:: 平成15年度 フィールド・ステーション年次報告
カメルーン
  (1)概要:
    カメルーンFSは、カメルーン東部州、ブンバ=ンゴコ県の熱帯雨林のなかに設けられています。首都のヤウンデから県庁所在地のヨカドゥマまでは約600キロメートル、朝早くでて、うまくいけば夕方にたどり着くことができる距離ですが、FSの置かれているドンゴは、ここからさらに伐採道路を300キロメートルほど南下したところにあり、ヤウンデからはどんなに急いでも2日はかかります。すぐ近くをコンゴ川の支流であるジャー川が流れ、対岸にはコンゴ共和国の森林が広がっています。
この地域における調査は、1993年からつづけられています。熱帯雨林に強く依存して生活する狩猟採集民バカとバントゥー系、東アダマワ系の農耕民による森林利用と焼畑農業に関する研究が主なテーマです。FSをベースにして付近に住む狩猟採集民、焼畑農耕民の調査をおこなうとともに、集めた資料・標本を整理したり、情報交換や簡単なセミナー等をおこなうためのスペースとしてFSを利用しています。また、発電設備、コンピュータ、通信機器等を整備し、フィールドと研究室をつなぐ機能をもつ現地調査拠点として有効に活用しています。
平成16年度の主な活動は以下の通りです。
 
   
  (2)フィールド・ステーションの整備:
    7月〜8月の期間に市川が別財源(科研費)によりカメルーンに出張し、同時期に派遣されていた安岡宏和、四方かがりの協力を得て、ンゴコ川(コンゴ川支流)に昨年設置したFSの整備をおこないました。すでに建設されている1棟に加え、あらたに現地素材を利用して女性用の宿泊所1棟を建設しました。
大型カヌーを購入して船外機を装着するなど、流域の漁労活動や、過去の村落の移動ルートの調査などに使えるようにしました。また、太陽光発電システムやコンピュータ、電話機等を設置してインターネット環境の整備をおこない、京都及びカメルーンの関係機関との間に通信ネットワークを確立するとともに、FSからの最新情報の送信を開始しました。
 
     
    バナナ畑の土壌調査に向かう
四方かがり(ASAFAS大学院生)
バカ・ピグミーの植物利用について調査をする
服部志帆(ASAFAS大学院生)
 
     
    バカのシロアリ採集に同行する
安岡宏和(ASAFAS大学院生)
伐採が迫るバカ・ピグミーの村  
     
    巨岩の上から熱帯林を見渡す服部志帆  
   
  (3)学生の派遣と臨地教育:
    平成15年7月より8ヵ月の予定で、四方かがり(平成12年度入学)がカメルーンに派遣され、熱帯雨林における持続的焼畑農耕の確立に関する基礎調査をおこないました。また、11月からは服部志帆(平成12年度入学)が現地に派遣され、FSの北側の森に住むバカ・ピグミーの環境利用と、自然保護計画が彼らの生活に与える影響についての調査を行いました。さらに別財源により参加した稲井啓之(平成15年度入学)も、FSを利用してこの地域の漁民社会の調査をはじめました。直線距離にして100キロメートルほど北に位置する森では、昨年から派遣されている安岡宏和がバカ・ピグミーの狩猟活動に関する調査を継続し、平成15年10月に無事帰国しました
これらの大学院生との共同研究及びそれを通しての臨地教育にあたるため、市川が7-8月に、また12月から翌年の1月にかけては木村が、いずれも別財源(科研費)により現地を訪れています。
なお、カメルーンFSは、本研究科以外にも、本学理学研究科、浜松医大、山梨大、山口大などの研究者、大学院生が調査拠点として利用しており、この地域の日本人の調査拠点としての役割をも果たしています。
 
