにおいては成澤徳子(平成16年度入学)、中央州シアボンガ県においては淡路和江(平成16年度入学)の臨地研究の指導をおこないました。

ザンビア中央州シアボンガ県の村の自宅前で村人と記念撮影する淡路さん

ジンバブウェにおいては、南部マシンゴ州において、白人所有の商用地域と伝統的な共有地における土地利用の実態に関する調査をおこなった結果、もともと人口希薄地帯であったこの州では、北部高地にみられたような白人の土地収奪は顕著にはみられなかったこと、共有地ではショナの人々の人口増加により土地不足が顕在化しており、それが背景となって商用地域への黒人の侵入がおこっている現状が明らかとなりました。

水野一晴(ASAFAS教員)は、2004年11月17日から12月5日まで、ASAFASの大学院生、吉田美冬(平成16年度入学)の調査経過の把握のため、ナミビアに出張しました。ナミビアのウインドフックでは、ナミビア砂漠研究所を訪れ、半乾燥地の環境変動に関する情報交換および研究連絡をおこないました。そしてカオコランドのプロスを訪れ、ゾウによる森林破壊の程度やその影響について観察し、またゾウをとりまく環境や人間活動について調査しました。近年、プロスのゾウの個体数や村の人口が増えているため、その原因や影響について検討しました。現地では藤岡悠一郎、吉田美冬とゼミをおこなって植生−動物−人間活動のかかわりについて議論し、また、吉田の博士予備論文に対する指導をおこないました。

ナミビア・カオコランドのプロスにおいて、ゾウの生態と自然環境の調査をしている吉田さん

高田明(ASAFAS教員)は、2005年2月20日から3月14日にかけて、ボツワナ共和国およびナミビア共和国において、研究の拠点形成および研究体制の確立のため、下記の活動をおこないました。ボツワナ共和国では、ボツワナ大学のサン/バサルワ調査・能力開発プログラムの関係者を訪問し、プログラムの活動内容について説明を受けるとともに今後の研究を通じた相互交流についての打ち合わせをおこないました。ナミビア共和国では、ナミビア大学、ハイデルベルグ大学、マンチェスター大学の研究者とナミビア北部における人類学的研究に関する情報交換を行うとともに、当地で研究をすすめているASAFASの大学院生、藤岡悠一郎の調査地を訪問し、今後の調査方針に関する討論をおこないました。
  また、ナミビア大学においてサンの住民組織運動に関する資料収集、ナミビア北部(オニーパ)にあるナミビア福音ルーテル教会の資料館においてサンと宣教団との歴史的関係に関する資料収集、ナミビア北部のエコカ村においてサンの開発プロジェクトに関する調査をおこないました。

UNESCOは、オハングエナ地域のサン・コミュニティにおいて、子どもの初期発達の支援・トレーニングのためのプロジェクトを実施している。
その基地を訪れたオバンボの子ども(前)とサンのこども(後)
 
(3)現地ステーションの活動:

現地ステーション機能の整備
  在ザンビア日本大使館勤務の日本人宅に設置されたコンピュータは、日本とのメール連絡、情報収集ツールとして有効に機能しています。また、GISを利用した参加型データベースを構築しつつあり、南部アフリカ研究者が随時、データの集積をおこなっています。今年度にはザンビアの基本図、ディジタル標高データ、ランドサット画像などのインストールをおこないました。
国内および国際ワークショップの準備
  ザンビアFSでは、平成18年度の夏にルサカにおいて本プログラムの主催による国際シンポジウムを開催すること計画しています。これまで臨地研究の実績がつまれてきた南部アフリカの諸国(ザンビア、ナミビア、ボツワナ、マラウイ、ジンバブウェ)の成果を共有するとともに、諸国間の研究ネットワークを強化することが目的です。その前段階として、平成17年度末には国内ワークショップを東京でおこない、本プログラムの研究成果を広く公表するとともに、論点を明確にしてゆく計画です。このワークショップの共通テーマとしては「南部アフリカの『土地』を考える:自然・生活・制度の視点から」を予定しており、それぞれの発表テーマからの文理融合をめざします。こうしたワークショップの準備・開催は、大学院生を中心とする「南部アフリカ地域研究会」が担当します。

