:: 平成17年度 フィールド・ステーション年次報告
ミャンマー
  (1)研究活動:
    これまで、21世紀COEプログラムで展開してきた共同研究ネットワークを、今後も継続するため、ミャンマーのエコツーリズムサイトの歴史と運用に関する研究を、科研のサポートを得ながら新たに始めました。ミャンマーのエコツーリズムは現在残されている多くの自然資源の活用方法として、農村開発という視点から見ても大きなポテンシャルを持っています。ミャンマーのエコツーリズムサイトの特徴として、パゴダと生物多様性保全エリアが一体となっているという傾向があります。ナショナルパークの設置基準としては、歴史的なパゴダ、寺院の存在が大きな要素になっていると言われています。神社仏閣の周辺で、殺生をしないというのは、多くの日本人にとっても容易に理解できることではないでしょうか。実際、世界遺産に指定されている下鴨神社・糺ノ森などは、豊かな生物多様性を維持しつつ、宗教施設として機能しており、多くの社叢林研究では、宗教行為のもたらす自然について議論されています。ミャンマーにおける宗教的な区域での殺生については、バガン朝時代にすでに、当時の Royal Order として殺生が禁じられています。こうした生物資源の分布(自然科学的アプローチ)、歴史的背景、宗教的背景(歴史学的アプローチ)を踏まえた上で、エコツーリズムサイトの地元経済への貢献(人文地理学的アプローチ)や、こうした状況から自分の生活場所に対する意識のありかたがどのように変遷しているのかについて、調査を展開する予定です。

また、囲い込み的自然保護が世界的に拡散しているのは、欧米文化のグローバリゼーションの一環といえそうですが、ミャンマーでは多少、事情が異なるようです。ミャンマーでは、1985年以降にナショナルパークの見直し、設立が始まりましたが、最近に作られた割には、保護区の中に有名なパゴダがあり、パゴダは大きな宗教施設として今なお機能しつつ、保護活動が行われており、人が自由に出入りできる自然保護区がエコツーリズムサイトとなっています。ミャンマーは、英領植民地であった歴史をもちますが、このようなヨーロッパ文化とのつきあいの歴史が、簡単なグローバリゼーションに陥らない要因として考えられるのではないのか、東南アジアの近隣の国のナショナルパークの現状、設立の経緯などとの比較を進めていきたいと考えています。これに関しても、本21世紀COEプログラムで培ってきた共同研究体制を軸に、ポストCOEを見据えた研究展開を拡げていく所存です。
 
     
    ミャンマー最大級の遺跡群、バガン。パゴダの中には、王の勅命により鳥獣類の殺生が禁止されたという歴史が紹介されているものもある。
同時に、周辺に農村があり、農耕も行われているという点も興味深い。
また、近くにあるポッパ山は、精霊信仰の聖地として多くの人々が訪れるとともに、野生生物の保全区域として Environmental Educational Centerもある。
 
   
  (2)共同研究の推進:
    ジュニアカウンターパートを中心に、イワラジ管区での調査を継続。調査自体はすでに軌道に乗っているので、その延長線上で、博士論文のまとめにつながるようなデータ収集を継続し、適宜、シニアカウンターパートを含めて、進捗状況の報告会を開くことで、博士論文の指導を続けている。Cho Cho Twin(ヤンゴン大学地理学科)、Thida Myint(ヤンゴン大学植物学科)らが、来年度に博士号申請予定。

  ジュニアカウンターパートの研究テーマ:

  • 「ミャンマーの農村における女性の社会役割の変遷」
    Nau Si Blut (SEAMEO-CHAT)
  • 「マウービンタウンシップの農村のインフラシステムとコミュニケーションシステムの生活への影響」
    Win Myat Aung (SEAMEO-CHAT)
  • 「マウービンタウンシップにおける経済構造の変化に伴う農村生活への影響」
    Aye Mon Kyi (UHRC)
  • 「ニャウンドン島の土地改良がもたらした農村の社会経済変化」
    Cho Cho Twin (Dept. of Geography, Univ. of Yangon)
  • 「マウービンタウンシップの交通インフラと、農村経済発展に対する影響」
    Khin Myint Cho (Dept. of Geography, Univ. of Yangon)
  • 「アランジー村、チョンゾー村における、ガーデニングのもたらす経済効果の比較研究」
    Thida Myint (Dept. of Botay, Univ. of Yangon)
  • 「マウービンタウンシップにおける水利用方法の比較研究」
    Pyone Aye (Dept. of Z
  • oology, Univ. of Yangon)
  • 「キノボリウオの生活史と繁殖生態」
    Thein Soe (Dept. of Zoology, Univ. of Yangon)
  • 「マウービンタウンシップにおける水産資源利用」
    Yin Yin Win (Dept. of Zoology, Univ. of Yangon)

 
   
  (3)学生の派遣:
    2005年11月26日 - 30日にミャンマー・フィールド・ステーション・スタディ・ツアーを実施。ASAFASから、院生のVILAYPHONE Anoulumさん、CHAMCHAN Chalermpolさん、安岡宏和さん、東南アジア研究所教員の安藤らが参加。東南アジアの3大遺跡と呼ばれるバガンの遺跡群と、21COEで共同研究を展開しているイラワジデルタの村を訪れ、ミャンマーの村落の状況をそれぞれが調査している地域と比較検討をするツアーとなった。スタディー・ツアーで訪れた地域の歴史的背景や、地理的特徴については、カウンターパートメンバーから、詳しいレクチャーを受けた。バガン遺跡群については、歴史研究所の Myint Thein さん、イラワジデルタに関しては、ヤンゴン大学地理学科の Saw Pyone Naing さんに同行してもらうことで、参加した学生は現地で実際の遺跡や地形を見ながら地域間比較の視点を深めていた。  
     
    東南アジアには、珍しい乾燥地、バガン。これは、落花生の収穫をしているところ。
ミャンマーの油っこい料理がアフリカの乾燥地の料理と共通点があるのではないか
という指摘があり、面白いスタディ・ツアーだった。なんとなく、ヤンゴンで食べるよりも、
バガンで食べたほうがミャンマーの料理はおいしいような気がするが、やはり、乾燥地起源の料理なのだろうか。
ミャンマー最大のイラワジデルタ。
今回、ヤンゴン―パテイン間を走破して、デルタの地形と農業の関わりなどを学んだ。
 
   
  (4)教員の派遣:
    若手研究員として、大西(ASAFAS)が5 - 6月、8 - 9月、11月 - 1月、2 - 3月にミャンマーに滞在し、ミャンマーのエコツーリズムサイト研究の立ち上げ、現地での共同研究の推進、特に、ジュニアカウンターパートの指導にあたった。また、安藤和雄は11月にバンコクでの国際シンポの後、上記の3名の院生に対して、イラワジデルタのマウービン郡とパッティン郡、乾燥地帯のバガン遺跡において臨地教育を行った。また、2月にカウンターパートとともに、マウービン郡の調査村とパガン遺跡周辺にて伝統的農法の調査を行った。  
   

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