:: 平成18年度 フィールド・ステーション年次報告
カメルーン
 
21世紀COEプログラムの最終年度を迎え、カメルーンFSでは下記のような活動をおこないました。
  (1)フィールド・ステーションの整備:
   

カメルーンFSの施設は現地素材100%、すなわち、建物の枠組には森から切り出した細い木をつかい、壁は泥土を塗り、屋根はラフィアヤシの葉で葺いています。FSの閉鎖後には、この地域の大半の住居と同様に土に還るようにとの配慮からですが、さすがに4,5年も経つと老朽化が進んで、雨漏りや壁土の落下がひどくなってきます。2006年10月に木村助教授が訪れた際には、建物の内部は湿気でカビだらけになっていたということです。

そのため今年度は、新しいラフィアヤシを使って屋根を全面的に葺きかえるとともに、いちばん傷みやすい屋根の頂部にトタンを張ることにしました。また、FS開設当初にンゴコ川流域の調査のために購入した丸木船も老朽化したので、これも新たに調達する必要があります。21世紀COEのプログラムは終了しても、調査拠点の必要がなくなるわけではないので、いまのうちにこれらの手当をしておかねばなりません。

カメルーンFSは、国内他大学の研究者も頻繁に利用するほか、海外の研究者等の注目もあつめており、何とか財源をみつけてFSとしての機能を維持していきたいと思います。


 
   
  (2)学生の派遣と臨地教育:
    本年度は21COEプログラムによる派遣はありませんでしたが、科研費などの別財源により以下のような調査がおこなわれました。

2005年度末から木村科研でカメルーンで調査していた稲井啓之(博士課程4年)が、2006年6月まで淡水漁労の調査をおこないました。森林地帯では、獣肉に変わるタンパク質供給源として魚類が注目されています。当初は稲井の他に理学研究科の大石孝典らが、FSの近くを流れるNgoko川での漁労の調査をしていましたが、そこの漁民の多くがカメルーン北部からの移動漁民であるため、今年から稲井が彼らの出身地である極北州のLogone川流域での調査に着手しました。

7月から8月までは市川科研によって服部志帆(博士課程6年目)が、新しくこの地域に設立されたブンバ・べク及びンキの国立公園計画と住民との関係に関する資料を収集してきました。

さらに10月からは、「魅力ある大学院イニシアティブ」のプログラムによって、大学院1年目の戸田美佳子が東部州の熱帯雨林地域において、地域社会における身障者及び発達障害者についての予備調査をおこなっています。

東部州以外では、北部州のベヌエ国立公園周辺で安田章人(博士課程3年)がスポーツ・ハンティングと住民の関係についての調査、また極北州では前述の稲井啓之が河川漁労と移動漁民の生態調査を、それぞれ別財源(科研費)により実施しています。さらに、「魅力ある大学院イニシアティブ」のプログラムにより矢野原(博士課程2年)が都市の若者のサブ・カルチャー、とくに音楽活動についての調査に着手しています。

これらの学生の指導のために、ASAFAS教員の木村大治、荒木茂及び市川光雄が科学研究費等により(一部は21COE経費による)、短期間カメルーンを訪問しています。またカメルーンFSは、ASAFAS以外の研究者・学生にも利用されており、今年度は農学研究科、理学研究科の大学院生が調査に参加しています。
 
   
  (3)現地研究者との共同研究:
   

これまでと同様に、Godefroy Ngima Mawoung博士及び彼の指導学生など、ヤウンデ大学社会学・人類学科の研究者・学生と共同研究を行いました。Ngima博士にはとくにカメルーン南部における自然保護計画の影響調査とブッシュミートの利用に関する研究を担当してもらっています。

また、チャン(Dchang)大学林学科所属で、民族植物学者であるJean Legarde Betti博士とも頻繁に連絡を取りあっているほか、地域研究統合情報センターの阿部助教授の厚意により、同博士を日本及びタイで開催された国際民族生物学会に招へいすることができました。さらに、2006年11月に開催された京都シンポジウムには、カメルーンの映像作家Cyrille Masso 氏をASAFAS研修員の分藤大翼氏の尽力により招へいしました。

FSを設置したカメルーン東部州においては、自然保護計画を推進しているWWF-Cameroon 、カメルーン森林動物省(MINFOF)、及び保護計画を支援しているドイツの政府援助団体(GTZ)等の専門家、政府役人、研究者、学生、普及員等とも緊密な連絡をとりながら調査を進めています。

 
   
  (4)カメルーンFSに関する研究業績:
   