   
  (4)共同研究:
    現地研究者との共同研究は、カメルーンの調査が開始された1993年からおこなっていますが、カウンターパートであるGodefroy Ngima Mawoung博士が最近、科学省からヤウンデ大学に転出したこと、また、21世紀COEプログラムが開始されたことなどを受けて、ヤウンデ大学との間に学術交流協定の締結が望まれるようになりました。平成15年7月、市川がカメルーンを訪問した際に、ヤウンデ第一大学人文社会学部長のAndre-Marie Ntsobe教授と会談し、同学部と大学院アジア・アフリカ地域研究研究科との間に学術交流を促進することが同意され、これを受けて同年9月には、両部局の長の署名による「覚え書き」(MOU)が交換されました。今後は、大学院生の教育をも含めた現地での共同研究・教育の実施が課題となります。
FSを設置したカメルーン東部州においては、自然保護計画を推進しているWWF-Cameroon 、カメルーン森林省(MINEF)、及び保護計画を支援しているドイツの政府援助団体(GTZ)等の専門家、政府役人、研究者、学生、普及員等とも緊密な連絡をとりながら調査を進めています。平成15年12月には、これらの機関・団体と共同で、ブンバ=ンゴゴ県の県庁所在地であるヨカドゥマにおいて現地セミナーを開催し、現地派遣中の服部、四方がこれまでの調査の成果を発表しました。この会議については、現地のラジオ局の取材を受け、その内容が放送されました(会議についてはHPを参照)
 
