:: 平成16年度 フィールド・ステーション年次報告
インドネシア(マカッサル)
  (1)研究活動:
    90年代後半、インドネシアは大きな変容を迎えました。アジア経済危機の影響を受けてインドネシアの経済は大打撃を受けたからです。そして、32年間続いた権威主義的なスハルト体制が崩壊してインドネシアは民主化・地方分権化の時代に入りました。外国人による調査も以前と比べれば非常に容易になりました。では、地方ではこの変容の中で何が起きているのでしょうか。マカッサル・フィールド・ステーション(以下MKSFS)は、この問いに答えることも目的の一つとしています。MKSFSは2003年9月9日にインドネシア国立ハサヌディン大学(UNHAS)構内に、研究活動の基盤基地となる「MKSFS-UNHAS共同研究室」を開設しました。2004年3月までに、のべ3名のASAFAS院生が派遣されています。2004(平成16)年度には、田中耕司(CSEAS教員)を研究代表者とする科研プロジェクト「インドネシア地方分権下の自然資源管理と社会経済変容:スラウェシ地域研究に向けて」(基盤研究(A)(2)海外学術調査)が発足し、UNHASと本格的に共同研究を行う体制が整いました。
同年8月には、ASAFAS院生3名(博士論文用調査2名(島上宗子−平成15年度第3年次編入学、Andi Amri−平成12年度入学)、博士予備論文用調査1名(高橋聖和−平成16年度入学)も加わって、日本側・UNHAS側合計19名で本科研による約1週間の予備調査を南スラウェシ州で行いました。その後、11月にASAFAS院生1名(楠田健太−平成13年度入学)が博士論文作成のためにMKSFSに派遣され、12月には楠田さん 指導とUNHAS側との共同研究の打ち合わせのためにCSEAS教員の田中耕司がMKSFSに派遣されました。
2005(平成17)年度には、南スラウェシ州のタナ・トラジャ県とルウ県、そしてスプルモンデ諸島を主な調査対象地区としてASAFAS院生、UNHAS側院生を含める形で共同研究を本格的に始めます。
 
     
     
     
     
   
  (2)「MKSFS-UNHAS共同研究室」の整備:
    MKSFSでは、日本からの大学院生の調査研究活動の拠点となることのほかに、もうひとつ、大きな目的を掲げています。それは日本とインドネシアの研究者が自由に意見を交換し、議論を発展させるための環境を整備し、総合的地域研究の最前線基地となることです。現在の「21世紀COEプログラム」が期間を終了してからも、なお、ここで築き上げた国際的な調査研究活動の礎を、さらに発展的かつ持続的な知的空間として共有することを念頭においています。CSEASや UNHASの教官たちが磨き上げてきた臨地調査の手法を、調査の現場において大学院生たちに実践的に教育することが、現行の「21世紀COEプログラム」 において、MKSFSを整備することの意義であると考えています。
  そのために、2003年度、2004年度は臨地調査活動のための基盤整備に加えて、UNHASとASAFASが共同で大学院生の教育活動および共同調査活動おこなうことを支援するための環境を整備しました。
臨地調査活動支援:デスクトップ・パソコン/デジタルハンディカメラ
デジタルカメラ等の整備教育活動および共同調査活動支援:ポータブル・プロジェクター整備/スラウェシ地域研究レファレンス図書室整備/スラウェシ島地形図整備
今年度の研究活動支援の中では、スラウェシに関する博士論文その他文献の収集、そしてスラウェシ周辺海域の海図の購入が特筆されます。その結果、現在までに232冊の図書、386枚の陸図・海図がそろいました。これらの資料はしばしば、インドネシア国内においても入手困難な文献資料であり、CSEAS図書室や地図室データベース等にも所蔵されていないものが含まれています。フィールドにおいては調査活動に専念すべきであることは当然としても、小さな疑問を現場で解決できる機会は必要です。日本の大学院生だけでなく、インドネシアの大学院生もが、いつでも自由にこれらの文献資料を利用できる環境を整備することも、MKSFSの役割であると考えています。
 