著書・論文など

  • 市川光雄. (印刷中) 「植生からみる生態史: コンゴ、イトゥリの森」 『アフリカの力』 京都大学出版会.
  • 市川光雄. (印刷中)「ムブティ・ピグミー:森の民の生活とその変化」福井勝義, 竹沢尚一郎編『ファースト・ピープルズ〜世界先住民族の現在第5巻 サハラ以南アフリカ』明石書店.
  • 市川光雄 (印刷中)「学会展望:京都シンポジウム「総合的地域研究の新地平:アジア・アフリカからディシプリンを架橋する」『アジア経済』
  • ICHIKAWA, Mitsuo. (in press) Animal Food Avoidance among Central African Hunter-gatherers. In Dounias, D. and E. Motte, eds., Animal Symbolism, Paris: L’IRD (former ORSTOM).
  • ICHIKAWA, Mitsuo. (in press) The History and Current Situation of Anthropological Studies on Africa in Japan. The African Anthropologist (Journal of the Pan African Anthropological Association) 12(2).
  • ICHIKAWA, Mitsuo. (in prep.) Problems in the Study of Man-Nature Relationships in the Central African Forests: An Anthropological Perspective. Tropical Forests: Mediating Ecologic Constructing Rural Landscapes: Illustrating the Ecological Histories of Africa and Asia al Knowledge and Local Communities.
  • ICHIKAWA, M & H. Yasuoka, 2006 Ecology and Change in Hunter-gatherer Societies in the Western Congo Basin. African Study Monographs, supplementary. Issue. No. 33, 1-142.
  • ICHIKAWA, M. 2006. Problems in the Conservation of Rainforests in Cameroon. African Study Monographs, ,supplementary issue 33: 3-20.
  • 木村大治. (印刷中) 「平等性と対等性をめぐる素描」『人間文化 (神戸学院大学人文学会)』
  • 木村大治. (印刷中) 「バカ・ピグミーは日常会話で何を語っているか」重田眞義編 『アフリカの力』 京都大学学術出版会.
  • 木村大治. (印刷中) 「フィールドにおける会話データの収録と分析」 田中ゆかり・伝康晴編 『講座 社会言語科学 6 「方法」』 ひつじ書房.
  • 木村大治. 2006. 「生態人類学と『体力』」『アフリカ研究』68: 80-83.
  • 山越言. (印刷中)「野生チンパンジーとの共存を支える在来知に基づいた保全モデル−ギニア・ボッソウ村における住民運動の事例から−」『環境社会学研究』12:
  • 山越言. 2006. 「生きもの博物誌:ヒトとチンパンジーの差は数パーセント」『月刊みんぱく』30(4): 20-21.
  • YAMAKOSHI, G. 2006 ”An Indigenous Concept of Landscape Management for Chimpanzee Conservation at Bossou, Guinea,” Proceedings of the Kyoto Syposium: Crossing Disciplinary Boundaries and Re-visioning Area Studies: Perspectives from Asia and Africa.
  • 分藤大翼2007(印刷中)「ポスト狩猟採集社会の文化変容―仮面儀礼の受容と転用―」  『アジア・アフリカ地域研究』6(2):
  • 分藤大翼2007(印刷中)「映像と人類学の新しい関係:映像人類学の現在」『文化人類学分講演記録集』神戸学院大学地域研究センター.
  • 分藤大翼2007「アフリカの光を受けとめるために−映画監督シリル・マッソ氏の紹介をつうじて」『アフリカNOW』75: 16-21.
  • 分藤大翼2006「世界の映像人類学事情」北村皆雄、新井一寛、川瀬慈編 『見る 撮る 魅せるアジア・アフリカ−映像人類学の新地平−』新宿書房pp.232-238.
  • 分藤大翼2006「『他者』としての私を撮る−カメルーン、森の民とともに−」北村皆雄、新井一寛、川瀬慈編 『見る 撮る 魅せるアジア・アフリカ−映像人類学の新地平−』新宿書房pp.106-123.
  • 分藤大翼2006新刊紹介「無心の壁−アフリカ人の個人的援助要請とのしのぎあい;その意味を探ろう」『文化人類学』 71(1):151-152.
  • 安岡宏和(印刷中)「アフリカ熱帯雨林における狩猟採集生活の生態基盤の再検討ー野生ヤムの利用可能性と分布様式から」『アジア・アフリカ地域研究』68(2):
  • 安岡宏和2006「狩猟採集民と農耕民の食物資源の認知と運用−カメルーン熱帯雨林の事例から」『研究彙報』16: 26-36.
  • YASUOKA, Hirokazu 2006 "Long-term Foraging Expedition (molongo) among the Baka Hunter-Gatherers in the Northwestern Congo Basin: With Special Reference to the 'Wild Yam Question'" Human Ecology: An interdisciplinary Journal, 34(2): 275-296.
  • HATTORI, Shiho(in press) "Nature Conservation Project and Hunter-gatherers' Life in Cameroonian Rain Forest" African Study Monographs, Supplementary Issue, 29:41-51.
  • HATTORI, Shiho, 2006 "Diversity and Variability of Plant Knowledge among Adult Baka Hunter-Gatherers in Cameroonian Rainforests "Proceeding of Kyoto Symposium: Crossing Disciplinary Boundaries and Re-visioning Area Studies: Perspectives from Asia and Africa: 229-235.