   
  (5)研究業績:
    編著書
  • Ichikawa, M. and D. Kimura (eds.), 2003. Recent Advances in Central African Hunter-gatherer Studies (Supplementary issue of African Study Monographs, no.28, pp.1-157).
  • 市川光雄、2004『生活環境としてのアフリカ熱帯雨林に関する人類学的研究 平成12年度〜平成15年度科学研究費補助金研究成果報告書』165pp.
  • 木村大治、2003『共在感覚-アフリカの二つの社会における言語的相互行為から』326pp. 京都大学学術出版会。
論文など
  • 市川光雄、2003「環境問題に対する三つの生態学」池谷和信(編)『地球環境問題の人類学』世界思想社、44-64。
  • 市川光雄、2004「熱帯雨林のポリフォニー」『まほら』3月号。
  • 市川光雄、(印刷中)「植生からみる生態史:コンゴ、イトゥリの森」重田眞義(編)『アフリカの力』京都大学学術出版会
  • 市川光雄、(印刷中)「ムブティ・ピグミー:森の民の生活とその変化」福井勝義・竹沢尚一郎(共編)『ファースト・ピープルズ〜世界先住民族の現在第5巻 サハラ以南アフリカ』、明石書店。
  • Ichikawa, M. (in press) "Food sharing and ownership among the Central African hunter-gatherers: an evolutionary perspective." In, Widlok, T. and W. Tadasse (eds.), Property and Equality, Berghahn, Oxford.
  • Ichikawa, M. (in press) "The Japanese Tradition of Central African Hunter-gatherer Studies: with Comparative Observation on the French and American Traditions." In, Alan Barnard (ed.) Hunter-Gatherers in History, Archaeology and Anthropology, Berg Publishers, Oxford.
  • Terashima, H. and M. Ichikawa, 2003. "Comparative Ethnobotany of the Mbuti and Efe Hunter-gatherers in the Ituri Forest, Democratic Republic of Congo." African Study Monographs, vol.1/2, pp.1-168.
  • 木村大治、2003「道具性の起源」西田正規,北村光二,山極寿一(共編)『人間性の起源と進化』 pp.293-320 昭和堂。
  • Kimura, D., 2003. "Bakas' mode of co-presence" African Study Monographs Supplementary Issue 28, pp.25-35.
  • 木村大治、(印刷中)「バカ・ピグミーは日常会話で何を語っているか」『アフリカの力』 重田眞義(編) 京都大学学術出版会。
  • 木村大治、(印刷中)「フィールドにおける会話データの収録と分析」『講座・社会言語科学 第6巻 「方法」』 田中ゆかり,伝康晴(共編)ひつじ書房。
  • 木村大治、(印刷中)「身体の人類学」解説 『文化人類学文献事典』 弘文堂。
  • Shikata, K., Y. Matsushita, E. Nawata and T. Sakuratani, 2003. “Effect of Intercropping with Maize on the Growth and Light Environment of Cowpea.” Japanese Journal of Tropical Agriculture. Vol. 47. (1) pp.17-26.
  • 四方篝(印刷中)「二次林におけるプランテインの持続的生産:カメルーン東南部の熱帯雨林帯における焼畑農耕システム」『アジア・アフリカ地域研究』4
  • Shikata, K.., 2004. “Sustainable Plantain Production by Shifting Cultivation in the Secondary Forest of Southeastern Cameroon.” 市川光雄(編)『生活環境としてのアフリカ熱帯雨林に関する人類学的研究 平成12年度〜平成15年度科学研究費補助金研究成果報告書』pp. 99-106.
  • Hattori, S., 2003. Relationships of the Baka Pygmies with the Forest World: Preliminary Report . Paper Submitted to MINEF and WWF, Cameroon. pp.1-41
  • Hattori, S., 2004. “The Impact of the Nature Conservation Project on the Baka Hunter-gatherers in the Tropical Rainforest of Cameroon.” 市川光雄(編)『生活環境としてのアフリカ熱帯雨林に関する人類学的研究』(科学研究費基盤研究(A)(2)研究成果報告書)、pp.135-152.
  • 服部志帆、 2004「自然保護計画と狩猟採集民の生活:カメルーン東部州熱帯林カメルーン東部州熱帯林におけるバカ・ピグミーの例から」『エコソフィア』、13号
  • 平井將公、2003「セネガル中西部におけるAcacia albida植生の利用・形成・変容」『生態人類学会ニュースレター』No.9: 10-12
  • Biro, D., Inoue-Nakamura, N., Tonooka, R., Yamakoshi, G., Sousa, C. and Matsuzawa, T., 2003. "Cultural innovationand transmission of tool use in wild chimpanzees: Evidence from field experiments." Animal Cognition (6) pp.213-227.
  • 山越言、2003「ギニアの森の成り立ち: 景観に埋め込まれた生態史を読む」『アジア・アフリカ地域研究』3, pp.237-248.
  • 山越言、2003「道具の使用」巌佐庸、松本忠夫、菊沢喜八郎、日本生態学会(編)『生態学事典』共立出版 pp. 418-419.
  • Yamakoshi, G., 2004. "Food Seasonality and Socioecology in Pan: Are West African Chimpanzees Another Bonobo?" African Study Monographs, (25), in press.
  • Yamakoshi, G. and M. Myowa-Yamakoshi, 2004. "New observations of ant-dipping techniques in wild chimpanzees at Bossou, Guinea." Primates (45) pp.25-32.