 
(4)南部アフリカ地域研究会の活動:

南部アフリカ地域研究会は、本プログラムによるザンビアFS開設を機に、院生による発案によってスタートしました。2003年5月における最初の会合においては、本プログラムによる派遣対象となる大学院生だけでなく、南部アフリカをフィールドとする大学院生や教官が参加して、「南部アフリカ」という枠組の中で、各自の研究を捉えなおしてみようという機運が生まれました。そして南部アフリカに関する情報を交換するとともに、議論を深める場をつくることが提案され、2003年9月には第1回の研究会が開催されました。

これまでの参加者(敬称略):

荒木、島田、水野、高田、秋山、中山、岡本、丸山、村尾、藤岡、宮下、宇野、伊東、飯田、吉川、中山(美)、吉田、成澤、淡路、荒木(美)、ムレンガ、その他学内外の研究者が随時参加。

これまでの研究会:
  • 第1回、2003年9月17日、15時より合同棟5階ゼミ室にて。村尾るみこが11月からのフィールド調査計画を発表。
  • 第2回、2004年7月22日、15時より合同棟5階ゼミ室にて。吉田、淡路、成澤、藤岡が研究関心と調査計画について発表。
  • 第3回、2004年9月24日、16時より合同棟5階ゼミ室にて。村尾るみこが 調査報告と今後の研究の方向性について発表。
  • 第4回、2004年12月17日、16時より合同棟5階ゼミ室にて。山本久太(ケープタウン大学社会人類学科)が「疎外と再編入:ケープタウンにおける、あるストリートユース更生プログラムの考察から」という演題で発表。発表者は、ストリートユース(16歳から25歳までの路上生活者)を対象とする更生プログラムを受講している男性とその更生プログラムを運営する職員を対象にインタヴューを行ない、ストリートユースが社会から疎外され、また更生プログラムを通して社会へ再編入される過程を論じました。
    また、荒木茂は「南部アフリカを特徴づけるもの−路上観察の結果から」という演題で、ナミビア、ザンビア、ジンバブウェ、南アフリカの各地の農村と都市において共通にみられる諸要素(植民地時代の遺制とその後の展開)について紹介しました。
 