  • HATTORI, Shiho, 2006 "Utilization of Marantaceae Plants by the Baka Hunter-Gatherers in Southeastern Cameroon" African Study Monographs, Supplementary Issue, 33: 29-48.
  • SHIKATA, Kagari, 2006 "Historical Land Use and Vegetation Changes in the Tropical Rain Forest of Southeastern Cameroon" Proceeding of Kyoto Symposium: Crossing Disciplinary Boundaries and Re-visioning Area Studies: Perspectives from Asia and Africa
  • 四方篝、2007「伐らない焼畑 ― カメルーン東南部の熱帯雨林帯におけるカカオ栽培の受容にみられる変化と持続」『アジア・アフリカ地域研究』、6(2):
  • 四方篝、2006 21COE International Symposium (Kyoto University, 9-13NOV 2006)
  • 四方篝、2006「森は何を語るのか?−カメルーン東南部の熱帯雨林に暮らす焼畑農耕民の生活と森林植生との関わり−」『日本熱帯生態学会ニューズレター』、62: 1-7.
  • 石本雄大(印刷中)「サヘル地域の旱害・虫害下における農牧民の対処−ブルキナファソ北部I村における食料獲得活動−」『日本砂丘学会誌』53(2).
  • 遠藤聡子、2006「ブルキナファソにおける女性の装いに関する研究−衣服の所有と利用を中心に−」『国際服飾学会誌』、29: 70-81.
口頭発表など
  • YAMAKOSHI, G., 2006 “History and Ecology of Peri-Village Forests in Bossou, Guinea,” Kyoto Syposium: Crossing Disciplinary Boundaries and Re-visioning Area Studies: Perspectives from Asia and Africa, Satellite Workshop 4: Constructing Rural Landscapes: Illustrating the Ecological Histories of Africa and Asia.
  • 山越言. 2006. 「ギニア共和国ボッソウ村における精霊の森の生態史」第43回日本アフリカ学会学術大会(吹田, 大阪大学, 2006年5月27-28日.
  • 山越言. 2006. 「聖なるものをて手なずけること:ギニア・ボッソウにおけるチンパンジー研究の現状と将来」第35回ホミニゼーション研究会(犬山, 犬山国際観光センター・フロイデ, 2006年3月17-18日)
  • 分藤大翼2007「セルフ・ドキュメンタリーと映像人類学」日本マス・コミュニケーション学会、大阪市立大学2007年3月16日.
  • 分藤大翼2006「映像人類学の可能性−現状と課題−」第40回日本文化人類学会研究大会(東京大学駒場キャンパス, 2006年6月3日-4日).
  • 分藤大翼2006「映像によるアフリカ文化表象の可能性」第43回日本アフリカ学会学術大会(大阪大学, 2006年5月27日-28日).
  • 分藤大翼2004「ポスト狩猟採集社会の文化変容−バカ社会における仮面文化の受容について−」第38回日本文化人類学会学術大会(東京外国語大学, 2004年6月5日-6日).
  • 分藤大翼2002「狩猟採集民バカの歌と踊りへの関与の特徴について」第39回日本アフリカ学会学術大会(東北大学, 2002年5月25日-26日).
  • HATTORI, Shiho 2006 "Traditional Knowledge of Medicinal Plants of the Baka Hunter-Gatherers in Camerooinian Rainforest" 10th International Congress of Ethnobiology (Chiang Rai, Thailand , 05-09 NOV 2006).
  • 服部志帆2006「狩猟採集民バカの植物知識の多様性−性差・世代差・個人差の分析から−」第40回日本文化人類学会研究大会 (東京大学駒場キャンパス, 2006年6月3日-4日).
  • 服部志帆2006「植物知識の習得−カメルーン東南部、狩猟採集民バカの民族植物学」 第43回日本アフリカ学会学術大会 (大阪大学, 2006年5月27日-28日).
  • 服部志帆2006「バカ・ピグミーの民族植物学−大人世代における植物知識の個人差とその要因−」 第11回生態人類学会研究大会 (武雄温泉ハイツ, 2006年3月21・22日).
  • SHIKATA, Kagari, 2006 "History in the Forest: Relationships between Human Activities and Forest Environments in the Tropical Rain forest of Southeastern Cameroon, "Kyoto Symposium:Crossing Disciplinary Boundaries and Re-visioning Area Studies: Perspectives from Asia and Africa
  • 四方篝、2006 「伐らない焼畑−カメルーン東南部の熱帯雨林におけるカカオ栽培」第43回日本アフリカ学会学術大会 (大阪大学, 2006年5月27日-28日).
  • 稲井啓之、2006「カメルーン熱帯雨林域における漁撈活動」第43回日本アフリカ学会学術大会 、(大阪大学, 2006年5月27日-28日).
  • 安田章人、2005「カメルーン共和国ベヌエ国立公園における野生動物をめぐる地域住民と狩猟区の関係」第42回日本アフリカ学会学術大会.
  • 石本雄大、2006「西アフリカ、サヘル地域における農牧民の消費行動にみる生存戦略 −ブルキナファソ北東部I村の事例から−」2006年度日本国際地域開発学会秋季大会(明星大学、2006年11月25日).
  • 臼井拓、2005「セネガル共和国サールム川河口諸島地域におけるセレール漁民の環境利用」日本島嶼学会2005年次大会(対馬市) 09/23-25.
 

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