:: 平成15年度 フィールド・ステーション年次報告
ザンビア
  (1)研究活動:
   

ザンビア・フィールド・ステーション(以下ザンビアFS)は、「南部アフリカにおける社会経済変動と環境・地域住民の変容」をテーマに、南部アフリカ諸国に共通する問題についてのネットワーク研究をめざして活動を行なっています。調査対象国は現在、ザンビア、ボツワナ、ナミビア、ジンバブウェ、マラウィ、南アフリカです。今年度は、教員と大学院生計4名が派遣され、以下の成果が得られました。

村尾るみこ(平成12年度入学)は、2003年10月17日から3月31日までの間、ザンビア西部州ザンベジ川東岸の村において、生態調査、農耕体系における調査をおこないました。その結果、ロジとアンゴラ移民であるブンダとの関係は村の生態環境と歴史によって様々であり、土地利用の面でも相互依存的な関係があることがわかりました。現金経済化の浸透に対して、異なる背景をもつ民族がどのような生活戦略をもって対応しようとしているのかを、生態環境との関係から明らかにしていきます。
丸山淳子(平成11年度入学)は、2003年10月25日から2004年3月10日までの期間、ボツワナ共和国ハンツィ・ディストリクト、コエンシャケネ集落およびその周辺の集落にて、狩猟採集民サンの再定住による社会変容に関する現地調査をおこない、住民間の食物の交換ネットワークと、集落内の居住形態の編成を明らかにしました。また、他の集落においても調査を開始し、1930年代以降のセントラル・カラハリにおけるサンの移住史についての資料を収集しました。以上の結果をまとめて、再定住による急激な生態・社会環境の変化へのサンの対処のあり方と、そこに見られるサン社会の特質とその変容を考察します。
中山節子(ASAFAS研修員)は、2004年1月30日から3月31日にかけて、マラウィ共和国・マラウィ湖辺の5村において、漁民のライフヒストリ、漁具の履歴に関する聞き取りを行ないました。その結果、これまで「伝統漁」と位置付けられてきた調査地での漁撈活動が、技術的にも社会的にも近代以降に南部アフリカ経済圏に包含される過程で大きく変容したものであることがわかりました。100年以上にわたる南部アフリカ諸都市への出稼ぎと経験が引き金となって、漁具や漁撈技術の革新、漁獲物の分配・流通をめぐる社会関係が変化してきた過程を、聞き取りと史料の検討から再構築します。
荒木茂(ASAFAS教員)は、2004年10月18日から11月16日にかけて、ザンビア東部州チャディザ県カリザ村とナミビア北部オムサティおよびオシャナ州の4村において、最近の農村変容に関する調査を行いました。カリザ村では、構造調整政策導入以後トウモロコシの価格維持政策が廃止された結果、農民は牛糞を利用した屋敷畑の造成、綿花、タバコなどの商品作物への転換が顕著になっています。ナミビアでは、生態環境の異なる村において畑の面積、家族構成、人口を調査し、土地の人口扶養力を算出しました。
 
   
 
    ザンビア大学 社会経済研究所スタッフと島田教授(背景はライブラリ) オシャカティの街灯つきハイウェー(ナミビア)
北部の都市オシャカティは、 近年資本の投下が著しく、 銀行、スーパー、ブティックなど カラードの人たちが 経営する店が多数出現している。
オバンボランドにおける モパネ材の伝統的家屋(ナミビア)
水道と電気のネットワークが、 オシャカティを中心に発達している。
 
     
    ウィンドフク市街(ナミビア)
丘にはさまれたアカシア叢林の中に街がつくられている。中央の高層ビル群は、目抜き通り沿いのオフィス群で、白人、カラード、黒人の ホワイトカラー族がひしめく。

ザンビア東部州の典型的農村景観
花崗岩の残丘の周囲に広がる平原の村。
構造調整前にはトウモロコシの一大産地を形成したが、
現在では綿、タバコなどへの多角化をはかっている。

 
   
  (2)現地ステーション機能の整備:
    在ザンビア日本大使館勤務の日本人宅一室を借り受け、ザンビアFSに関わる学生による情報収集、連携研究のためのコンピュータ、インターネット環境の整備を行いました。GISを利用した参加型データベースの構築と、データ収集の作業を現在継続中です。ステーション機能を充実させた来年度以降には、独立したオフィスを設置する予定です。
ザンビア大学社会経済研究所を拠点にして、日本人研究者、アフリカ人研究者の南部アフリカ研究ネットワークを構築中です。ムレンガ同研究所長、チズマヨ理学部教授がカウンタパートとなり、南部アフリカ諸国のカウンタパート同士の連携を図ります。平成17年度には、ルサカにおいてワークショップ「南部アフリカにおける社会経済変動と地域変容」を計画中です。
ムレンガ同研究所長は、平成16年11月から17年3月まで当研究科の客員助教授として招聘が予定されており、その間、集中的な研究会の開催によって、南部アフリカにおける地域研究の構図を明らかにします。
 