   
  (3)関連する教員、院生の研究業績:
    論文
  • Mizuno, Kosuke, 2005. The rise of labor movements and the evolution of the Indonesian system of industrial relations: A case study. The Developing Economies 43-1, pp. 190-211.
  • 水野広祐 2004 「労働者組織の台頭と労使関係制度の展開―インドネシアにおける安定的な労使関係の成立に関する事例研究―」 佐藤百合編『インドネシアの経済再編−構造・制度・アクター』(出版者:アジア経済研究所), 387-425頁所収.
  • 岡本正明 2005 「再集権化するインドネシア−内務省による権限奪回とユドヨノ新政権の展望」,(財)国際金融情報センター編『インドネシアの将来展望と日本の援助政策』, 43-56頁所収.
  • 岡本正明 2004 書評 「玉田芳史『タイにおける民主化の虚像と実像』」『アジア・アフリカ地域研究第4号』, 136-140頁所収.
  • Okamoto Masaaki, Local Politics in Decentralized Indonesia: the Governor General of BantenProvince, IIAS Newsletter No.34, p.23.
  • 岡本正明 2005 「再集権化するインドネシア−内務省による権限奪回とユドヨノ新政権の展望」『インドネシアの将来展望と日本の援助政策』, (財)国際金融情報センター, 43-56頁所収.
  • 岡本正明 2005 「荒れなかった2004年総選挙−インドネシアにおける『政治と暴力』の歴史をふまえて」 松井和久編著『2004年インドネシア総選挙と新政権の始動−メガワティからユドヨノへ』(仮題), 明石書店(印刷中).
  • 岡本正明 2005 「分権・分離モデルから弱い集権・融合モデルへ−新地方分権制度と内務省の勝利」 松井和久編著『2004年インドネシア総選挙と新政権の始動−メガワティからユドヨノへ』, 明石書店(印刷中).
  • 岡本正明 2005 「5年おくれの「改革」−2004年インドネシア・南スラウェシ州におけるゴルカル党の凋落」『アジア研究第51巻第2号』, (印刷中).
  • 岡本正明 2005 「インドネシアにおける地方政治の活性化と州『総督』の誕生−バンテン地方の政治:1998-2003」『東南アジア研究』(印刷中).
  • Andi Amri, Mangrove Plantation and Land Property Rights: A Lesson from the Coastal Area of South Sulawesi, Indonesia. Journal of Southeast Asian Studies (in press)
口頭発表
  • Tanaka, Koji. "Diversity of Asian Rice Farming: History, Ecology, and Culture." APO Seminar "Rice is Life: Various Aspects of Rice-Based Agricultural Systems" Sep. 8, 2004, Rose Hall, United Nations University. (APOは、アジア生産性機構の略称)
  • Tanaka, Koji. "Japan as a Member of Asian Rice-Growing Region: Past, Present, and Future." APO Symposium. Sep. 15, 2004, Rose Hall, United NationsUniversity.
  • 田中耕司、「グローカル時代の資源管理−『地域』の視点から」、全国国立大学附置研究所所長会議第三部会シンポジウム、2004年11月11日、学士会館。
  • Tanaka, Koji. "Man and Nature in Sulawesi: Issue of Natural Resources, Management." Orientation for FASID Fieldwork Program, Jan. 8, 2005, National Olympic MemorialYouthCenter.
  • 島上宗子、「地方分権化と村落自治―タナ・トラジャ県における『慣習復興』の背景と問題点」、東南アジア史学会第71回研究大会シンポジウムII 『地方分権化という課題を考える―インドネシアの事例から』、2004年6月13日、東京大学。
  • 岡本正明、「ガバナンス:地方政治と地方分権」、平成16年度財務省委嘱 『インドネシア研究会:インドネシアの将来展望と日本の援助政策』、2004年8月24日、財務省。
  • 岡本正明、「インドネシアの選挙政治:直接選挙制導入に伴う政党政治の変容」、アジア政経学会全国大会・分科会1 『東アジアにおける選挙政治』、2004年10月31日、東北大学。
 

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