  • Yamakoshi, G., 2004. "Evolution of complex feeding techniques in primates: Is this the origin of great-ape intelligence?" In A. E. Russon & D. Begun (eds.), The Evolution of Thought: Evolutionary Origins of Great Ape Intelligence, Cambridge University Press (in press).
  • 山越言、(印刷中)「誰がアフリカの自然を守るのか−在来環境思想に基づいた自然保護の可能性を探る−」重田眞義(編)『アフリカの力』京都大学学術出版会。
  • 安岡宏和(投稿中)「アフリカ熱帯雨林における狩猟採集生活―バカ・ピグミーの長期狩猟採集行(モロンゴ)の事例から」『アジア・アフリカ地域研究』.
口頭発表
  • Ichikawa, M., 2003. Animal Food Avoidance among Central African Hunter-gatherers. International Colloquium on Animal Symbolism, Nov.12-14, LACITO-ORSTOM, Villejuif, Paris.
  • 四方篝、2003「カメルーン東南部熱帯雨林の焼畑農業におけるプランテイン・バナナ栽培」日本熱帯農業学会第93回講演会(日本大学2003年3月27,28日).
  • Shikata, K., 2003. “Sustainable Plantain Production by Shifting Cultivation in the Secondary Forest of Southeastern Cameroon.” WWF / GTZ / MINEF / Kyoto Univ. Joint seminar (Yokadouma, Cameroon, 10 Dec. 2003).
  • 服部志帆、2003「自然保護計画が狩猟採集民に与える影響−カメルーン東部州熱帯雨林におけるバカ・ピグミーの例−」第8回生態人類学会研究大会(神奈川,2003年3月24日,25日).
  • Hattori, S., 2003. “Nature Conservation Project and Hunter-gatherers' Life in Cameroonian Rain Forest.” International Workshop of 21st Century COE Program, (Addis Ababa University, 21-23Oct・Hattori, Shiho(2003), “Nature Conservation Project and Hunter-gatherers’ Life in Cameroonian Rain Forest.” WWF / GTZ / MINEF / Kyoto Univ. Joint seminar, (Yokadouma, Cameroon, 10 Dec. 2003).
  • 平井將公、2003「セネガル中西部におけるAcacia albida植生の利用・形成・変容」生態人類学会第8回研究大会(神奈川県足柄上郡大井町いこいの村あしがら、2003年3月23・24日).
  • 平井將公、2003「Acacia albidaの「しつけ」はなぜなくなりつつあるのか?―セネガル・セレール社会における植生の維持機構の変化―」日本アフリカ学会第40回学術大会(島根大学、2003年5月31日・6月1日).
  • 平井將公、2003「木を「しつけ」する人びと:セネガル・セレール社会におけるAcacia albida植生の維持機構」日本熱帯生態学会第13回学術大会(鹿児島大学、2003年6月14・15日).
  • Hirai, M., 2003. "Utilization, Creation and Transformation of Acacia albida Farmed Parkland in West-Central Senegal ", International Workshop of 21st Century COE Program, (Addis Ababa University, 21-23Oct. 2003).
  • 山越言、2003「ボッソウ・チンパンジーにおけるアリ釣り行動の新しい観察:『マイノリティ・リポートを探せ』」第19回日本霊長類学会大会(宮城教育大学、2003年6月27-29日)
  • Yamakoshi, G., 2004. “Ant-dipping behavior for carpenter ants (Camponotus brutus) by Bossou chimpanzees.” An International Symposium, African Great Apes: Evolution, Diversity and Conservation (Kyoto, Japan, March 3-5, 2004)
  • Yamakoshi, G., 2004. “Chimpanzee conservation in West African rural landscapes: A case study in Bossou, Guinea.” The first HOPE International Workshop, Evolutionary Neighbors: From Genes to Mind(Kyoto, Japan, March 6-7, 2004)
  • 安岡宏和、2004「カメルーン熱帯雨林におけるバカ・ピグミーの長期狩猟採集行(モロンゴ)」生態人類学会,大津,2004年3月20-21日.
学位論文
  • 四方篝、2002「カメルーン東南部熱帯林における焼畑農耕の特性―栽培作物と開墾方式の視点から」京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士予備論文.
  • 服部志帆、2003「自然保護計画が狩猟採集民に与える影響:カメルーン東部州におけるバカ・ピグミーの例」京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士予備論文.
  • 平井将公、2003「セネガル中西部におけるアカシア・アルビダ植生の利用・形成・変容:有畜農業との関係から」京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士予備論文.
  • 分藤大翼、2004「カメルーン南東部、バカ・ピグミーの精霊儀礼と音楽実践における社会的相互行為」京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士学位論文
  • 安岡宏和(準備中)「アフリカ熱帯雨林における狩猟採集活動の持続性に関する研究」京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士学位論文.
 
>> フィールド・ステーション活動状況:平成15年10月現在
>> 平成15年度教員・若手研究者の報告
>> 平成15年度大学院生の報告
平成15年度 フィールド・ステーション年次報告

インドインドネシア(ボゴール) インドネシア(マカッサル)エジプトエチオピアカメルーンケニアザンビアタンザニアベトナムマレーシアミャンマーラオス
 
21世紀COEプログラム「世界を先導する総合的地域研究拠点の形成」 HOME