   
  (3)ザンビアFSに関連した研究業績:
    論文など
  • Yamaguchi, J. and Araki, S., 2003, Biomass production of banana plants in the indigenous farming systemof the East African Highland: A case study on the Kamachumu Plateau in northwest Tanzania, Agriculture, Ecosystems and Environment, 102: 93-111.
  • Araki, S., 2003, Ten Years Change in Population and Chitemene shifting Cultivation around Mpika Area, Northern Zambia, In Araki, S. (ed.) Agro-environmental Study on the Sustainability of Indigenous Agriculuture in Central and Southern Africa, 平成11-13年度科学研究費補助金〔基盤研究(A)(2)〕研究成果報告書, pp. 119-134.
  • 荒木茂、2003「アフリカ農業の地域性と持続的発展のための課題」『21世紀の国際共同研究戦略の構築』独立行政法人国際農林水産業研究センター,pp. 29−34.
  • 岡本雅博、2003「氾濫原のロジと疎開林帯のブンダ─西部ザンビアにおける民族集団間の相互交流」『アフリカレポート』37: 28-32.
  • Shimada, S., 2003, Impact of infectious disease on agricultural production in Zambia: dispersion of vulnerability through a mutual help system (島田周平編『アフリカの農村貧困問題に関する社会経済史的研究』平成12年度-14年度科学研究費補助金研究成果報告書,228p.) pp.197-213.
  • Shimada, S., 2003, The impact of HIV/AIDS on agricultural production in Zambia, African Geographical Review, 22: 73-77.
  • 島田周平、2003 「アフリカの「日常的環境破壊」−農民が直面している環境問題」『地理』 48-10: 48-57
  • 中山節子、2002「ムブナはおいしくない?―アフリカ・マラウイ湖の魚食文化と環境問題」宮本正興・松田素二共編『現代アフリカの社会変動・ことばと文化の動態観察』人文書院,pp.260-283.
  • 丸山淳子、2004「命をさがす人びと−再定住地の内と外の暮らし」田中二郎・佐藤俊・菅原和孝・太田至共編『遊動民―アフリカの原野に生きる』昭和堂,pp.249-267
  • 水野一晴・山縣耕太郎、2004 「ナミブ砂漠,クイセブ川流域の環境変化と植生遷移・植物利用」『アジア・アフリカ地域研究』3: 35-50.
学会などでの口頭発表
  • 荒木茂「衛星画像と人口センサスから見た10年間の焼畑活動の変化(ザンビア北部州)」日本アフリカ学会第40回学術大会(於島根大学、2003年5月)
  • 荒木茂「地域研究と画像解析・地理情報システム(Area study and image/GIS analyses)」フォーラム『GIS解析:社会・環境研究への応用』(於筑波大学、2003年7月)
  • 荒木茂「アフリカにおける生態地域データベース」第3回三重大学GIS研究会(於三重大学、2003年8月)
  • 伊東正顕 「ナミブ砂漠クイセブ川下流域におけるナラ植生の変化と人々の生活への影響について」日本アフリカ学会第40回学術大会(於島根大学、2003年5月)
  • 伊東正顕 「ナミブ沙漠,クイセブ川下流域におけるナラ植生の変化と住民生活に関する研究」日本地理学会2004年度春季学術大会(於東京経済大学、2004年3月)
  • 岡本雅博「ザンベジ川氾濫原におけるロジ社会の編成」、日本アフリカ学会第40回学術大会(於島根大学、2003年5月)
  • 岡本雅博「アフリカの農業における牛糞の利用」水と文化研究会・アフリカのエコトイレ導入を考えるワークショップ(於滋賀県立琵琶湖博物館、2004年3月)
  • 藤岡悠一郎「ナミビア北部オバンボランドにおける植生分布とその環境および人の利用」日本アフリカ学会第40回学術大会(於島根大学、2003年5月)
  • 藤岡悠一郎「ナミビア北部における農牧民オヴァンボの樹木利用と植生の相互変化」日本地理学会2004年度春季学術大会(於東京経済大学、2004年3月)
  • 水野一晴「ナミブ砂漠クイセブ川流域における樹木枯死と環境変動」日本地理学会2004年春季学術大会(於東京経済大学、2004年3月)
学位論文
  • 宇野大介、2004「ナミビア北部・オバンボランドにおけるトウジンビエ(PennisetumGlaucum)の品種選択」(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科、博士予備論文)
  • 藤岡悠一郎、2004「北部ナミビアにおける農牧民オバンボの樹木利用とその変化」(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科、博士予備論文)
  • 伊東正顕、2004「ナミブ砂漠・クイセブ川流域におけるナラ植生の変化と住民生活に関する研究」(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科、博士予備論文)
  • 宮下遼子、2004「マラウィにおけるペンテコステ派キリスト教に関する研究−宗教の中で移動する人々−」(京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科、博士予備論文)
 
>> フィールド・ステーション活動状況:平成15年10月現在
>> 平成15年度教員・若手研究者の報告
>> 平成15年度大学院生の報告
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