(5)ザンビアFSに関連する研究業績:
論文など
  • 荒木茂、2005「土壌からみたアフリカ」水野一晴(編)『アフリカ自然学』古今書院、pp.35-46。
  • Araki, S. 2005.Change in population and land use intensities in several villages of the four northern Regions of Namibia. African Study Monographs, Supplementary Issue, 30 (in press).
  • 水野一晴、2005(編著)『アフリカ自然学』古今書院、270pp。
  • 水野一晴、2005「近年の洪水減少でクイセブ川流域の森林が枯れていく理由」水野一晴(編)『アフリカ自然学』古今書院、pp.115-129。
  • 水野一晴・山縣耕太郎、2005「ナミブ砂漠・クイセブ川流域の環境変遷と砂丘に埋もれてゆく森林」水野一晴(編)『アフリカ自然学』古今書院、pp.106-114。
  • Mizuno, K. 2005. Environmental change in relation to tree death along the Kuiseb River in the Namib Desert. African Study Monographs, Supplementary Issue, 30 (in press).
  • Mizuno, K. and K. Yamagata, 2005.Vegetation succession and plant use in relation to environmental changes along Kuiseb River in the Namib Desert. African Study Monographs, Supplementary Issue, No. 30 (in press).
  • Yamagata, K. and K. Mizuno, 2005.Landform development along the middle course of the Kuiseb River in the Namib Desert、 Namibia. African Study Monographs, Supplementary Issue, No. 30 (in press).
  • Murao, R. 2005. A study on the shifting cultivation system in Kalahari woodland、 western Zambia.In (K. Shigeta & Y. D. Gebre, eds.) Environment, Livelihood and Local Praxis in Asia and Africa. African Study Monographs, Supplementary Issues, No. 29 (in press).
  • 島田周平、2004「(書評)杉村和彦(著)アフリカ農民の経済−組織原理の地域比較」『文化人類学』69-3: 460-465。
  • 高田 明、2005「ナミビア北部におけるサンとオバンボの関係史」『アフリカレポート』40: 11-16。
  • 高田 明、2005「ブッシュマンは自然を覚えて旅をする」水野一晴(編)『アフリカ自然学』古今書院、 pp.183-194。
  • 野中健一・高田 明、2004「砂漠の道標: セントラル・カラハリ・ブッシュマンのナヴィゲーション技術」野中健一(編)『野生のナヴィゲーション: 民族誌から空間認知の科学へ』古今書院、 pp.23-54。
  • 高田 明、2004「移動生活と子育て:グイとガナにおけるジムナスティック場面の特徴」田中二郎・佐藤俊・菅原和孝・太田至(編)『遊動民:アフリカの原野に生きる』昭和堂、 pp.228-248。
学会などにおける口頭発表
  • 荒木茂、2004「ナミビア北中部・オバンボランドにおける10年間の人工変化と土地利用の変遷」日本アフリカ学会第41回学術大会(於:中部大学、2004年5月)。
  • 荒木茂、2004「アフリカ研究とGIS」東京大学シンポジウム『空間情報科学と最新地図学』(於:於東京大学山上会館、2004年9月10日)。
  • 飯田雅史、2005「ジンバブウェの社会変化と女性住民組織」日本文化人類学会近畿地区修士論文発表会(於:京都文教大学、2005年3月)
  • 水野一晴、2004「ナミブ砂漠クイセブ川流域における樹木枯死と環境変動」日本アフリカ学会第41回学術大会(於:中部大学、2004年5月)。
  • 水野一晴、2004「ナミブ砂漠クイセブ川流域における樹木枯死と環境変動」日本地理学会春季学術大会(於:東京経済大学、2004年3月)。
  • 岡本雅博、2004「ザンベジ川氾濫原の人と暮らし−フィールドワークを考える」農耕文化研究振興会第45回研究例会『さまざまなフィールドワーク−技法と実践のあいだ』(於:京大会館、2004年6月18日)。
  • 島田周平、2004「アフリカにおける人間の安全保障」日本学術振興会『人文・社会科学振興のための研究事業プロジェクト』(於:霞ヶ関ビル・プラザホール、2004年1月10日)
  • 島田周平、2004「アフリカ農民のポリティカル・エコロジー」日本大学生物資源科学部大学院特別講義(於:日本大学、2004年6月11日)
  • 島田周平「アフリカの中のナイジェリア」総合政策研究所研究会(於:東京、2004年6月14日)
  • 島田周平、2004「農村社会における『過剰な死』の影響について」アフリカ日本協議会食料安全保障研究会 第5回セミナー(於:東京外国語大学、2004年11月13日)。
  • Takada, A. 2004.Infant Directed Speech among the !Xun of North-Central Namibia. Paper presented at the 103 Annual meeting of American Anthropological Association, Atlanta, GA, 15-19 December 2004, Abstracts, p. 440.
  • Takada, A. 2004.The Development of Social Interaction: An Ethnographic Study of the San of Southern Africa. Paper presented at the Symposium: Child Development in Culture, Fukuoka, Japan, 6-7 November 2004.
  • 高田明、2004「初期音声コミュニケーションと社会的制度:セントラル・カラハリ・サンにおける乳児への呼びかけと“詩”」第13回こころとからだ研究会(於:滋賀県立大学人間文化学部、2004年10月22日)。
  • Takada, A. 2004.The Importance of Gesture and Grammar in Displaying Directional Markers: Evidence from the San of the Central Kalahari. Paper presented at an International Workshop: The Construction and the Distribution of Body Resources, Kyoto, Japan, 27-29 September 2004.
  • 高田明、2004「砂漠のトポグラフィ:セントラル・カラハリ・ブッシュマンのナヴィゲーション実践」プロジェクト研究会『土地・自然資源をめぐる認識・実践・表象過程』(於:東京外国語大学アジア・アフリカ言語文化研究所、 2004年7月3日)。
  • Takada, A. 2004.Early Vocal Communication and Social Institution: Appellation and Verse Addressing Infant among the San of the Central Kalahari. Paper presented at the 10th Annual Conference on Language, Interaction, and Culture, Los Angeles, CA, 13-15 May 2004.
学位論文
  • 飯田雅史、2005『ジンバブウェの社会変化と女性住民組織』(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科、博士予備論文)。

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